20

※バクラ+盗賊王+夢主の複数性描写あり。
苦手な方はこの辺まで読み飛ばし推奨。






「やだ、やめて……っ、こんなの、おかしいよ……!」

口をついて出る拒否と戸惑いの言葉。

半ば無理矢理残りの衣服を全て剥ぎ取られ、私は二人のバクラの前で肌を晒していた。

「や……、」

幻想世界ならまだしも、れっきとした現実の中で。
同じ声を持つバクラ同士に、体を弄ばれるなんて。

恥ずかしいし、ちょっと怖い。
でもたまらず背筋がゾクゾクして、下腹部が疼くのも事実だった。

はしたなくて、貪欲で、欲望に忠実な私の身体。

もう、どうしたらいいのか分からない。


「や、ぁ……ん」

ベッドの隅で肩を抱き縮こまって座れば、力ずくで腕を引き剥がされた。
左右の胸にそれぞれ伸びた白い手と褐色の手が、膨らみを揉みしだく。

手の厚みや大きさは微妙に違うはずなのに――
彼らの手つきは似通っていて、全く同じ効果を私にもたらすのだ。

羞恥に耐えられず目を閉じれば、さらなる混乱が私を襲った。

「ん、ふ……っ」

不意に塞がれた唇。

歯列を割って絡まる舌を貪れば、この『彼』がどちらのバクラなのか分からなくなっていた。

どくり、と心臓が収縮し、とある背徳感を私に目覚めさせる。

唇を離されうっすらと目を開けてみれば、視界に入る見慣れた白い肌。

千年リングに宿る『バクラ』。
闇を湛えるその双眸には、どことなく人間らしい欲望の色が浮かんでいた。

「…………」

考えてみれば、肉体はどちらも10代後半の血気盛んな男の子たちのものなのだ。

普段己の行動を制御している理性的な思慮や超常的な思念に折り合いをつけ、『そういう』欲に身を委ねてしまえば、彼らと言えどただ貪欲で獰猛になってしまうのは不思議ではない。

だとしたら。

たとえ手打ちのための道具だとしても、二人のバクラに今、露骨な肉欲をぶつけられて――

この私が、正気でいられるはずがないのだ。


ずきずきと痛いくらいに引き攣る秘所。
さっき感じた背徳感を確かめるために、もう一度目を閉じる私。

控えめに抵抗し、肌に触れる腕を振り払おうとすれば、バクラ達の声が私の鼓膜を震わせる。

「おい、こいつを押さえとけよ」

「っ、オレ様に指図するんじゃねえ!」

――やっぱりだ。

目を閉じてしまえば、『溺れる』。

二人は同じような口調で、同じ声で喋る。
ともすれば、どちらがどちらか分からなくなるほどに。

普段の2倍の『バクラ』が私を侵食し、壊していく――


「悪ィがこっちが先だ。
てめえはオレ様が寝てる間に宜しくやってたんだろ……?
体力温存しといた方がいいぜ」

「ほざけ……!
貴様こそ昨晩は随分とはしゃいでたようじゃねえか……
こいつは元々オレ様のモノだったんだぜ……?
ちったぁ遠慮してほしいもんだな!」

「ケッ……! もはやてめえだけのモンじゃねえんだよコイツは……!」

――ゾクゾクする。

自らの口から漏れた「あ、は……」という声は、歓喜と、恍惚と、焼け付くように疼く胸のもどかしさから来るものだった。

「……おい」

異変に気付いたのは恐らく、現代のバクラの方だろう。

彼は私のどうしようもない性質を熟知している。
だからこそ、私が今、何に悶えているのか目ざとく気付いたのだ。

ぐい、と前髪ごと顔を上げさせられ、慌てて目を開ければ、訝しむように目を細めた白いバクラの顔が目の前にあった。

「貴様……そんなに視界を遮って欲しけりゃ、目ん玉くり抜いてやろうか?」

至近距離で発せられる物騒な言葉。

いつだか、何故かバクラが持っていた千年眼を見せてもらった時のことを思い出す。

私は怖くて聞けなかったが――
彼はきっと、『くり抜いたことがある』のだ。
私の知っている『誰か』の眼窩に収まっていた、唯一無二のモノを。

「それは、やだ……」

弱々しく答える。

全てを見透かしたように嗤ったバクラが、まるでこうなることを予測していたかのように取り出した、布のようなもの――

有無を言わさずそれで視界を塞がれて、頭の後ろで結ばれてしまえば、たちまち目隠しが完成したのだった。

既視感。
いつかの、古代の遺跡を模した幻想世界。


「……お前ら、いつもそんな事ばっかやってんのか」

もう一方から聞こえてくる呆れた声――盗賊バクラの声だろう。

盗賊王は私の救いようのない痴態を見て、さすがに引いているのかもしれなかった。

――無理もない。

本物の彼と私は、昨日が初対面なのだ。

未来の自分とも言える存在とその玩具の間にある変態ちっくで淫猥な秘め事は、出来れば知りたくなかったに違いない。

――だが。

「エロい女」

嘲笑うように吐き出された一言はしかし、やけに熱っぽい体温と共に迫ってきた。

身体を抱きすくめられ、唐突に耳朶を舐め上げられる。

「ん……!」

まさか、これは、盗賊王バクラ……!?

彼は、私の本性を見て、引いたんじゃ――

「っ、あッ……!!」

下半身へ伸ばされた指が、躊躇なく秘部をなぞり上げた。

これも盗賊王の仕業だろうか――
とっくに潤んで決壊寸前になっていたソコから、くちゅりと蜜が溢れ出す。

「……貴様はそのままこいつを宥めておけ。
言っとくが、ゆめを『作り上げた』のはオレ様だ……
貴様にも半分くれてやるからそれで満足しな」

バクラ、の声。
内容からして、恐らく千年リングに宿るバクラ――

その手に腰を掴まれ、仰向けでずるずると彼の方へ引っ張られる私。

「あ、っ……」

下半身から離れる指の感触。
バランスを崩した上半身はそのまま盗賊バクラに支えられ――
というか抱き起こされて後ろから拘束され、一切身動きの取れなくなってしまった私は、視界を塞がれた中で呻くことしか出来なかった。

「チッ……仕方ねえな」

耳元から伝わる声。

開かれる脚が、最後の拒否の言葉を紡がせる。

「やだ、やめ…………、
ッッあ、あぁん……!!!」

下半身にねじ込まれた熱が、全ての逡巡を打ち砕いた。

「や、や……!」

バクラの前でバクラに犯される――

狂った状況に放り込まれた私は、唇から甘い吐息を吐いて身悶えた。

体に触れる、四つの手。

ビリビリと痺れる頭の芯が、私をさらに淫らな獣へと変貌させていく。

「や、ぁ……っ、あっ、あぁ……っ!」

前のバクラは私の中を擦り、後ろのバクラは私を羽交い絞めするように拘束しながら、首筋へ唇を落とし双丘をやわやわと弄んで頂点をつまみ上げた。

「はぁ……、んっ、や、あぁ……っ!!」

身体の奥を突かれ、塞がれた視界の端が甘く明滅する。

本来ありえないはずの、下半身と背中越しから同時に感じられる体温は、明らかに異常な状況を示していたが――

信じられないくらい心地よくて、溺れるくらい深い沼だった。

「バクラ……っ、ん、バクラぁ……!」

身体を揺さぶられながら本能のままに喘げば、どちらか分からない唇が胸に触れて、突起を舐め上げられる。

「『そっち』ばっか呼んでんじゃねえよ……」

面白くなさそうな声が聞こえ――私が慌てて否定する前に。
ククク、と前から嗤い声が漏れて、素早く私の心を代弁してくれた。

「安心しな……!
こいつは、どっちのバクラも呼んでるぜ……!
……応えてやれよ、貴様のも欲しがってるぜ」

千年リングに宿るバクラだろう、その説明は、不穏な一言で締めくくられ――
それが示す意味を想像した私の心臓は、切なくドクリと収縮した。

「あっ、あ……っ、ん、や……っ」

唸りを上げて熱を蓄えていく身体のペースに、心が引っ張られる。塗りつぶされる。

判断力や羞恥心などとうに失われた。

だから、――


背中にあった体温が揺らぎ、バランスを崩す私の身体――
嬌声を漏らした唇の隙間から、質量がねじ込まれる。

「ん、んん……っ!!」

正体を考えるまでもない。

もう一人の、バクラ――
盗賊王を称する彼の、その猛った分身。

「……っ、ん……、」

まるでそうすることが当たり前だと言うように、舌を絡ませる私。

視界を塞がれた中で、ただ『感覚』に集中することだけが、私に課せられた使命なのだ。

首をめいいっぱい伸ばして、盗賊王バクラを貪る。

髪ごと頭を掴まれ、都合の良いように口内を嬲られれば、息が詰まって苦しさでいっぱいになる。

「んん、ん……!!」

もはや言葉は発せない。

蜜を溢れさせ蕩ける下半身はずぶずぶ掻き回され、揺さぶられ。

口内は欲望のままに蹂躙され、呼吸を奪われ、それでも歯を立てないように苦心して――

これが現実かどうかも、もはや分からない。

頭の中はぐちゃぐちゃで、私を滅茶苦茶にしているバクラたちが、どちらのバクラなのかも曖昧になって――

「く……、ゆめ……っ、……ッ」

「つーかお前……、手加減、しとけよ……?
オレ様のモンを、勝手にぶっ壊したら、ただじゃおかねえ……!」

「、お前こそ……、あんま無茶すんじゃ、ねえよ……!
噛まれんだろうが……!」

交わされるバクラたちの露骨な会話。

どちらがどちらなのか、今の私には冷静に判断する余裕もなかった。

「んん、んんん……!」

高みへ上りつめる身体。

それを伝えようにも、言葉を失った私には術がない。

バクラという闇に溺れる。窒息する。

上も下も塞がれて、犯されて。

快楽と恍惚と慕情と、ありとあらゆる感情が、衝動が、ないまぜになって――


「ん、んんん、んん――!!」

頂上へ噴き上がった炎が、全てを白に染めた。

それから、バクラたちの声と、吐息と、体温が、熱となって私の中に炸裂する――


だめ、わたし――――


意識が飛ぶすんでのところで、どちらかのバクラに頬を軽く張られた。

ぎりぎり現世に踏みとどまる私。

そうしてどうにか意識を保つことに成功した私は、朦朧とする頭で、まだ自分が生きていることに気付いたのだった。



「はぁ、はぁ……っ、ぁ……、はぁ……っ
もう、だめ…………っ」

二人分の熱を受け止めた私の体は、交接の余韻に震え、呼吸を乱していた。

目隠しを取ってからベッドに沈み、はぁはぁと喘ぐ。

――とんでもない事になってしまった。
そんな思いが私の頭をよぎった時だった。

「……生きてるかぁ?
起きろよ。あと『半分』行くぜ」

――――。

多分そう言ったのは盗賊バクラだっただろう。

気怠い体を起こし、魔の手から逃れようとするも、当然それは無駄な足掻きだった。

「や、まだ、だめ……」

弱々しく抗議をするも、そんなものを受け入れる彼だったらそもそもこんな事にはなっていない。

「ぁ……」

「ヒャハハ……!
そいつの化け物じみた体力に付き合ってやれよ、可哀想だろ……?」

私を茶化す白いバクラのふざけた声。

「ぁ、ぁ……!」

今度はうつ伏せで後方に引きずられる身体。


「やだ、私の身体、壊れちゃうよ――
ッッ、あぁぁん……!!!」

腰を突き出させられ、背後から被さるようにずぶりと欲望が流れ込んできた。

「や、や、まだ、ぁ……!」

達したばかりの身体を容赦なくこじ開け、奥を穿つ盗賊バクラの熱。

「や、ぁだ、ぁ、ん、あ……っ!」

上半身はもはや力を失って、下半身だけが彼に支えられた状態でガツガツと腰を打ち付けられる。

「こわれ、ちゃう、ぁ……!」

滅茶苦茶に歪む視界の中で、バクラの白い肌が揺らぎ、私の上半身を抱き起こした。

「もうちょっと頑張れよ、淫乱女……!
こういうのがお望みだったんだろ?
自分から特盛頼んどいて半分も残しちまうってのは、マナー違反だぜ……!」

バクラはひどいことを言う。

――でも、多分それは本当だ。

こうなることを望んだのは私だ。
たとえバクラたちに巻き込まれた形だとしても。

そもそも私が盗賊王をちゃんと拒んでいればこんなことにはならなかった。

だが――何回やり直したって、決してそれが出来なかったであろうことを、私はちゃんと自覚している。

だから。

「ん、んん……!」

腕に力を込め、上半身を支えると、私は唇に押し付けられたモノを素直に受け入れた。

既視感。
いつかの幻想世界での狂宴が脳裏をよぎる。

舌を這わせ、喉を突くほど深く銜えて。
バクラたちの熱を、全身で受け止めて。


そうして、図らずも実現した幻想を、私は全力で貪った。

絞り取って、飲み下して。
体中に刻まれた『バクラ』の存在に、耽溺して――

そして。





「はぁっ、はぁ……っ」

ベッドで仰向けになり、私はまた意識消失寸前で浅い呼吸を繰り返していた。

さすがのバクラたちも多少は疲労したようだ。

私の左右に寝転んだ二人のバクラは、気怠そうに体を投げ出している。

――それは、ほんの僅かな時間だったのかもしれないけど。


白い肌と褐色肌の胸の上で、緩やかに上下する黄金の輪――
3000年を経て彼らを繋ぐ、千年リング。

ほとんど無意識だった。

疲れきった私の目に留まった、二つの千年リング――

それらを、何気なく、触って比べてみようとして。

手を、伸ばす。

まずは白いバクラの千年リングに。

何度も私の上に落ちて広がり、あるいは合わせた胸の間でひんやりと存在感を放ち、あるいは口へ押し込まれて――

獏良君の体を持つバクラと過ごした全ての時間に、共に在った千年リング。

たとえ邪悪な念がこもった宝物だとしても。
噴き上がる闇に骨の髄まで魅入られてしまった私にとっては、その気配がただ愛おしい。

3000年の時を経たとは思えないほど不気味に輝き存在感を主張するリングは、ただ冷たく、硬い感触はいつものそれだった。


次に、盗賊王の千年リングにも手を伸ばす。

彼はどういういきさつでこのリングを手に入れたのか。
現代のバクラからうっすらと聞いたような気もするが、よく覚えていない。

盗賊バクラは、そこに宿っていた邪念を己の力とするために吸収したと、現代のバクラは言っていた。

であれば、盗賊王が手に入れたときに既に千年リングに宿っていた邪念とは、一体何なのだろう――

そんなことを考えながら。

ほとんど『同じ』であろう、そのひんやりとした輪っかに、触れ――た。

と思った、その瞬間。


ばづん、と。


何かが遮断された音がした。

――否、正確にはそれは音ではなかった。

まるで、容量が決まっている回路に、高電流をいきなり流し込んだ結果、全てがショートしてしまうような。

そんな感覚だった。

声を発するどころか、体を動かすことも出来なかった。

目隠しはとっくに取ったはずなのに、視界が――
否、すべてが闇に染まった。


「――――、」


私の意識は、そこで途切れていた。



**********



「……おい、」


何が起きたのか分からなかった。

盗賊バクラは硬直していた。


ゆめという女が、『あっちの』バクラの千年リングに手をやって――
それから、『こっちの』千年リングに手を伸ばしてきた。

恐らく、ただの戯れだったのだろう。

二人のバクラの真ん中に寝転んでいた彼女は、左右の腕を伸ばし、同時に二つのリングを触ろうと――
ただ、そうしようとしたに過ぎないのだと思う。

だが、一つ目のリングに触れた彼女が、こっちの二つめのリングに触れたと思った瞬間、彼女は、『止まった』。


それは比喩表現なのかもしれない。

しかし、彼女が自分の体を介して二つの千年リングを『繋げた』瞬間、何かが彼女の体に流れ込み、破壊した――

そんな風に感じられたのだ。

「ゆめ……、どうした」

彼女は完全に意識を失っていた。

思わず首に手をやる――脈はある。死んではいないようだ。

「どういうことだ……」

呟いたのは、ゆめを隔ててベッドの上にいるもう一人のバクラだった。

「貴様……何をした」

ぎろりと盗賊王を睨む白い肌のバクラ。

「そりゃこっちの台詞だ……!
『そいつ』に含まれてるモンのせいじゃねえのか?」

千年リングを指差してから負けじと睨み返し、ゆめの口元に手の甲をかざす盗賊バクラ。

――呼吸はしている。ただ、突然気絶しただけのようだ。

しかし、何故。

「……二つの千年リングに触れた、瞬間……何かが」

「ああ」

確信の持てないまま口にした言葉は、やけにあっさりと白いバクラに肯定され、先程感じたモノが決して自分だけの気のせいではなかったことを盗賊王は思い知った。

二人はそのまま口をつぐみ、しばし沈黙する。

白いバクラはゆめの髪ごと頭を掴んで揺らし、褐色のバクラは彼女の肩に手をやって力を込めた。

――だが、ゆめは全く目を覚ます気配がない。


「…………この世に二つと存在するはずのない、モノ……
千年リング同士、のせいか……?」

下半身だけ服を着込みながら、白いバクラが自問自答するように語る。

盗賊バクラも素早く服を着ると、未だ裸のまま気を失っている少女の頬を撫でた。

――温かい。

ゆめという女は先程までと同じ体温で、しかし固く目を閉じ、身じろぎすらしなかった。

「…………」

ゆめを見下ろす盗賊王の一方で、千年リングに宿るバクラは何かを考え込むようにじっと床の上に立ちつくしている。

その手に握られているのは――見間違うはずのない、千年アイテムの一つだった。

千年ロッド。

かつて、とある神官の一人が所持していたモノ。
昨日テレビとかいう画面にその神官とよく似た男が出ていたことを、盗賊王はふと思い出した。

「……そいつを使ってコイツの頭ん中を覗こうってか」

白いバクラの思惑を推し量り、盗賊王は口にする。

「そうすれば確かに、ゆめの中で何が起こっているのかを調べることは出来るかもな」

間髪入れずに返ってきた言葉は、盗賊王の推測を肯定するものだった。

――が。

獏良了とかいう人間を宿主とするバクラは、どこまでも非情だった。

彼は、冷酷な笑みを浮かべるとにべもなく吐き捨てた。

「別にコイツが目を覚まさなくてもすぐには問題ねえよ。
わざわざ千年ロッドの力を使ってやるまでもねえさ」

まるで彼は、そのためにわざわざロッドを手に入れたわけじゃない、とでも言いたげな口ぶりだった。

――あんなに『バクラ』を慕っている女を見殺しにして。

彼女に起きた現象が、何か妙なもの――
もしかしたら、このタイムスリップとかいうありえない事態のせいかもしれないという可能性もあるのに、それでも千年リングに宿るバクラは、ロッドの力を行使する手間を渋るというのだ。

「……随分と冷たいんだな、てめえはよ。
さすが大邪神の影響ってか。ちったぁ人間らしいところもあるかと思ったんだがな」

盗賊バクラの口をついて出たのは、自分でも意外な言葉だった。

すぐに気付く。
――これじゃあまるで、このイカレた女を心配してるように聞こえるではないか……!

盗賊バクラが、己の発言を後悔すると同時に。

「てめえこそ随分と人間らしくなっちまったじゃねえか。
見ず知らずの世界で、都合よく自分に惚れて世話を焼いてくれる女に入れ込んじまったってか……?

……それとも、オレ様の目を盗んでそいつから更なる情報を引き出そうってか。
残念だったなぁ、そいつはもう何も持っちゃいねえよ……!」

白いバクラから返ってきたのは、盗賊王を挑発するような物言いだった。

チッ、と舌打ちをこぼし、挑発には乗らずにこれからどうするべきかを考え始める盗賊バクラ。

――そして。


「……少し様子を見る。
そいつに異変があったら教えろ」

そう言って、白いバクラは上裸のまま千年リングと千年ロッドを持って部屋を出て行った。

ドアが閉まる。
次いで廊下の方から別の扉の音がして、彼がどうやら外に出るわけでは無さそうだということを知る。

結果的にゆめを押し付けられた格好になった盗賊王は、思わず眉根を寄せた。

「ケッ……」

悪態をつき、ゆめの顔を見つめる。

その瞼は、未だ開かれる気配が無かった。


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