睡姦な話 1



それは、ただの悪ふざけだった。

気まぐれからくるただの出来心で、あとは少しばかりの好奇心だった。

たとえば――邪悪な意思がこもった古代の宝物の力を、人間の女に使ったらどうなるか、とか。

古代の宝物――千年リング。
そこに宿る邪悪な意思――バクラという存在。

とある少年の肉体を借りている『バクラ』は、今。
目の前で眠り続けている女を、じっと見下ろしていた。


きっかけは本当にくだらないものだった。

桃香という少女――平たく言えば、『バクラ』に大層ご執心な女。
美少年として同世代の女子を湧かせている獏良了の肉体を素通りし、そこに潜む『バクラ』という意思に想いを寄せて来た酔狂な女。

『バクラ』を愛し、バクラだけを見つめ、バクラのために死ねると――地獄の果てまでついてくると豪語した、常軌を逸した女。

そんな彼女とバクラの間に築かれたのは、ちょっと主と従の色が濃い男女関係で、『オトモダチ』には明かせない秘密の関係で、それからぬるすぎる協力関係だった。

だから今日も、それらの前提をもとに、幾度となく繰り返した児戯に興じていただけなのだが。

まさかそれが、桃香の意識喪失などという結果を生んでしまうとは。
さすがの彼も、予想だにしていなかったのだった。


結論から言えば、桃香は千年リングのオカルトパワーで失神した。

失神……意識喪失。昏睡……いや、ただぐっすり眠っているだけと形容しても問題ない。

何故ならば、彼女の呼吸や脈拍に乱れはなく、精神状態も一応普段通りだからだ。

桃香は今、深い眠りの中で穏やかな夢を見ているようだ。
その内容はバクラにもわからなかったが、感情の落ち着き具合からすると、どうせくだらない日常の夢なのだろう。

何故そんなことがわかるのか。
これまた奇妙な話ではあるが……千年リングを核とするバクラとそこに寄り添ってしまった桃香の間には、いつしか何とも形容しがたい魂の繋がりのようなものが出来てしまったらしい。

わかりやすく言えば、桃香という少女は千年リングが持つ波動のようなものに影響を受け、千年リングの支配下に入った。
つまり彼女は、常に緩やかに千年リングバクラと『繋がってしまった』のだ。

さすがに、千年ロッドが持つ固有の能力のように、意識そのものを乗っ取って操り人形にしてしまうのは荷が重いが――
しかし、彼女が今どんな感情を抱いてるか、平静か動揺か興奮しているか、そんなレベル程度なら察することはバクラにとって難しくないのだ。

ともかく。

バクラはほんの軽い気持ちと好奇心から、つい先程千年リングに宿る念を桃香に浴びせてみた。
形あるものに自らの魂の一部を封印する、または他者の魂を人形に封じ込める――
そういった具体的な能力の根源となる、力そのものを。

そして彼女は、千年リングに宿った禍々しいオーラを素直にスルスルとその身に吸収し、昏倒したのだ。

言葉もなく。まるで関節が砕けた人形のように、その場にドサリと崩れ落ちて。

それが、全てだった。

そしてバクラは、眠り続ける桃香を心なしか熱っぽい目で見つめていた。


きつく閉じられた双眼。
瞼の稜線を縁取る睫毛に、見慣れた目鼻立ち。
かつて馴染み深かった褐色ではなく、この国特有の自然な肌色。

頭を支えている首は女性らしい滑らかなラインを描いており、制服の襟元へと繋がっていた。

童実野高校の女子生徒であることを示す制服。
桃色がかったブレザーに、青いリボン。
スカートも同じく青で整えられ、倒れた拍子に少しめくれ上がったプリーツが彼女の腰にまとわりついていた。

「…………」

バクラは視線を彼女の脚に走らせる。
タイツもストッキングもまとっていない、素肌を晒した白い太腿。
いかにも女性らしい肉感を湛えた2本の脚はとても柔らかそうで、手で撫で回せばさぞかし滑らかだろうと思われた。

膝下、ふくらはぎの曲線。
足を覆う靴下。
足のサイズも、バクラの宿主である獏良了よりは小さい女の足。

バクラは彼女のつま先まで目を通すと、もう一度その視線を戻し胸元へと集中させた。

――膨らみ。
制服のブレザー越しにもわかる双丘。
物言わぬ女の二つの丸みは、自分が女であることをはっきりと主張しているようにも見えた。

「…………」

制服のブレザーというのは、着たまま寝転ぶには適していない。
その証拠に、前のボタンが閉められたままの桃香の上着は、肩周りが不自然に吊り上げられ、引っ張られた胸元が苦しそうに抑えつけられていた。

バクラは躊躇なく手を伸ばし、桃香のブレザーのボタンを外す。
外して、いくらか楽になったらしい胸元を見つめ――そのまま、彼女の腕からブレザーを引き抜き、上着を完全に脱がせた。
これで彼女はだいぶ楽になったはずだ。

だが桃香は微動だにしなかった。
肩や腕に触れられ、動かされたのに、だ。
彼女はただすやすやと眠り続けている。

「…………、」

伸ばした手が、彼女の膨らみの上にそっと落とされた。

意識のない女。
女の、無防備な肢体。

彼女は目を覚まさない。たとえその胸が、己の知らないところで揉みしだかれようとも。

バクラの指が、制服の白いブラウスの上から桃香の膨らみを掴んだ。
手の平に感じる布の質感、下着の質感。その奥には、確かに肉の存在感があった。

「……、」

ぎゅ、ぎゅむ、と指を動かせば、中にある弾力がバクラに伝わってくる。
見知った弾力、慣れた質量。服などなくとも、その下に何があるかははっきりと想像出来る。
この服を剥いで、じかに指を滑らせれば――

誰に断る必要もなかった。
バクラは器用な手つきで桃香のブラウスのボタンを外し、邪魔になっていた首元のリボンを引き剥がすと、彼女の胸元をはだけさせた。

白い肌。
安らかな呼吸を繰り返す桃香の、上下する胸元。
膨らみを押し上げて固定しているブラジャー。
それさえホックを外して上に押しやれば、もはや遮るものは何も無かった。

ふる、と肉感が揺らいで現れた乳房。
その膨らみは、誰かに触れてもらえるのを待ち望んでいるように見えた。

「オネンネしたままでいいのか? 桃香……」

バクラは小声で囁いてから、フ、と息を吐いた。

くだらないことをしている自覚はあった。
だがそもそも、桃香という女はとっくにバクラのモノだ。
彼女が起きていようが寝てようが関係ないし、むしろ物言わぬ彼女に何事かをしたらどんな感じなのか、今は気になってたまらないように思える。

――本当にくだらない、と思う。
寝ている女に性欲を刺激されたゆえの愚行だ、とも。

だがバクラは、そんな『冷静な』考えを一旦横へ置いておくことにした。
現況の冷静な分析も、断罪も今は必要ない。
したいようにするだけ――そんなことを思いながら膨らみの片方を手の平に収めれば、あとは一直線だった。

生きた人間の温度。
『宿主』と同世代の女の、吸い付くような生の肌。

バクラの手に捕えられた柔らかみはされるがまま形を変え、やがて掌の中心に突起物を主張してきた。
まるで、早くこちらも触って欲しいと言わんばかりに。

「……ハッ、」

バクラは薄笑いを浮かべながら、立ち上がった桃香の先端を指先で摘み上げた。
いつもなら、自動的に甘い声が漏れるスイッチのような部分。

「…………ン、」

だが、今の桃香から漏れたのは、寝息とも寝言ともつかない僅かな僅かな声だった。

「…………」

バクラはさらに乳首を指先で転がしてみたが、しかし彼女にはそれ以上異変はない。
目を覚ますどころか、身をよじったり、再び小さな声を漏らすこともない。
完全な無反応だった。

面白くない、と思う。
しかし同時に、目を覚まさなくて良かった、とも安堵する。

目を覚まさないということは、心置き無く続行出来るということだ。
この密やかな暇つぶしを。相手が彼女でなかったら明確に犯罪行為に相当するこの悪戯を。

「桃香……起きないとどうなっても知らないぜ」

手を彼女の太腿に滑らせたバクラは、意味のない台詞を口にする。
脚を開かせ、スカートの下に手を這わせたが――しかしいっこうに桃香が目を覚ます気配はなかった。

「外でぶっ倒れてたら、完全にイタズラされてるだろうな、オマエ」

クククとバクラは含み笑いを浮かべる。
際どい場所を焦らすように指先を彷徨わせていた彼は、やがて下着の上から一点をなぞり始めた。

「こんなことされても目を覚まさねぇんだもんなぁ……?」

「…………ン、」

再び密やかな声が漏れた。
バクラはふと手を止めて彼女を覗き込むが、けどやはりそれだけだった。

桃香の双眸は固く閉じられたままで、身体に力が入った様子もなかった。
何より、意識を集中させてみてもバクラに流れこんでくる彼女の気配は先程とほとんど変わっていない。

穏やかで、温くて。
特に変哲のない、安らかな夢の中――

果たして、眠ったままでも女の身体というものは性的に反応するのだろうか。
さぁな、とバクラは思う。
少なくとも、この宿主の体・・・・になってからは、そんなことを試す機会もなかった。

「試してやるよ……」

独りごちて、桃香の下半身をなぞっていた指先に力を込めた。

ぐり、ぐり……と、布越しに一番敏感な突起部分を刺激し、彼女の反応を伺う。
身体構造上に沿ってなぞるように指先を上下させれば、やがて潤いを帯び始めた下腹部が下着を張り付かせ、割れ目をくっきりと際立たせていた。

「エロい女」

簡単すぎだ、とバクラは呆れ返るような感覚を覚える。
だってそうだろう。
意識を失っているのに、ちょっと胸と下半身を触ってやっただけでこのザマだ。

いくら普段から性的な刺激に敏感になり『慣らされている』とはいえ、あまりにも容易すぎではないのか――

たとえばこれが、バクラではなく別の男であったとしても、桃香は無抵抗のまま、しかし体だけが待ち望んで・・・・・、男を受け入れてしまうのだろう。
そう考えると、僅かな怒りのような、不愉快な感情が込み上げてくる気がした。

(そんなにオモチャにされたきゃ、お望みどおり弄んでやるよ)

バクラの中で、嗜虐的な意識がどんどん膨らんで行く。
無言で彼女のショーツを剥ぎ取り、じかに指を這わせた。
すでに潤んだ部分はさしたる抵抗もなく、くちゅりと微かな水音を立て彼の指を呑み込んでいく。

「…………ん、」

小さな吐息は漏れるも、未だ桃香の様子は変わらない。
ふっくらとした唇は微動だにせず、両の目は伏せられ、穏やかな寝息を立てている――

が一方で、双丘は空気に晒され、男の手の中で形を変えながら先端を固く尖らせている。
開かれた足の中心では膨張した陰核が存在を主張し、体の奥からとろとろと蜜を溢れさせ異性を誘っていた。

いつもであれば、『好き』だの『欲しい』だの『愛してる』だの、甘ったるい声で囁いてくる女――
だが今は、縋る声も、喘ぐ声も何処にもない。

ただ物言わぬ人形のような肢体がそこに在るだけだ。
男にいいように犯され、欲望という欲望をぶつけられ吐き出されたとしても、抵抗すら出来ない無力なオモチャ。

バクラという邪悪な意思を、己の身体のみで必死に誘っている憐れな女。
――バクラだけの、専用の愛玩人形。

その事実を脳内で反芻した彼は、クククと肩を震わせ嗤った。
加虐心と、暴力的で性的な渇望がバクラの背筋を這い上っていく。

「桃香……、」

もし今彼女が目を覚ましたとて、もはや何も変わらない。
バクラという男は、桃香という人形を抱きつぶす。これは決定事項だった。

「ヒャハハッ……!」

高揚した彼は人知れず嗤う。

既に張り裂けそうなほど屹立した己自身を取り出し、無言で男を誘う彼女の入り口にあてがった。
ぬるぬると潤みを擦りつけ、それから一気に中へと押し込む。

「ッ、…………!!」

頭の芯が痺れる。

何度も、何度も経験したことのある彼女・・の感触は、バクラを容易に受け入れて心地よく締め上げた。

「っ、は……」

女の肉。

いつも、繋がる瞬間に甘い嬌声を漏らす桃香はここには居ない。
ここに居るのは、意思を無視して誰か・・の陰茎を挿入されても文句一つ言わず、性急に奥を突いてようやく「んっ、」と小さく反射で声を漏らしただけの物言わぬ人形だ。

ずる、と自身を後退させ、探るようにもう一度腰を落とせば、晒されたままの二つの膨らみがふるりと揺れた。

女の性感帯を適当に弄り、猛りをブチ込んで、揺さぶって精を吐き出す。
この行為は言ってしまえばそれだけだ。
パターン化された、低俗な動物的行為。

もはや繁殖の為ですらない、純粋な『お遊戯』。
快楽を感じ、欲望を吐き出すためだけの。

桃香のように、相手・・に死ぬほど恋愛感情を抱いているメスにとってはもっと有意義な価値があるのかもしれないが、所詮は他人。

バクラには――己の肉体すら持たず、3000年をリングの中で過ごしてきた『邪悪な意思』には、愛だの恋だのは到底理解出来なかったし、する必要もなかった。

――けれども。

バクラは、自分と繋がったまま未だ眠りこける桃香の顔をじっと見下ろしていた。

意識がなければきっと誰にでも体を許し・・・・・・・・、薄汚い欲望をたっぷりと注ぎ込まれても抗うことなどないであろう女。

けれどその女は……物言わぬその女の体温は、バクラの内側を、ざわざわと波立たせていた。

本来、性欲すら借り物・・・なのに。
宿主の肉体から男性特有の飢えた渇望を拝借・・し、懇ろになった少女にぶつけているだけなのに。

だが、そこに在ったのは単なる『借り物の性欲』の捌け口だけではなかった。

焦れるような……もっと貪って、全てを手に入れなければ満たされないような……
そんな、強欲で苛烈な執着心そのものだった。


「…………、」

桃香と体を繋いだまま、バクラは上体を傾け、彼女の顎を掴んだ。

赤く膨らんだ唇を塞ぐように、己の唇を重ねる。
舌を差し入れて歯列をこじ開け、それから唾液を流し込んだ。

「……」

唇を離し、至近距離で反応を伺う。
こくりと小さく喉が動き、桃香は素直に彼の唾液を飲み下していた。

「……フフッ」

形容出来ない愉悦がバクラを襲う。
薄く嗤ってから、再び唇を塞いだ。

いつも悦んで応じてくる女の舌を今は一方的に吸い上げ、口内を嬲るように貪って、時折唇を離して息をつかせてやった。

重なったままの下腹部がもどかしく疼く。
熱が冷めないようにゆるゆると腰を動かしながら、口内を好きなだけ犯し、やがて頬、耳、首筋と位置をずらして唇を落としていった。

この首筋をがぶりと噛んで、いっそ噛み切ってしまえば、さすがの彼女も目を覚ますのだろうか――
そんな物騒な疑問がバクラの中を駆け巡る。

――いいや。まだ早い。

ここで桃香が目を覚ましてしまっては元も子もない。
愛の言葉さえ囁けない無防備な人形を嬲るところに、この行為の醍醐味はあるのだから。

目を覚まし、己を抱いているのがバクラだと気付いた桃香は、秒で恍惚の表情を浮かべるだろう。
それはそれで楽しそうだが――やはりそれでは意味がない。

人知れず犯し、身勝手な欲望を吐き出し――
意思に反して汚された・・・・・・・・・・彼女を見なければ気が済まない。
すやすやと呑気に眠りこけている穏やかな顔の一方で、どろりと残滓・・を股から垂れ流している女体の卑猥なアンバランスさを目に収めなければ、きっとこの欲望は本当の意味では満たされない。
バクラにはそんな確信があった。


「桃香……」

上体を起こし、彼女の全てを見下ろせる位置から、そっと名前を呼ぶ。

応えるはずなどない四肢はまるで息のある死体・・・・・・のようで、愛らしいとすら彼は思った。

桃香の脚を抱えこむように押さえつけ、思い切り腰を打ち付ける。

「んっ……」

ずん、ずんと遠慮なく奥を突き上げる。
ゆさゆさと彼女の体が揺れ、肉同士の打擲音が鼓膜に響いた。

「起きなくていいのかよ、桃香……!
オマエの身体、勝手に犯されてるんだぜ……?」

密やかな声で吐き出して、バクラは桃香を揺さぶり続ける。

意識がなくともいつものように奥を突かれるのは気持ちいいのだろう、繋がった部分からはとめどなく蜜が溢れ、膣内の肉は彼を捕らえるように絡みついて淫靡に蠢いていた。

「ハッ……、どうしようもねぇ女」

こんなものはただの生理的な反応だ。
性感帯を刺激され、文字通り勝手に体が快楽を感じている。

肝心の本人の意識――大事な大事な愛だの恋だのは置き去りになって、生理的反射を備えるメスの肉体だけが、健気にもオスと交尾している現況を把握し、どうにかメスとして応えようと義務を果たしている。

――たとえそのオスが、本人の意思に反する相手であったとしても。

「ククク……、意識はぶっ飛んでんのに、体はちゃんと応えてるぜ……?
オレ様に犯されてめちゃくちゃ悦んでるぜ、オマエの身体はよ……!
分かってんのか? オマエは今レイプされてんだぜ……!」

不穏な単語を口にしながら桃香を犯し続ければ、頭の芯から恍惚に似た何かがとろりと染み出た気がした。

支配欲、独占欲、暴力的な衝動――
もし今、彼女が目を覚まし――万が一にでもバクラを拒むようなことがあったとしても、絶対に止めてやらないという強靭な意志。

口を塞ぎ、抵抗する四肢を押さえつけて体重をかけのしかかり、場合によっては縊り殺してでも最後まで犯し尽くしてやるという凶暴な決意。

それがどこから来る感情かなんていうことはどうでもよかった。
桃香が今、夢の中で何を感じているかさえもはや興味がなかった。
意識を集中させ彼女の深層を探る・・・・・ことだって今は不要だ。

雑念・・など邪魔だ。
今必要なのは、ただカラカラに乾いた渇望を満たすための悦楽で、ギラギラに研ぎ澄まされた執着を発散するための女の肉だった。

「桃香……、桃香……ッ」

喉の奥から漏れ出る声はもはや無意識だった。
ぐちゃぐちゃに溶けきった部分を後退させ、ぎりぎりまで引き抜いてから生々しくぬめる接合部に目を遣る。

――本当に、ぶち壊してやろうか

そんな狂った考えが脳裏に浮かぶ。
桃香の行き止まりを強く、強く突いて、ぐりぐりと彼女が一番感じる位置を強引に刺激してやれば、彼女は意識を失ったまま絶頂に達してしまうのだろうか。

「……ハッ、」

試す価値はあるとバクラは思う。
どのみち、もはや冷静では居られなかった。
本来完結・・されていて、ブレることなどない千年リングバクラの意思は、今や肉体的欲求にだいぶ引きずられていた。

――この女を犯し尽くさなければ、気が済まない

そんな非生産的な飢餓感がバクラを急かす。

「悪ィな」

最後に出た一言は、一体どこから生まれた本心・・なのだろうか。

息を深く吸い込んだバクラは、そうして思い切り自身を桃香の中に打ち込んだ。

「ッッ…………!!!」

目眩。

ずぞぞぞぞ、というえも言われぬ快感が全身に拡散する。
桃香は最奥を強く突かれた衝撃で、「あっ、」という割と明瞭な声を漏らしていた。

知ったことか。
もし彼女がこれで目を覚ましたとしても、もう一度眠らせてやる・・・・・・・・・・

バクラは嗤って、桃香の腹の底を何度も何度も力強く押し上げた。
淫らな水音と打擲音がこだまする。
上体を傾けて、先程したように強引に唇を塞いだ。

彼女の両肩を抱き込むようにして腕を背中に回し、上から押し潰すようにして腰を打ち付ける。
衝撃で彼女の脚がプラプラと揺れ、バクラの体重に押し潰された肺からはどこか苦しそうな呼気が漏れていたが、構いやしなかった。

合わせた胸の間で千年リングがゴリゴリと存在を主張し、柔らかな膨らみが、無惨に押し潰されている。

桃香を全身で押さえ込み、首筋を幾度も幾度も吸い上げた。

「ンっ、桃香……っ」

耳元で囁いた喘ぎとも言える彼の声は、きっと意識がない今の彼女には届いていないのだろう。

それでも。

「桃香……っ、桃香っ……!」

バクラは彼女の名を呼び続けることしか出来なかった。
加虐思考を塗り込めた数々の台詞を舌に乗せるのさえ億劫だ。

本来この行為に言葉はいらないし、ただ彼女を抱いて、欲望をぶつければそれで良いのだから。

「ッ……、はっ」

自身の呼吸が乱れている。
熱くなった体温を下げるために滲み出た汗が、額に髪を張り付かせる。
元は宿主の肉体なのだから、そういった反応は当たり前のことだ。

再び彼女を見下ろす体制で腰を打ち付ければ、奥を穿つ度に千年リングがシャラシャラと音を立てた。

「……ぁ、ん、……ふっ」

体を揺さぶられ、桃香が時折呼気と共に甘い声を漏らしている。
彼女の瞼は未だ固く閉じられていたが、下半身はぐずぐずに溶け切って、バクラを逃がすまいと必死に咥えこんでいる。

(意識ねえのに、犯されて、悦んでんじゃねえよ……)

思考さえ切れ切れになる。
桃香、桃香、桃香……!!
オレだけのモノだ、オレだけの女だ、全部オレのモノだ……!!

脳髄を焼くような執着が、突き上げる衝動とない混ぜになってバクラをなみなみに満たす。

「ん、くっ……!」

もはや余裕を持って性的な快楽やスリルを楽しむという次元ではなかった。

バクラは、自分でも薄々と自覚するほど余裕を失っていた。


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