決闘者の資質(バクラ)

※アプリのデュエルリンクスネタ。
劇場版前日談の漫画で海馬が開発していたデュエルリンクスではなく、現実にあるスマホゲームの方を彼らもやってる設定。
ゲームやってないとわかりにくいかも







部屋の中。

ほどよく距離を取りながら、それぞれ自分のスマホに向かい合う男女が二人。

言わずもがな、バクラと私だ。

(あああ、どうしよう……!
バクラに押されて私の方が劣勢だ……
彼の場には攻撃表示のモンスターが2体。
かたや、私の場はガラ空き……!
手札にモンスターはあるけど、バクラが出してるモンスターの方が強いから守備表示で出すしかない!
ライフも、もうギリギリだし……!
次にいいカードを引けなければ……負ける!!)

「どうした? オマエのターンだぜ!
早くドローしろよ!!」

「う、うん! 私のターン! ドロー!」


スマホに目を落としながら、アプリの中で決闘(デュエル)をする私とバクラ。

まだ実装されているカードの種類がそれほど多くないにも関わらず、私は手札がかなりいい時以外は、ほとんどバクラに勝てていなかったりする。

それほど使うカードに差があるわけでもないのに……やはり実力なのだろう。


(やった、今引いたこのカードなら……!
バクラが攻撃してきても、このカードを伏せておけば大丈夫……!
よし、なら守備表示じゃなくて攻撃表示でモンスターを出しておこう!
返り討ちで彼のモンスターを破壊出来るから……!)

「私はモンスターを攻撃表示で召喚!
カードを伏せてターンエンド!」

「……オレ様のターン! ドロー!
…………」

僅かな沈黙がその場を支配する。
直後、今までスマホに向けられていたバクラの視線が、こちらをギロリと睨めつけた。

「オマエ、銀幕伏せてやがんだろ」

「えっ……!」

「バレバレなんだよ桃香……!
まぁいい。お望み通り攻撃してやるよ……!」

バクラの攻撃宣言。
彼がどんなつもりかわからないけど、それなら……!

「トラップカードオープン! 銀幕の鏡壁を発動!」

「ククッ、やっぱりな。ならば速攻魔法、ツイスターを発動させてもらう!
銀幕は破壊され、オレ様のモンスターが貴様のモンスターを粉砕するぜ!」

「えええっ、なんで……!?」

「後で教えてやるよ!
これで終わりだ! もう一体のモンスターで直接攻撃……!」

(まだ終わりじゃない、クリボールで……)

「クリボールだろ? そんなこったろうと思ったぜ!
だがな、無駄なんだよ!」

「ッ……!?」

「トラップカード発動! 天罰!
手札を1枚捨て、モンスター効果を無効にする!!」

「なっ……いやぁぁぁっ!」

――バクラのモンスターによる直接攻撃が炸裂する。

ライフポイントは……ゼロ。

私はまたバクラに負けてしまったらしい。


「はぁぁ〜……また負けちゃった……
ていうか、銀幕って戦闘の時ツイスターで潰せたんだね?
なんか私、使えたことないからずっと駄目なのかと思ってた……」

「そりゃてめえが馬鹿だからだ」

「うぅ……、まぁそうなんだろうけど……」

バクラのにべもない言い方にちょっとだけ傷ついた私は、肩を落として俯いた。

でも、彼に罵倒されるなら、それはそれで嬉しかったりもする。

骨の髄までバクラに入れ込んでしまっているのだから、これはもはや一生背負った業みたいなものだ。

そんな私に、彼は。

「仕方ねぇな、教えてやるよ。
銀幕の鏡壁を発動させるタイミングが違ェんだよ。
前々から思ってたが、オマエは相手が攻撃宣言をした瞬間に焦ってカードを発動させてやがる。
そのタイミングで出しちまうと、ツイスターでソッコー潰すことが可能になんだよ……!
銀幕を発動させたきゃ、ダメージステップに入ってからにしな」

「え……、何それ……知らなかった……」

「そんなこったろうと思ったぜ。
他にもあるぜ? 桃香、お前クリボール使おうかどうか何度か迷ったろ。
攻撃時の伏せカード発動もそうだが、要所要所での迷いがタイムラグになって、何持ってるかバレバレなんだよ」

「えー……そんなとこまで……」

「ついでに言うと、関係ねぇカードを伏せて、いかにも罠だとハッタリかましてる時もな。
オマエの考えてることなんざ、オレ様には全部筒抜けなんだよ……!
ヒャハハハハ!!!」

「…………」


さすがはバクラ、と言うべきか。

私の無駄な足掻きなど、バクラにとっては無意味に等しいのだろう。

バクラだけじゃない。
きっと強い決闘者たちは、今言ったような駆け引きみたいなものをいくつも駆使して、相手の思惑を読んで、ぎりぎりの攻防をするのだろう。

遊戯くんも、海馬くんも、舞さんも。多分城之内だって。

すごいなぁ、と素直に思った。

そんなことを考えながら、スマホに視線を落としつつもチラリとバクラの顔を伺ってみれば――

その端正で邪悪な顔――決闘者の凛々しさを湛えるバクラの顔――が一段とカッコ良く見えて、私は慌ててスマホに目を戻したのだった。

「ま……オマエに関して言えば、オレは他の誰よりもよくわかってるつもりだぜ?
どんな戦術を考えてやがるか、何を狙ってやがるか……有利なのか不利なのか、画面に出てこない細部までな。
何故だかわかるか?」

「…………っ」

バクラの茶化すような、それでいて真剣味さえあるやけに優しい声が鼓膜を震わせる。

その声は私にとって、甘い毒のようなものだ。
じわじわと身体の中を蝕んで、やがて何も考えられなくなっていく。

「ククッ……決闘してるときのオマエの様子を見てりゃ、一目瞭然だからだよ!!
余裕、焦り、楽観、悲観……
全部顔に出てるオマエを間近でチラ見してりゃ、画面上から得る情報を分析するまでもねぇんだよ!!!
ヒャハハハハハ!!!!」

一瞬、何を言われてるのかわからないと思った。

いま彼は、こうやって同じ部屋でスマホを通じて対戦をしている時に、あろうことか、直接生身の私の様子を観察していると言ったのだ。

呼吸が止まった。
やや遅れて、顔がたちまち熱を帯びていく。

「う…………、」

「なんだよ?
オレ様が思いのほか熱っぽい視線でオマエを観察してたと知って、正気を失っちまいそうってか?」

「…………」

バクラの軽口が脳髄を揺さぶる。
心臓を鷲掴みにされたような胸の痛みは、羞恥と、慕情と、劣情と――
言葉にならない、あらゆる感情だ。

ふざけてでもいい、決闘を追求するためでもいい、その為に、たとえちょっとだけだとしても、彼が私を見てくれたなんて。

天にも登るような気持ちだと思った。

そんな私の様子に気付いたのか、バクラが呆れたように嗤う。

「桃香、やっぱオマエには決闘は向いてねぇよ。
だが……その扱いやすいところは嫌いじゃねえぜ」

「……ッ!
っバクラ、ストップ……! それ以上優しいこと言うのダメ!!
ていうか心臓壊れちゃうよ……本当……」

バクラの甘い言葉に、どんどん思考が鈍っていく自分が居る。
もうダメだ……!

「おらおら、もう一戦行くぜ?
ちゃんと見ててやるからオマエの決闘をオレ様に見せてみな!!」

「ええぇ〜〜、もう無理ィィ……!!」


案の定、私がこの後バクラに勝てることは一度も無かったのだった。

冗談かわからない軽口も、やけに優しい口調も、全部彼の策略だ。
私の動揺をこれでもかというほど誘って、ただでさえ腕で劣る私に、決闘で完勝するためだろう。

やはりバクラは悪魔だ。
ああ、邪神だったっけ。

でも、それでもいい。
このかけがえのない時間、この時間こそが、何よりも嬉しくて大切なひと時なのだから――





(あっ、観察されないように別々の部屋で対戦すればちょっとは勝機あるんじゃない……?
カードのことも勉強して、決闘の腕を上げれば……!)

(お前はオレが視界の外に居ても耐えられんのか?
そんなんで満足出来んのかよ?)

(うわあぁぁそれは満足出来ないぃぃ!!)



END


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