12月23日。
「誕生日おめでとう……! マリク……!」
「ありがとう……!!」
誕生日を迎え、皆に祝福されたマリクは、朗らかな笑顔を浮かべながら照れたように頭を掻いた。
マリク――主人格である彼は、イシズやリシド、そして瑞香に囲まれ、ケーキやご馳走を頂きながら楽しく談笑していた。
「マリク、闇人格の方は今どうしてるの?」
ケーキを頬張りながら、横にいるマリクに問いかける瑞香。
「ああ……、今は特に問題なく心の中に引っ込んでるよ。
……呼び出そうか? あいつは瑞香の前だったら大人しくしてるからさ」
「あ、いいよいいよ……!
せっかくこうして楽しく過ごしてるんだからさ!」
マリクが少し呆れたような微笑で答え、瑞香は照れたようにその申し出を断った。
「瑞香、いつも闇人格をありがとう……
貴女のおかげであの子は……」
「そんな……! 私こそ、いつもマリクを借りてしまってすいません……!
イシズさんたちと過ごす時間を奪ってしまって……」
イシズの透き通った声が瑞香をねぎらい、瑞香は慌てて答える。
そんな三人を、リシドはただ穏やかな表情で見つめていた。
――ささやかな誕生日のパーティーも終わり、瑞香はマリクに送られて帰路につく。
「瑞香……今日はありがとう……!!
君が持ってきてくれたケーキ、とてもおいしかったよ!」
「いえいえこちらこそ……! 料理ご馳走になっちゃってかえって申し訳なかったな……!
帰ったらイシズさんたちに改めてお礼を言っておいてね!」
「そんなに気を使わなくて良いよ……!
……、それよりもいいの? アイツを呼び出さなくて。
アイツ素直じゃないけど、君のこと本気で好きみたいだからさ――」
「いいのいいの!!
だってほら、最近イシズさん達も忙しい上に、闇人格の方のマリクを私が独占しちゃってるものだから、肝心のマリクが家族で過ごせてないでしょ……?
誕生日の日くらい、家族で過ごしなよ!!
闇人格も本当は家族の愛情に囲まれたいんじゃないかな……うん……」
肩を竦め、頬を掻いた瑞香は、並んで歩くマリクを見つめながら明るい声で喋った。
お互いの吐く息が、寒空の中、白くなって溶けていく。
冷たい風の中、夕日に照らされた瑞香の顔はただ輝いていて、マリクは寒さに身震いをしつつも、心の中が暖かいもので満たされたように、顔をほころばせていた――
「ふう……」
バタン、と玄関のドアを閉める。
そのまま靴を脱がず、瑞香はドアに内側からもたれかかって溜息をついた。
「………」
頭の中を、様々な感情が駆け巡る。
脳裏に浮かぶのは、マリク――闇人格の彼で。
その姿を、頭の先から脚の先まで一通り思い描いたところで――
瑞香はフッ、と自嘲じみた微笑みを浮かべると、部屋に上がり自室に直行し、着替えもせず、ベッドに突っ伏したのであった――
――頭の芯がズキリと痛む。
「ん……」
覚醒していく頭――身じろいで、少しだけ眼を開ける。
(あ……れ……?)
記憶を呼び起こす。
何が起こった……??
たしか、帰ってきて、ベッドに突っ伏したはず――
そのまま眠ってしまったのだろうか??
わけがわからなかった。
ゆっくりと、身体を起こす――
異変はすぐにやってきた。
「ッッ……!!」
腕が動かない。
「え……」
冗談かと思ってまた腕を身体の方へ引き寄せようと試みるが、瑞香の腕は両方とも肩を上げた状態のまま固まっており、手首には布のような感触が纏わり付いてその自由を奪っていた。
背筋から嫌な汗が滲み始める。
手首に力を入れて身体の方へ引き寄せようとすると、クン、という引っ張られる感覚が手首を伝って伝わってきて、それ以上腕を引き寄せることを拒んでいるのだった。
辺りに視線を走らせる――
暗闇に覆われているとはいえ、ここは間違いなく自分の部屋で、今背中をつけているのは間違いなく、使い慣れた自身のベッドだった。
「やっとお目覚めかァ……瑞香よ……」
「!!!!!!」
瑞香の鼓膜を震わせた声。
それは紛れもなく、先程まで一緒にいた男の――
闇人格の声だった――
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bkm