受信メール1件
獏良 了
本文『いますぐこい、あ』
「え……」
メールを確認した私は、ケータイの画面を見つめたまま硬直した。
この一文…………
今すぐ来い、というあたり、獏良君ではなくバクラなのだろう。
しかし、ひらがな……そして、文末についている謎の「あ」……
バクラはこの時代の生まれでは無いが、それでも宿主である獏良君のフリを難無くこなすくらいには現代文化に溶け込んでいるし、何よりTRPGではコンピュータを使いこなしていたではないか。
そんな彼が、こんな不完全な一文を送ってくるなんて……誤送信だろうか?
その可能性も彼に限っては薄いような気がしたが
(メールを間違って送信しちゃって焦るバクラとか、想像しただけで心に火がともる、可愛いすぎる!!!)
……ともかく、念のため一応返信してみることにする。
送信メール
宛先:獏良 了
本文『いますぐ?家に??』
頭の中では、未だ(メールの送信をミスるバクラ可愛い……!)などと妄想を繰り広げながら。
返信はすぐにやってきた。
やはりさっきのは誤送信で、慌てて弁解してきたのだろうか……?
メールを開けてみる。
獏良 了
『はやくこいころすぞ↑↑』
「ッ……!?」
さらに目を疑う。
え……どういうことなの……
文末の↑↑は何だろう?
頭の中に疑問符が浮かぶ。
しかし、とにかく……今すぐバクラの元に向かわないと、後で酷い目に遭わされるのは目に見えている。
私は急いで身支度をし、バクラのいるマンションへと向かったのだった――
「バクラ……?」
呼び鈴を押しても反応が無い。
鍵は開いているようだ。
そっとドアを開け、家の中に身体を滑りこませる。
嫌な予感が頭をよぎる。
もし獏良君に戻っていたらどうしよう……
息を呑んで、リビングをちらりと覗いてみた。
「遅ェんだよ……」
「あっ」
ソファーにだらし無くもたれ、足を投げ出しながらこちらを睨め付けるバクラが居た。
しかし――
いつもとは何か、違うような…………
「っ……!!」
バクラが纏うボーダーのシャツは、よれてめくれ、裾からは彼のお腹がチラリと覗いていた。
剣呑な眼差し――いつもよりも少し、眠たげで……呆けたように、ただこちらを一点に見つめている。
そして――
白い頬はほんのり赤く染まり、それだけなら、その身体が熱にでも蝕まれたのかと危惧するところだったのだが……
その艶やかな唇を半開きにして、浅く呼吸する様は、何だか…………
テーブルの上に置かれた『缶』を見て、確信する。
「バクラ……? まさか…………」
ラベルを今一度確かめようと、テーブルに近付き缶に手を伸ばした瞬間――唐突に腕を引っ張られる。
「ッ!! あっ……」
力任せに身体をソファーに引きずりこまれ、手からすり抜けたバッグが床を叩いた。
「んっ……!! んんん……!!」
塞がれた唇。
ぬるりと強引に侵入してきた舌に歯列を割られ、抵抗も出来ないままそれを受け入れた。
「やっ……ん……!」
鼻孔をつく特殊な匂い。
これは――
「や……っ、はっ、……はあっ、はあっ、はあっ……
バクラってば……っ……
お酒、飲んだでしょ……??」
「オレ様じゃ、ねえよ……!!
宿主の野郎が、勝手に……!!
チッ、クソッタレ……
何を血迷いやがったかあいつ、不良がどんなものか体験してみる、などとほざきやがって……!!
その結果、このザマだぜ……!!
ぶっ倒れそうになったから、オレ様が代わってやったんだ……!!」
「えぇっ……」
にわかには信じがたい話だった。
だってあの、非行なんて一生縁がなさそうな獏良君が……お酒だなんて……!!
「えっと……、それで、私はじゃあ、バクラの介抱をすればいいんだね……!
えっと、とにかく、お水を……!!」
バクラがあの奇妙なメールで私を呼んだ理由がわかり、何とかしなければと腰を上げる。
が――
「どこへ行こうってんだ……!!
貴様の役割なんざ、後にも先にも一つしかねえんだよ……!!」
「ッ!?」
また、グイと腕を引っ張られ、バランスを崩した身体がソファーへ引き戻される。
倒れた先でバクラに身体を捕らえられ、ソファーに押し付けられた。
「やっ……」
強引だが鮮やかな手つきである普段とは違う、余裕のない焦った大振りな動きに、違和感を覚えはするのだが――
「ん……、ああっ…!! や……、バク、ラぁ……っ!!!」
シャツを捲られ、顕わになった胸の頂点を唐突に吸われたところで、いつもの電流が身体を貫き私の理性は崩壊したのだった――――
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bkm