「あのさ……バクラ」
「……何だよ」
「うーんと……
一生のお願いって、何回まで使えると思う?」
「…………ハ、」
しとしとと降り続く雨。
どんよりと厚く垂れ込めた雲が、心にも影響を及ぼしている――
そう、こんなに、下らない事を口走ってしまうくらいには。
「バカか」
返ってきたのは、当たり前の反応。無理もない。
「だよね〜……ははは……
一生のお願いは、ここぞ! という時のためにとっておかないとね……!
一時の感情で、使っていいモノじゃないよね」
「……何が言いたい」
低い声が、空気を震わせる。
胸がきゅっと締め付けられて、一瞬だけ呼吸を奪った。
「……なんにも……っ、……。」
「言え」
「……何でもないって」
「言え」
「だから何でもないっ、て……下らないことだよ!
うっかりこぼしたら、バクラに殺されそうなアレだよ……もう!」
「……フン」
はぁ、とため息をつく私。
胸を締め付ける切なさや苦しい感情は、この天気のせいで更に増幅されているように感じられる。
こんな、激情を持て余したところで、かえって苦しくなるだけだとわかっているのに。
それでも、いっこうに冷めない熱を抱えたまま私は、ソファに踏ん反り返りながらも難しそうな顔をして思索に耽っているバクラの隣に、ゆっくりと腰を下ろした。
その横顔をチラリと盗み見ていたら、闇を湛えた眼差しがこちらを見返し、思わず目が合ってしまう。
「っ、……」
慌てて視線を逸らす。
なんてカッコよくて、邪悪で、素敵な横顔なんだろう。
抑えようと心の中に押し込んだ熱が、膨れ上がって胸を圧迫する。逆効果だった。
見なきゃ、良かった。
唇を噛む。
頬にせり上がってきた熱が、思考を鈍らせる。
バクラがこっちを見ている――
だめ。視線が、泳いで……、胸を締め付ける、切なさ、が――
「ククッ……
そいつを我慢しきれるなら、お前は今ここには居ねェだろうよ」
スッと伸びた白い指先が、私の髪を軽くなぞる。
ああダメだ、もう限界。
「……ッ、すき……っ」
咄嗟にガバッと抱き着いてみれば、口からこぼれたのは溢れ出した感情の断片。
「う、うっ…………
ごめ……っ、寂し……っ、あ、う……っ
ダメ、私、本当に……っ、」
バクラの肩に顔を埋めて、抱きしめる腕に力を込めれば、頭の中は完全にバクラの存在だけに支配されてしまう。
温もりも、匂いも、固い千年リングの感触も――
どうしようもないくらい、好きで、好きで、好きで――――
「お前……
オレ様が何もしなくても、そのうち血管ブチ切れて死ぬんじゃねえか?」
「、うん……」
呆れたように漏らした声は、嘲笑を含んでいて。
それを素直に肯定した私の身体を、「バカな奴、」と吐き捨てながら抱きしめ返したバクラの掌は――
ゆっくりと、私の背中を撫で始めたのだった。
「っ……、」
ぞわぞわと背筋に走る、熱を伴った痺れ。
軽口すら叩けない。
胸の奥から噴き上がった炎が、頭の中をじわじわと甘く焼いていく。
「イイぜ……
『それ』だから、お前はお前なんだよ」
「ん……」
耳元で囁く、バクラの甘いコエ。
「バ、クラ……」
「……雨が止むまでは……な」
しとしとと降り続く雨は、なかなか止まないのだった――
(ご、ごめんなさい、私……本当に……)
(ビクビクとこちらの反応を伺いながら回りくどく探ってくるそのやり方――
てめえじゃなかったら許さねえぜ、うざってぇ)
(…………でも、直接的に言ったらそれも『うざってぇ』でしょ……?)
(言ってみな……!
好きだの寂しいだのイチャつきたいだの……
わざわざ一生のお願いなんざ付けなくても、聞いてやるぜ……? ククッ)
(えっ…………
絶対殺される気がする……!!!!)
(よぉくわかってんじゃねえか!!
ヒャハハハハハ!!!)
(どうしろと……)
END
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bkm