くしゅん!!
……くしゅん!!
「うぅ……」
放課後。
教室を出たところで、どこからか流れてきた冷たい風が身体を撫でる。
教室内との温度差に思わず身震いした私は、連続でくしゃみが出てしまった。
「大丈夫か〜桃香! 風邪か〜?」
「ううん……寒くて……」
「本当寒いよね!!
最近寒くなってきたし、気をつけないと風邪引いちゃいそう!」
「ちゃんとあったかくした方がいいよ!
外と中の温度差が激しいからね……!」
久しぶりに遊戯君達いつものメンバーでまとまって一緒に教室を出て、他愛ない話をしながら下駄箱で靴を履き替える。
「うんうん!!
特に女子は……短いスカートで脚が寒そうだもんなっ!! くくくっ!!」
「ちょっと城之内!!
あんたが言うといやらしく聞こえるのよね!!」
「なんだと〜!?」
「あはは……」
いつもの和やかな雰囲気のまま校舎を出る。
「うぅっ!! こりゃ本当に寒いぜ〜!!
よし、走って帰れば少しはあったまるよな!!
……んじゃお先に! また明日な〜!!」
城之内が駆け足で去っていく。
「また明日〜!」
「うぅ……、寒い……
こんなに冷えるなら上着持って来ればよかったな〜」
そのまま流れで皆で帰り道を一緒に歩きながら、朝、上着を持って行くかどうか迷って結局持って来なかったことを激しく後悔する。
「本当寒いわね!!
……あ、私達こっちだから!
また明日ね! 桃香、獏良くん!!」
「うん、また明日〜!!」
杏子と遊戯君に手を振り、帰り道が同じである獏良君と一緒に並んで歩く。
こんなふうに彼と二人きりで帰り道を歩くのは久しぶりだ。
獏良君は女生徒に人気があるし――
それこそ毎日一緒に下校などしようものなら、誰かに何か噂されるのは確実だった。
今日だけの事なら、何か言われてもたまたまと言い訳できるだろう。
「寒くなったね〜本当!!
犬成さん大丈夫……?」
「う、うん何とか……
寒いの苦手なんだよね!
手とか足とかかじかんじゃって……
明日からはちゃんとタイツ穿いて上着持って来るよー……」
寒さをこらえ、小さく背中を丸めて震えながら歩く私を心配して獏良君が声をかけてくれる。
大通りを曲がるといつのまにか、それまでちらほらと目についていた自分達と同じ制服を着た人影が見当たらなくなっていた。
ほっと安堵してため息を一つ吐き出すと、吐く息が白い事に今更ながら気がついた。
「もうすぐ冬だね〜……
あ、冬っていえば、期待してたゲームの発売日が来月に決まったんだ!
今から待ち遠しくて仕方ないよ!」
「ああ、あれでしょ!?
私も気になってたんだよね……!!
でもお小遣い厳しいしな〜〜……本当はバイトしたいんだけど、うちの学校、禁止されてるしね……!」
「あっ、じゃあ僕がクリアしたら貸してあげるよ!!」
「えっ、本当に? ありがとう〜!」
他愛ない話に花を咲かせながら、暗くなってきた空の下を歩く。
本当は――寒さのあまり手も脚も刺すように痛くなってきているのだが、これ以上寒いとこぼし続けても意味がないので我慢した。
やがて獏良君のマンションが見えてきて、そこを過ぎれば私の家ももうすぐだ。
あと少し――
「じゃあまた明日ね犬成さん!!
話できて楽しかったよ!」
「うん私も楽しかった!!
また明日〜!!」
獏良君に手を振って、背を向けて歩き出す。
そういえば、バクラは……
寒いのとかどうしてるのかな……なんて――――
脳裏にバクラの姿がちらついた時だった。
「待てよ」
どき。
聞き慣れた声色に息が止まる。
空耳だったらどうしようと、少し逡巡してからゆっくりと振り返った。
「っ……!!」
振り向いた先には、たった今別れたはずの獏良君の身体を持つ、別の存在が立っていて。
目つき、声色、髪の感じ、そして何より……醸し出す雰囲気、オーラが獏良君のそれとは違いすぎている。
「バクラ……」
普段みんなといる時は心の底に封じて見ないようにしていた熱情が、奔流となって胸に迫ってくる。
そのせいでこういう時、咄嗟に声が出ないのはいつもの事だった。
「来な」
バクラはくいっと顎で住家を示し、そのまま踵を返してマンションに入っていく。
硬直したままだった私は――
一瞬遅れて、その後を追ったのだった。
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bkm