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「お待たせ!
……冷蔵庫に豚肉あったから、豚丼風に味付けしてみたよ〜!
バクラさん良かったらこれご飯に乗っけて食べて。口に合わなかったらごめんね!」

息を切らせて料理が乗ったお皿を持って部屋へ戻った私を、二人のバクラはそれぞれ違った表情で出迎えた。

ローストビーフ丼をほとんど食べ進めている現代のバクラ。
その眼は訝しむように細められ、それから私と盗賊王の顔を交互に見たあと舌打ちをこぼしていた。

一方の、ひと口も手をつけられていない白飯を前に、何故か私の焼き芋をかじっていた盗賊王は――
その顔に、己こそが勝利者だと言わんばかりに勝ち誇ったような笑みを浮かべていた。

「……そういうことか」

低い声で吐き出した白いバクラの横で、褐色肌のバクラがクククと嗤う。
白いバクラはまるでこの状況の解説をするように、続きを語った。

「どっちに転んでも損は無かった、ってか。
ゆめコイツが、ただの白飯をオレ達に食わせるわけが無ェもんなぁ?
お前はそれを見越して、無駄な金を使うのを防いだんだろ……?

……いいや、オレ様にデュエルで負けることすら予想の内か?
そんなにコイツの手料理が食いたかったのかよ、……ケッ、甘くなりやがって」

「っ!?」

バクラの発言に、思わず息が止まる。

彼は何を言った? 手、料理……???

『バクラ』の口から初めて出た聞き慣れない単語に、心臓がドクリと大きく跳ねた。

「何の話だよ、くだらねえ……!
そういう発想が出てくるってことは、てめえこそコイツの手料理とやらを食いたかったんじゃねえのか?
……ケッ、甘いのはどっちだよ! 邪悪な意思が聞いて呆れるぜ」

間髪入れず返される盗賊王の挑発。

彼らは軽率に私の心を殺しにきている。
ダメだ、こんなの――!

一瞬で興奮がピークに達した私は、もはや黙っている事が出来ず反射的に二人の会話に割り込んだ。

「うそ、嘘嘘、バクラたちに限ってそれはないでしょ……!!
ていうかその会話無理……、なんか今心臓止まりそうになったんだけど! 衝撃で!」

「…………、」

「あっ、でももし、私の手料理を食べたいって本当の本当に思ってくれたなら……
えへへ……、挑発や冗談だと分かっていても、すごく嬉しい!

あはは……ちょっと待って、なんか照れる……
嘘だってわかってるのに正気が保てない……どうしよう、どうしよう!
ていうか『手料理』の単語だけで心臓バクバクいってんだけど……あの!!!」

「おい貴様……!! またコイツに酒飲ませやがったのか!?」

現代バクラの突っ込み(?)に、無言で素早く頭を振って無実をアピールする盗賊王。

「……コイツ、前からこんなにアレだったか?」

片方の眉を吊り上げて訝しむような表情を浮かべた盗賊王は、何かとてもひどいことを言ったような気がする。

「ここまでひどくはなかったぜ、さすがにな……!
……っ、お前が来てから『悪化』しちまったんだよ!
ただでさえトチ狂ってる頭が、『バクラ』が増えたせいで余計おかしくなっちまったんだろ……!」

「まってまって、正気に戻るからもう変なこと言わないから!
すー、はぁ〜〜、深呼吸すれば多分大丈夫……」

「そりゃあ悪かったな。
だが、文句ならオレ様をこの世界へ飛ばしたヤツに言うんだな!

……精霊獣ディアバウンドを封じられて、ファラオが生きてるだのオレ様の末路だの人生のネタバレを食らっちまって、もう一人のオレ様と仲良しこよしをしなきゃなんねーわ変な女にもまとわりつかれるわで、文句を言いてぇのはこっちの方だっつーんだよ! ケッ!」

そうヤケになったように一気にまくし立てた盗賊王は、皿に乗った豚丼の具を勢いよく白飯の上へと流し込んだ。

それから、割り箸をパキンと割って丼を掻き込み始める。

「……、何がまとわりつかれてだ。
まんざらでもねえクセによ……!
人のモンに手を出しといて文句つけてんじゃねえよ、」

控えめに吐き捨てた現代バクラも、残り少ないローストビーフ丼を掻き込んだ。

そんな二人の仕草が同じであることに気付いた私は――
また顔を火照らせ、心臓を高鳴らせてしまう始末なのだった!


「……豚丼おいしい?」

「まあまあだな」

問いかければ、素直に返って来る声。

ヤケになった様子でタイムスリップの不満をぶちまけた盗賊王は、それでも心の奥底では決して目的を忘れないし、揺らがない。

私を見ない、その闇に塗り潰された双眸は――
けれど、三人で日常を過ごすという『休憩』の時だけは、たとえ僅かでも、光を映してくれる。

それは千年リングに宿るバクラだって似たようなものだ。

邪悪なるものの力によって現世に留まり続けるバクラは、それでも日常を過ごす時だけは、かつて『バクラ』という名だった少年の人格だった。

強くて、壮絶で、邪悪で、カッコイイバクラ達――

私は、『バクラ』が大好きだ。


焼き芋を齧りながら千年リングに宿るバクラを観察してみれば、ローストビーフ丼の最後のひと口だけを残したバクラが、ふとため息をついて手を止めた。

「……ほらよ」

私の方に寄越される、丼と割り箸。

「え……、」

「物欲しそうな顔しやがって。
焼き芋じゃ満足出来ねえだろうよ」

フ、と嗤ったバクラの口元は、心なしか穏やかに釣り上がっていた。

「いいの? ありがとう……!」

最後に残った一口分のご飯と、上に乗った一枚だけのローストビーフ。

美味しそうなお肉という事実もさることながら、バクラがそれを私にくれたという事実、そしてそれがバクラの食べかけだという事実が熱く胸を焦がす。

嬉しい。
どこまでも、本当に嬉しい。

私が微笑み返して、ほとんど重さのない丼を受け取った時だった。

「悪ィな!」

横からひょい、と伸びて来た褐色の手が、丼を鮮やかにかっさらう。

それから素早く中身を箸でつまみ上げた彼は、最後の一口をぱくりと口の中へ放り込んだ。

「あっ……」
「おい」

「……ふ、うめぇなコレ」

ごく自然に漏れた声は、何の含みも裏もないように思えた。
取るに足らない日常における、盗賊王バクラの『素』の感想。

「あー……、それ、美味しそうだったもんね。
良かったね!」

もらえるはずだったご飯を突然奪われて、私の心の中にほんの少しだけ浮かび上がった落胆。

けれど、満足だと言うようにペロリと唇を舐めた彼の魅力に、あっさりとそれはかき消された。

お酒なんて今は一滴だって飲んでないはずなのに、頬が火照って……
自分の体が、いいや、心がどこまでも熱くなっていく。

まるで、ふわふわの大きなクッションで全身をぬるく叩かれたような――
好きと可愛いが同時に襲ってきたような、暖かい気持ちだった。

「あー……、なんか幸せで嬉しすぎて涙出そう……
もう死んでもいいや……」

自分でも何を言ってるか分からなくなって、まだ半分ほど残っている焼き芋を握りしめる私。

トロトロに焙られた焼き芋のように、どこまでも甘くとろけるこの時間。

これが本当に現実なのだとしたら、私は世界一の幸せ者だと本気で思う!


「ありがとよ!」

不意に、隣の盗賊王からお礼の言葉が発せられたと思った瞬間――
何事かと反応する間もなく、ひょいと手の中にあった焼き芋を奪われた。

そして、がぶ、とそれにかぶりつく盗賊バクラ。

気付けば彼は、もう豚丼をほとんど食べ終わっている――ひと口残した程度に。
唖然とする私をよそに焼き芋をもぐもぐと頬張る彼は、私が作った豚丼を丼ごとずい、とこちらに寄越してきた。

「ン、最後の一口はオマエにやるよ。ありがたく味わいな!」

「えっ、ありがとう」

焼き芋を奪うかわりに豚丼の一口をあげるということなのだろう。
もちろんそれが、一般的に見て等価交換に値する内容なのかはさておき。

「……この焼き芋ってやつよ……、本当に芋なのか?
ただの芋がここまで甘くなるってのはどういうわけだ……?」

「へへ、バクラさんの食べかけをもらえるなんて……」

そう。
一般的に見て、まだだいぶ残っている焼き芋と最後の一口しかない豚丼が釣り合うかなんて関係ないのだ。

『バクラ』が自主的にくれるなら、それは私にとってどんなご馳走より価値がある。
たとえそれが、元は自分が作った料理だとしても――

そんなことを考えながら、丼と向き合った私。
……の、視界の端に割り込む影。

「あ、」

既視感しかない。
音もなく伸びてきた手は、盗賊王の食べかけの丼を颯爽と横から攫っていった。

今回の犯人は手癖の悪い古代の盗賊ではなく、私と同じ白い肌を持つ『邪悪な意思』だ。

獏良君の体を持つバクラが、私の作った豚丼の最後の一口を頬張る。

声を発することも出来ずそれを見守れば、
「……まあまあだな」という声が私の鼓膜を震わせた。

その声は、先程の盗賊王と同じ声で――

「二人のバクラに手料理を食べてもらった……??」

何故か疑問系で呟けば、フン、と鼻で嗤う現代のバクラ。
その口角は不敵に釣りあがっていて、満足げとも取れるその表情に、私は心臓を高鳴らせながら声なき声を上げて悶えたのだった。


思えば、雪合戦にデュエルと、立て続けに負けてしまった盗賊バクラだが……
三種類の食べ物を味わうことが出来たという点では、彼が一番得をした部分もあるのではないか、と思う。
(千年リングに宿るバクラは焼き芋を食べてない)

もっとも、白い肌のバクラが負けて買い物に行っていたら、全員が普通に満足できる食べ物を買ってきた可能性もあるのだが。

その二人の『バクラ』の差はきっと、現代に慣れて今更あれこれを珍しがる必要もない獏良了バクラと――
見慣れないものばかりに囲まれて、つい面白がって悪ふざけをしてしまう盗賊王バクラの、精神的な違いから来ているものかもしれない。

そんなことを考えたら私は、『現代初心者』である人間の少年・盗賊王バクラが、更に可愛くて仕方なくなったのだった。

「……てめえが何にニヤついてるか感づいちまう、オレ様自身にムカつくぜ」

つい微笑んでしまった不審な私を見て、ボソリと吐き捨てた現代バクラの言もまた、この上なく愛おしい。


「あはは……でも、嬉しいけど、さすがにこれじゃ足りないかも……
下行って、卵かけご飯でも食べようかな」

完食された丼たちをまとめながら腰を浮かせれば、
「ここに持ってきな!」
という盗賊王の声。

ん? と私がその意味を咀嚼した瞬間、
「まだ食うのかよ!」
という鋭いツッコミが反対側から発せられ、思わずそちらに意識を向ければ、フイ、と思い切りもう一人のバクラに目を逸らされた。

半ば無意識にツッコミを入れてしまった自分に戸惑ったのか、千年リングに宿るバクラはばつの悪そうな顔で歯噛みしている。

「……なんか、どっちのバクラも可愛いね。
好きすぎて死んじゃう……」

漏らした言葉は、二つの舌打ちとなって返ってきて、やっぱり既視感しかなかった。

本質的には人間でなかったり、血塗られた道を歩いてきたりする魂たちの、人間的な部分――

人格という彼ら固有の個性による、どこか親しみやすくて微笑ましい部分――

そんな彼らの存在が、私は何よりも大好きだ!


「卵かけご飯は生の卵を使うんだよ!
バクラさん、生の卵は大丈夫?」

「馬鹿にしてんじゃねえよ。
オレ様は知ってんだぜ? この世界じゃ生の卵を普通に食ってる、ってことをな。
未来人てやつぁ、えらく腹が丈夫なんだなと思ったが……どうやらそうじゃねえ。

つーかお前ら、いつまでも『現代知識』で優位を取れると思ってんなよ……?
そのうちKCカイバ・コーポレーションにだって、盗みに入ってやるぜ」

「えっっ!!!
何言ってるの、それはダメだよ……!
いくらバクラさんだって、それは……」

「おい貴様……!
ファラオとの決着をつける前に余計なことをしやがったら、タダじゃおかねえぜ……!!
オレ様の邪魔をするな、そう言ったはずだよな……?」

「わーってるよ、いちいちうるせえな!
……おいゆめ、この『テレビ』に繋がってるゲーム、勝手にやらせてもらうぜ。
あと『ミカン』てやつをもっと持ってきな!」

「はーい! じゃあちょっと待っててね〜」

「チッ、どいつもこいつも……」


盗賊王バクラと千年リングに宿るバクラ。
二人の『バクラ』と、私の日常。

ファラオとの決戦の日までの、期限つきの日常。
そんな日常は、とても嬉しくて、暖かくて、幸せだ。

こんな日々が永遠に続けばいいな――
そんなことをつい考えてしまう。

……ううん、そんなの絶対に叶わないことは私も分かってる。

千年リングに宿るバクラは大邪神を内包する邪悪な意思で、盗賊王バクラはファラオを憎み大邪神の力を欲する復讐者なのだから。

けど、けれども。

まだ、今だけは。
今、この時だけは。

バクラとバクラと私。

もう少し、このままで――

それはまるで、寒い冬を過ごすための、暖かい部屋のように。

だから。

今は、まだ。

バクラたちと、一緒に――――!





余談。

休日も今日で終わりを迎え、明日からは学校が始まる。

千年リングに宿るバクラは当然のごとく例の601号室へ帰って行き、盗賊王バクラもとりあえず明日はまたどこかで過ごすということで、夜のうちに私の家を後にするという話だった。

の、だが――


「…………、……っ」

盗賊バクラの様子がおかしい。

いや、本人は必死にそれを隠しているようだが、そこは『私』――
『バクラ』の変調には素早く気付ける自信がある。

彼は私に気取られないよう、控えめに浅い呼吸を繰り返していた。
少しだけ眠たげな、というか重たくなった瞼と、褐色の肌でも僅かに分かる頬の紅潮……

それは、恐らく――


「ッ、触んな!」

私が彼の額に手を伸ばせば、間髪入れず振り払われる手。
だが一瞬だけ触れた彼の手がとても熱かったことで、私の疑念は確信に変わった。

「バクラさん…………、熱、あるでしょ」

「……っ」

真正面から宣言すれば、ピクリと眉を動かした盗賊王が、小さく舌打ちをこぼした。

「なんとなく……、ちょっと変だとは思ってたんだ。
あっちのバクラが帰った後、すごくほっとしたような表情を浮かべてたから……
多分、三人で居る時からちょっとずつ体調悪くなってったんだよね?
でも私たちに気付かれないよう、隠してたんでしょ……?」

――特に、もう一人のバクラには。

コタツに座ったまま動くこともしんどそうに固まっている彼は、私の話にチラリと視線だけを寄越し、それから「……ケッ、」という小さな声を発した。
その憎憎しげな表情は、私の推理が当たっていたことを示すもので……

「っ、それで、何だってんだよ……
同情するってか? こんな無様なオレ様を見てよ……!

……別にたいしたことねえよ、こんな熱なんざ……!
こんなもの……、一晩寝てりゃ、すぐ治るんだよ……!
いちいち騒ぎ立てんな……っ!」

呼吸を乱しながら吐き捨てられた険のある物言いに、私はたとえ怒られるとわかっていても、彼を抱き締めずにはいられなかった。

「ッ、」

バクラの頭を抱きかかえるように、両手でぎゅっと自分の胸に抱き締める。

「ふざけんな、てめ――」

無理矢理体を引き剥がされそうになって、抵抗しつつ手で彼の後頭部を何度も撫でる私。
まるで動物を宥めるようだ、と思いながらさわりとした髪を指の隙間に通せば、発熱していてもやはり力強い盗賊王の腕が、私を強引に引き離した。

「っ、じゃれついてんじゃねえよ……!
同情すんなっつったろうが……!
オレ様の弱っているところを見て、今なら優位に立てると思ったか?
ケッ、ふざけんな……!!」

搾り出すような彼の声はまるで、手負いの獣が発する威嚇の咆哮のようで、私の胸はキリキリと締め付けられた。

3000年前の、砂漠の国で――
盗賊王バクラは、短い半生の中でも何度かは今のように体調を崩した事があったに違いない。
ううん、体調不良でなくとも、頬の傷をはじめとする様々な怪我も――

そんな時彼は、どうやってその苦しみを乗り越えたのだろうか。
今の状況のように、敵意を持たない誰かに優しく介抱されていたなら良いが……

もし、獣のように敵を警戒しながら物陰に潜んで息を殺し、朦朧とする意識の中で苦痛にのたうちながら夜を過ごしていたのだとしたら――

ついそんな想像をしてしまった私の視界は、たちまりぼやけて滲んでしまうのだった。

「ヒャハハッ、惚れた男が可哀相で泣きべそかくってか……?
このままくたばっちまうかも、出来ることなら代わってやりたい、これじゃあ構ってもらえなくて寂しい……、こんなところか?
てめえの考えることなんざ、全部お見通しなんだよゆめ!

フン……、慣れない寒さに晒された上、勝手にコタツで寝ちまって……
その上、雪の中でガラにもなくはしゃいだせいだ、ってんだろ? 認めてやるよ!
認めてやるから、これ以上オレ様に構うんじゃねえ……!」

余裕の無い声でそうまくし立てたバクラは、テーブルに手をかけ立ち上がろうと腰を浮かせた。

彼は当初の予定通り、今夜のうちにここを出て行くつもりなのだろう。
朝になってから私の登校と同時に家を出たら、近所の人の目につくからだ。

けれども。

「全部正解……!
でも、ここにいて欲しい、安心して眠って欲しいっていう部分が抜けてるよ」

告げた私は、懲りずに彼に勢いよく抱きつき、体重をかけてバクラをその場にとどめようと再び座らせる。

「っ、おい!」

「休憩所! この部屋は休憩所っていうフィールドカード!
効果は、『バクラ』の忠実なるしもべである私が、『バクラ』に今だけは休憩してもらうために用意した場所ー!」

「……っ、」

カード説明のようにおどけた口調で告げた私に、黙り込む盗賊王。

「人間なんだから、具合が悪くなる時だってあるもんね。
誰だって……、あのファラオだって、盗賊王様だってさ。
……だから、ベッドで寝ててくれると嬉しい」

首筋に腕を回し、抱きついた彼の肩口から顔を出して、その後頭部を再び撫で回す。
全身から伝わる異常な熱さは、彼が生身の人間である証拠だ。

傷つくし、お腹も空くし、時には熱だって出る生身の肉体。


盗賊王は私を抱き返すことはなく、けれど諦めたようにはぁ、と熱っぽいため息をついた。

「……それなら、オマエがつきっきりで看病してくれるってのか?
ベッドも無しで、オレ様が治るまで飲まず食わず、一睡もせずによ――

言っとくが、ヤツの手を借りるのは無しだ。
ヤツにこの事を漏らしてみろ……、タダじゃおかねえぜ」

盗賊バクラはやはり、私という人間をまだ少しだけ見誤っているらしい。
だって、こんなの、あまりにも――

「いいよ! というかむしろ大歓迎!
嬉しい! 嬉しい嬉しいうれしい〜〜!!」

「ハァ!? てめ……、本当に分かってんのか?
学校ってやつはどうすんだよ、それに今のは――」

「挑発? 皮肉? でしょ? わかってるよ!
学校は休む! 親は出張でまだ帰ってこないから大丈夫!
なるべく寝ちゃわないように頑張るけど、もしこのコタツで寝落ちしちゃったら呼んで起こして!」

――そう、私にとってはこんなもの、最上級のご褒美でしかないからだ。


「へへ……、バクラさんの看病が出来る……!!
あぁでも、ただの風邪じゃなく本当に変な病気だったらどうしよう……
病院行くにも、保険証ないし……

ううん、考えても始まらない!
とりあえず熱を測って、頭冷やして……、水分補給もしないと!
えへへ、バクラさんが私のベッドに……
で、一晩経っても熱が下がってなかったら、あとは――」

「っ、ところどころ気色悪ィ本音が漏れてんだよ……!
あといい加減離れろ、抱きついたままギャーギャー騒ぐな、死にてえのか……!」

「あー……、幸せすぎる……!
あっでも、人の不幸を自分の幸せにしちゃうのは良くない、これは駄目……!
ごめんなさい、許してください! 二度としません!」

「あーあー、わーったよ……!
頭イカレすぎだろオマエ、なんでこうなっちまったんだよ……
っ、体が痛ェ……、ふざけんな、クソ……!」

「あっ…………、風邪ってね、人にうつすと治るっていう迷信があって……
た、たとえば、キ……

……っん! んん……っ!?」

「…………ぷはっ、オマエが何考えてんのかなんて、その顔見りゃすぐ分かるんだよ……!
こんなモンで治るなら、何度だってしてやる、だから今すぐ水持って来い……!
ハァっ、頭が痛ェぜ……、いろんな意味でな……!」

「〜〜〜〜ッ、幸せすぎて死ぬとはこのことか!
秒でお水持ってきまーす!!」

ダッ


END

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