夏と悲哀と思い出と



夏休み。


「毎日あちいよな〜〜!

……そうだ、みんなでプールに行こうぜ!!」


城之内の一言で、みんなでプールに行くことになった。


プール……ってことは水着かぁ……恥ずかしいな……とちょっとためらっていたのだが――

杏子に、「桃香も行くよね? 一緒に水着買いに行こうよ!」
と言われ、まあいいか、と私は誘いに乗ったのであった。





「これなんか桃香に似合うんじゃない?」

「えー! 恥ずかしいよ〜!」

――水着売り場にて。

杏子が笑顔で私に水着を勧めてくる。


「杏子はスタイルが良いから、どんな水着を着ても似合うけど……
私には似合わないよ〜〜!」

「そんなことないって!
あ、これなんかどう??
セクシーな感じでさ!」

「む、無理っっ!!」

杏子が手にとる水着は全て、露出が多くてスタイルが良くないと似合わないものばかり。

私は恥ずかしいし、肌があんまり出ないものを選びたいんだけど……


「そっかな〜〜
桃香はさ、誰か水着見せたい人いないの?」

――どき。

顔が一瞬硬直したのが自分でもわかった。

予期せず脳裏にバクラの顔がちらついてしまい、かあっと頬が火照っていく。

「あっ、その反応〜〜! いるんだな!!
なに? 誰なの? 教えてよ〜!」

「うっ、ああぁ〜〜!!」

ちらついたバクラの顔と杏子のツッコミに、意味もなく頭をぶんぶんと振ってうろたえてしまう私。

杏子はおろか、誰にも、私とバクラの関係は話していない。


「ふふふっ!
話したくないなら無理強いはしないけどね!

というわけで桃香、ちょっと勇気出して水着買ってみようか〜!!」

「ええ〜っ!!」

結局私は、一人だったらまず買う勇気が出なかったであろう、ちょっと大人っぽい水着を買ってしまったのであった。

(恥ずかしいな〜〜)








「おおおお〜〜!!」

いつものメンバーでプールへ来て、水着に着替え、杏子と二人で男の子達の前に出て行ったら早速声があがった。

「杏子! 桃香!!
水着サイコーだぜっっ!!」

鼻の下を伸ばした城之内が囃し立てる。

「ちょっと城之内!!
変な目で見るのやめてよね!!
これ以上変なこと言ったら許さないから!!

……でもほら、桃香は似合ってるでしょ??ふふふっ」

「おお!! 桃香!
お前意外と胸あん……」

「ちょ」

「バカ城之内!! しね!!」

「ゲッ!!!」

「あははは」

杏子が城之内に鉄拳をくらわし、周りから笑いが沸き起こる。

(う……やっぱり水着は苦手だ〜〜)

そんなことを思いながら落ち着かない視線を彷徨わせ、屈託なく笑う獏良君に目をやったところで、あることに気がついた。

――リングがない。

考えてみれば当然だ。プールに来るのに千年リングを持ってくるわけがない。
水着姿の獏良君は、白い肌を晒しているだけで、千年リングを身につけていなかった。

これなら――

これなら、バクラに、私の恥ずかしい水着姿を見られずにすむ……


私の水着姿を見たらバクラは何と言うだろうか。

「だらしねぇ!」「淫乱女」

あまり嬉しくない単語が脳内で、バクラの声になって再生された。

かぶりを振って、言われたら嬉しくなり死んでもいいと思える言葉を想像しようと試みる――

「似合うじゃねーか」「可愛いぜ」

――うまく脳内再生されなかった。

しかし、悲しさと共に、くすぐったいような気持ちと、妖しい笑みが心の底から沸き上がってきて、私はニヤつく口元を慌てて抑えなければならなかった。

我ながら妄想気持ち悪いです――

と、ともかく。

リングが近くにないことでバクラが出てくる可能性が排除された為、私は人知れずホッと安堵の溜息をつくのであった。


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bkm


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