「うーん……」
「桃香、どれにするの?」
「うーんと……」
「袋の外側からじゃわからないわよね」
「そうなんだけどね……」
ゲームショップ亀。
遊戯君のおじいさんが営んでいるこの店に、私と杏子は来ていた。
カウンターに立つ遊戯君のおじいさんと、店内を眺めている遊戯君も一緒だ。
「ふふ、桃香がカードを見るなんて久しぶりじゃない?
遊戯たちのデュエルを見てやる気が出てきたの?」
杏子が店内をぐるりと見渡しながら微笑んで問い掛けてくる。
「うん……まあそうかな。
久々にデッキ強化でもしようかなと思って……」
ドン☆
「へぇ……それは珍しいな。
とりあえず今桃香が持っているデッキを見せてくれないか?
それを見てからどのパックを買えばいいか考えた方がいいぜ」
「ゆ、遊戯君……」
突然出てきた遊戯君のもう一人の人格に戸惑いつつも、私はおずおずと自分の持っているデッキを遊戯君に差し出した。
「うーん……これは大幅な強化が必要だな。
とりあえず、まずは……」
「おおっ、そうじゃ遊戯!!」
売場のパックをごそごそし始めた遊戯君の姿を見て、遊戯君のおじいさんがふと思い出したように壁に貼ってあるポスターを手でパシパシと叩いた。
「カードといえば、今キャンペーンをやっておるんじゃ!!
そこの新しいパックを買うと、豪華商品が当たるくじを引けるんじゃぞ!!
桃香ちゃん、どうかね? パックを沢山買ってやってみないかね?」
「じ、じいちゃん……」
チラリとくじのキャンペーンポスターに目をやれば、そこには特賞はレアカードである旨が書かれていた。
レアカード……
改めて、ここに来た目的を思い出す。
脳裏に、闇の中で白銀の髪を靡かせ、ギラつく双眸を浮かべた存在が浮かび上がる。
バクラ……
ごくたまに、バクラとデュエルをすることがある。
……と言ってもバクラと私では勝負にすらならず、あくまでもバクラのデッキ調整に付き合っているだけなのだが……
それでも、何とかバクラの役に立ちたくて、少しでもバクラとマシなデュエルが出来るようにと久々にゲームショップに足を運んだのであった。
そしてもし……あの強そうなレアカードを手に入れることが出来たら、少しは強くなれるかもしれない。
いやむしろ、あのカードをバクラに渡せば有効に活用してもらえるんじゃ……――――
「桃香……桃香ってば!
大丈夫……??」
「えっ、あ……!!
ごめん、ボーッとしてた……!!」
「どうしたの……? 何かあった?
それで、カードはどれにするの?」
「あ、うん……!!」
――そんなわけで。
「じゃ、じゃあ……!!
これ下さい!!!!」
私は思わずキャンペーン対象であるパックを箱ごと手に取り、カウンターに向かっていたのだった。
「ほっほっほ……まいどあり〜!!
箱買いとは嬉しいの……!!
……よし、ここからくじを引いておくれ!
良いのが当たるといいがのぅ……」
ゴクリ。
意を決してくじの入った箱に手を突っ込み、ガサゴソとくじを選び、引く。
「残念……!! ハズレじゃ……!
残念賞はKCのティッシュじゃ……!」
…………
「うーんまた残念!!
じゃがまだ引けるから今度こそ頑張るんじゃ!!」
…………
「ふぅむ……なかなか当たらんのぉ……
何だか気の毒になってきたのぉ……
じゃがあとまだ一回残っておる!!
最後の一回頑張るんじゃ!!」
「桃香!! 頑張って!!!」
「桃香!!」
杏子と遊戯君の声援の中、最後のくじを引き――そして、めくる。
「おおお!! 当たりじゃ!!!!」
「おおおぉ!! やったな桃香!」
「すごいわ!!」
カランカラン、と埃の被ったベルを遊戯君のおじいさんが鳴らし、どよめく二人の間で嬉しさに心を踊らせる。
「じいちゃん!!!
そ、それで、レアカードは……!?
早く見せてくれないか!?」
思わず熱くなり身を乗り出す遊戯君にちょっと驚きつつも、つられて私もおじいさんの動きに注目する――――
が。
「ほっほ……何言っておる!
当たったのはレアカードではないぞ……ほれ。
この当たりは特別賞じゃ! ほれ……!!!
イチ押し目玉商品……、そう!温泉宿泊券じゃ!!!!!
しかもペアじゃぞ、ペア!!!!!」
「………………え」
おじいさんが嬉々としてまた壁のポスターをパシパシ叩き、私を含めた三人は思わず声をハモらせた。
ゆっくりとポスターに顔を近づけよく見てみればたしかに、レアカードの記載に紛れて小さく、特賞!温泉宿泊券ペアチケットの文字が……
「温泉かぁ〜〜
いいのお〜……ワシも行きたいのぉ〜……」
温泉という言葉に思いを馳せる遊戯君のおじいさんを見て、私はいいのでおじいさんが行ってきて下さい!と言ってはみたのだが、そこはさすがに断られてしまい……
こうして私は、新しいパック一箱とペア温泉宿泊券を抱えて、複雑な思いで帰路についたのだった。
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bkm