ある寒い日の光景〜バクラ編〜



「……クシュン!

……ちっ」

「……っ!!!」


バクラはその細い身体をブルリと震わせて、くしゃみの後に小さく舌打ちをこぼした。

普通の人間だったら何の変哲もないその光景に、思わず目を丸くして釘付けになる者が一人。


「っ……なんだよ、何見てやがる」

「えっ!? あ、ううん!!」

「チッ……」

バクラはもう一つ舌打ちをこぼすと、わざとらしく視線をはずしながらモジモジしている存在を睨め付けた。


「さ、寒いね……」

「……フン」

「…………」

「ハッ……何だよ?
貴様が暖めてくれるってのか?」

「え!!! いいの!?」

軽口のつもりで吐き出した言葉に、目を輝かせて勢いよくバッ、とソファから立ち上がった桃香は。


「……オレ様を暖めることが出来たら褒美をくれてやるよ」

相変わらず上から目線のバクラの態度をものともせず。


「じゃ、失礼して……」

「っおい」


耳まで真っ赤に染めながら、そっと身体をバクラに近付け――

そのまま正面から、広げた両腕でぎゅっとバクラを抱きしめたのだった。


ぎゅ〜……


「っおい……!!」


いつもなら勢いよく引きはがすところだが、バクラの冷えた身体が本能的に熱を求め、拒むことを躊躇わせる。


「バクラぁ……」


熱に浮かされた声で囁く身体から熱が伝わり、火照った桃香の頬がバクラの首筋に触れ、その暖かさに、言い返す気力さえ萎えていくのだった。


「……ちょっとは……あったかい、かな……?」

「……ああ」


思わずそう答えてしまったあとは。


冷えた指先に温かいものが触れ、互いの指が絡んで繋がれたことに気付いた時――

バクラはまた小さく舌打ちをこぼしながら、照れたように身じろいで怖ず怖ずとこちらを見上げる桃香の眼を睨んだあとで――


その無防備な唇をそっと、塞いだのだった――――







(んっ……バクラぁっ……
バクラでも……寒いことあるん、だね……っ)

(うるせえよ……、黙ってもっとオレ様を暖めるんだ、な……)

(ん……)




END


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