「じゃあ桃香、またね〜!」
「うん、また明日〜!」
「またな〜!」
連休最後の日。
いつものメンバーで集まって遊びに行くことになり、最後の休日を満喫した、その帰り。
みんなと別れ、沈みかけた夕日を眺めながら私は、帰り道が一緒だった獏良君と二人きりで帰路についていた。
しかし――
いつのまにか獏良君は、二人きりになるといつも必ず出てくるもう一人の人格――バクラになっていて。
バクラに会えた嬉しさと共に、そのあまりの逢瀬の短さに、寂寥感を感じてしまい――
いつものぶっきらぼうな調子のバクラとはろくな話もできないまま、獏良君ちのマンションが見えてきたところで、私は思わずため息をついた。
「はぁ……連休楽しかったな〜」
「…………」
「みんなと遊びに行けたしね!
まぁ、混んでたからけっこう疲れちゃったけど……」
「…………」
「明日から学校か〜……はぁ〜……」
「…………フン」
「まあ、遊んだ分また頑張らないとね……!」
「……随分とお友達ごっこを満喫したみてーじゃねえか……
学校が始まりゃ毎日そのお友達と会えるんだ……
喜ばしいことじゃねえか」
「っ……、それはそうかもしれないけど……
って、私は……その、ちょっとくらいは……バクラと……」
「何だよ」
「あっ、なんでもない!!」
「ほざけ、言いたい事があんならハッキリ言いな!!」
「あっ、」
顔の前でひらひらとさせた手を咄嗟に掴まれ、その体温に息を呑んだ瞬間、バクラと視線が絡む。
その白銀の髪は、照らされた夕日の色を映していて。
影が色濃く映える整った顔立ちと、深い闇を湛える双眼に、胸がキュッと締め付けられて呼吸を奪った。
様々な雑音が聞こえる外だというのに、一瞬で他のものは掻き消えて、バクラの存在だけが、世界の中で浮かび上がる。
「っあ……、の……」
「何だよ」
「っ……! え、……と……っ」
熱を生み、火照っていく頬。
ばくばくと高鳴る心臓の音が煩くて、狭まった喉は張り付き思うように言葉を発してくれなくて。
「言ってみな……?
どんな下らねえ事を考えてたのか……
オレ様が聞いてやろうじゃねえか」
「っ……!」
静かに囁かれ、掴まれた手はどんどん熱を帯び、汗ばんで湿っていく。
バクラに申し訳なくなって、手を離そうと手首に力を込めた。
「反抗的な態度をとるか……
やっぱてめえはお仕置きだな……!
来な!!!」
「えっ、あ……!!!!」
ぐい、と腕を引かれ、マンションの方へ引きずられていく。
「あ……!!
わ、私、今日親早く帰ってくるからもう帰らないと――」
「うるせえよ!!」
必死で吐き出した言葉を遮ってさらに引かれた腕は、エレベーターに連れ込まれたところでやっと振り払うように解放されて。
ばん、と6階のボタンを乱暴に押したバクラの手が、こちらへ伸び、呆気なく捕われた私の身体は――
バクラ、と一言発する間もなく。
噛み付くように唇を塞がれて、身動きを完全に失うのだった――――
願ったり叶ったりだろうが、と小さく聞こえた気がしたが――
それがバクラの声なのか、自分が心の中で発した言葉なのか、もはやわからないのだった――
(ええと、せめてメールだけでも送らないと……!)
(今日は帰さねえぜ)
(うわっ!!! そういうセリフやめて!!
ホント、心臓に悪いから!!
心臓発作で死ぬよ……)
(ヒャハハハ!
お前が死ぬまで言い続けてやるのも面白ェかもな!!)
(や〜〜め〜〜て〜〜)
END
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bkm