11



「……はぁ……、はぁ……っ」

懺悔と、幸福感。
そして、自己弁護の念。

相反する感情が気だるい全身を支配する。

私はやはり盗賊バクラに逆らえなかった。

醜くも、愛欲を盾にされてあのバクラの秘密を暴露してしまった。

彼はきっと私を許さないだろう。
私は罵倒され、否定され――あげく消されてしまうかもしれない。

だが私は、盗賊王に焦らされて籠絡されることが嫌ではなかった。
嫌どころか、心の奥では期待していた。

そして全てが終わったとき、私はとめどない満足感と嬉しさに包まれていたのだ。

矛盾――どうしようもない私の心と身体。


私は『バクラ』に逆らえない。
ば、く、ら、という三文字は私を狂わせる。

そういう風に出来ているし、進んでそうなったのだ。

だから、仕方ない、と……

しまいにはそうやって、自分を正当化して言い訳までしてしまう始末なのだった。

どうしようもない……
私は本当にどうしようもない人間だ。


「……うぅ……自分の弱さが憎い……」

顔を伏せてベッドに寝転び、自分の弱さや醜さに悶える私。

「ククク、同情するぜぇ……!
ま……、奴もオレ様だってなら、そりゃオマエが抗えないのも仕方ねえ」

隣に座り、私を見下ろしながらそんなことを言う盗賊バクラは、本当は同情なんかしてやしない。

だがいくら彼が手練手管を尽くしたとしても、それに流されたのは私自身なのだ。

「オレ様の魂が3000年後に持ち越される……ねぇ」

「……」

「クク……ヒャハハハハ!!!」

盗賊王の哄笑。

「面白ェじゃねえか……!
この『未来の世界』とやらにも、オレ様が存在するだと……?
にわかには信じられねえがまぁ乗ってやるよ。
それと……いくつか質問がある」

まるで下らないというようにひとしきり嗤ったバクラは、それでも話の続きを私に求めてきた。

もはや後の祭りだ。
私に出来ることは――そう、何とか話の方向を制御しながら、今隣に在るこの愛しい気配に恍惚とするくらいだ。

「ヤツの魂がオレ様なら……肉体は誰のモノだ?」

「それが、獏良了くんだよ。
獏良君は私の同級生……お友達。この世界に生きるれっきとした人間だよ。
バクラさんと声が似てるのとか、名前が同じなのはなんでだろう……偶然……?
良く考えたことがないからわからないや……」

「ほう。
なら、『ヤツ』は……『オレ様の成れの果て』は。
獏良了という人間を宿主とし、この世界に存在していると……
『リングに選ばれた』とはそういう意味だな?」

相変わらず盗賊王は理解が早い。

だが獏良君の本来の精神が、あの大人しくて優しい性格だと盗賊王に知られるのはさすがに怖い。
あっちのバクラにとって、獏良君の存在は弱点でもあるのだ。

何故なら――獏良君の体がなければ、『バクラ』は表に出てこれないのだから。

故に私はそれ以上補足をせずに、黙っていた。

だが次に盗賊王から発せられたのは、意外な言葉だった。

「なるほどなァ……
で、オマエは仲間である『獏良了』を人質にされ、リングに宿る『バクラ』に逆らえなくなった、ってワケか……
クク、オレ様のやり方じゃねえが……、まぁオマエを選ぶ時点で理には適ってやがる」

「んっ??」

盗賊バクラは勝手に何かを理解したように含み嗤いをし、横たわる私の髪を弄りながら変なことを言った。

「そうしてヤツの言いなりになるうち、オマエはいつしかヤツに心まで奪われちまった……
そういうこったろ?」

「…………」

思わず違う、と言おうとして、でもそう思わせておいた方が都合が良いのか、本当のことは言わない方がいいのかと逡巡し、私は唇を噛んで黙りこんだ。

そっとバクラの顔を見上げれば視線が重なり、双方沈黙したまましばしの時間が流れた。


ふと、バクラの眉が何かに気付いたようにピクリと動き、「まさか、」と声を発す。

「……まさかオマエ……
自分から近付いた、ってのか……?
ヤツが獏良了とかいうお仲間じゃなく……リングに宿る別のモノだと分かっていて……?」

「…………、」

信じられないものを見たというような声で語る盗賊王に、何となく気まずい気持ちになった私はそっと視線を逸らした。

「千年リングには邪悪な念が宿っている……
それはオマエにも分かってるよなぁ?
いや、それどころか……外でヤツと対峙した時に感じられた気配……
アレはオレ様の千年リングよりももっと――

いや、それはさておきだ。
アレが邪悪なモノだと分かっていて、オマエは自分から近付き、進んで下僕になったと……
そういう話だってのか……!?」

「っ……!」

盗賊王が声を荒らげて推測した経緯は、驚くほど的確で――
否、でも私とあっちのバクラの関係において口火を切ったのはバクラの方だったような……
ああでも結局は私が心を寄せたのが原因だし――

などとごちゃごちゃ考えて。

自分の愚かさを客観的に指摘された形になった私は、恥ずかしさから顔を上げられなくなり――
枕に顔を伏せると首をふるふると振って、それ以上言わないでと無言の抗議をするのだった。

「ケッ、信じらんねー、つーか呆れてモノが言えねえぜ……!
馬鹿だとは思ってたがここまでとはな……!
やっぱイカレた女だぜ、てめえは……!」

頭上から降ってくるバクラの罵倒。

「…………」

わかってる。
わかってるけど。

でも、だって。

だって!

「だって…………好きになっちゃったんだもん……」

バクラとは逆の方を向き、小声で吐き出す。

ちくちくと痛む胸。
その心に宿る感情がもっと穏やかで、ほの甘くて、臆病で、冷静だったなら――

こんなことにはなっていなかったのに。

バクラを好きになっていなければ、私は今でも純粋に『邪悪なモノと闘う遊戯君の仲間』で居られたのに。

でももう遅い。とっくに手遅れだ。
私はバクラを好きになってしまった。愛してしまった。

そしてそれは、自分の意志でそうなったのだ。

いけないことだと分かっていて深淵を覗いたのは私だ。
たとえ深淵から伸びて来た手に、肉体も魂も全て捕らわれ、引きずり込まれてしまったとしても。

後悔などない――だから。

……私はそっと目を閉じ、自分の本心と向き合うと、更なるバクラの追撃に備えて身を固くした。

だが。

「好き、か……
ンな下らねえ感情は理解出来ねえが……、
……己を滅ぼしちまいそうな程の激情、ってヤツなら理解出来ねえわけじゃねぇ」

「……っ!」

次に降って来たのは、冷ややかな、それでいて激しいモノを無理矢理封じ込めたような、声――

吐き出された、その声は。

どこか、哀しくて。

私はのっそりと体を起こすと、そっとバクラの表情を伺ってみるのだった。

「バクラ……」
「ンな事はどうでもいい……!
聞きたいことはまだある。
この世界での『バクラ』はオマエに、かつてのオレ様の情報を吹き込んだ。
……そうだな?」

何かを振り払うように遮って投げかけられる次の質問に、慌てて「う、うん」と答える私。

「だがオマエの反応を見るに、吹き込んだのは情報だけじゃねえ……
お前はオレの姿が盗賊王バクラ様だと知っていた。
少なくとも、初見で『ヤツ』だと思って気軽に話しかけるくらいには、だ……」

「……っ!」

「……オマエはオレのこの体を、初めてじゃねえと言ったな……?
奇妙なこともあったもんだ……
3000年前に生きていたはずの男と寝たことがあると、オマエは仄めかしやがった。
どういうコトだ……!?」

呼吸が止まった。

私、は……たしかに。

熱に浮かされて、たしかに、とんでも……ないことを、このバクラに、言ってしまった気がする……。

私が、盗賊姿のバクラと何をしたか?
――反射的に脳裏に浮かぶ、いつかの幻想世界でのいかがわしい戯れ。

答えられるわけがない。

心臓がギュッと締め付けられ、私はまたバクラから視線を外して慌ててベッドに伏せようとした。

だが、逃げるなというようにガッと肩を掴まれ、逃亡を阻止されてしまう。

「おい」

詰問するような盗賊バクラの眼。

冷や汗が額に滲む。


「…………ノーコメント、で」

「ハァ?」

私の口から発せられたのは、心底下らない言葉だった。

だってあれは、ただの創られた世界で。
した事と言えば、口に出せないようなことで。

それにそもそも、あれは『決戦』のための練習……
『舞台』の調整のようなものだ。
私だって詳しくは知らないし、バクラだって教えてはくれない。

そして当然だが、この世界での決戦にまつわることは盗賊王には明かしてはならないのだ。

「てめえ……ふざけてんのか」

「え、えと……、強いて言うなら…………
盗賊王バクラと行く! 遺跡探検ツアー! in古代エジプト再現バージョン〜アダルトシーンもあり〜

…………みたいな?

うわぁぁっゴメンなさい!
ナイフやめて! ていうかどこに仕舞ってたのそれ!?
やっ……、脅さないでぇゴメンなさい……!
た、ただの暇つぶしのいかがわしいコトだからアレは多分……っ!
言えないっ、言えないよ……!
あんな、恥ずかしいコト……!!」

「…………っ」

硬直。

盗賊王は露骨に変な顔をして、私を正面から睨めつけた。

終わった……

いたたまれなくなって、両手で顔を覆う私。

そっと離されたナイフは既に力を失っていて、バクラは大きなため息を一つつくと、
「未来のオレは一体どうしちまったんだよ……」
と呟いたのだった。

だが彼も肉食系の男。
詳細は分からずとも、自分自身の『再現』と本物を比べられたのだと何となくわかったのだろう。

無駄口だとは知りつつも訊かずにはいられないといった様子で彼は、
「で、どっちのオレ様が良かったんだよ?」
と私に訊いてくるのだった。

欲しい答えが見えているその質問に、私が
「それはもちろん、本物のバクラさんの方が……」
と答えれば。

盗賊王は満足したように嗤って、この話を終わりにすることを許してくれたのだった。



盗賊王の質問攻めは続く。

「3000年の時を経て、この世界に蘇った、『バクラ』……
なら、その目的はなんだ……?
さっきははぐらかされたが、今度こそ答えてもらうぜ」

「……」

その質問は、あのバクラがこの時代で獏良君の身体を乗っ取ってまで現れた理由、そのものだった。

私は先程のやり取り――
このバクラに一番訊きたかったことを質問した時のことを思い返し、口を開いた。

「……その答えは、もう出てるよ。
さっき同じ質問をされたときに私が訊いて、バクラさんが答えた内容の中に」

「なんだと……?」

「バクラさん。
あのバクラと今ここにいるバクラさんがほとんど同じ魂だとして。
もしかしたら『未来の自分』を苦しめちゃうかもしれない質問に……
私が答えられると思う……?」

「……っ」

嫌な言い方だな、とは思う。

けれども私にはそう言うことしか出来なかった。
私だって、3000年前『バクラ』がどんな風に最期を迎えたのか、詳しくは知らないのだ。

ただわかるのは、彼は……バクラは、かつて、目的を果たす事が出来なかった。
何故なら、バクラが目的を果たせていたなら、ファラオの魂が現代に持ち越されることなど無かったのだから。

そして、『バクラ』は目的を諦めない。いつ、どの時代だって。

3000年前、ファラオを葬り損ねたバクラが。
七つの千年アイテムを揃えても揃えられなくても、どちらにしても結局『痛み分け』のような形になり、千年アイテムに封印されて有耶無耶になってしまった結末を辿ったバクラが。

現代という『機会チャンス』を、もう一度与えられたなら。

『バクラ』は一体どうするか。

そんなの決まりきってるし、いちいち言うまでもないからだ。


盗賊王オレの目的を引き継いだバクラが……
予期せず現れた、オレ様という過去の異物に……、
この時代での目的を阻害されることを、恐れている……、か?」

一語一語を噛み締めるように口にしたバクラは、とうとう正解に辿り着いた。

こくりと頷く私。

盗賊王が今述べた事実はつまり、自分の闇雲な行動が、いつかの自分の首を絞める……
自縄自縛の様相に陥る事と同義であることを、彼自身に突きつけていた。

勿論その意味、それが孕む重大さに気付かない彼ではないだろう。

ゆえにバクラはそのまま沈黙し、何かを考え込むように真剣な表情を浮かべ、それで質問タイムは終わりを迎えた。

そんな彼の様子を見て、ある意味安堵した私。
気だるい体を起こし服を着ると、のろのろとベッドを抜け出すことにする。

そのまま制止されることもなく、「ちょっと下掃除してくるね」とだけ言った私は、そのまま部屋を出たのだった。


獏良君の体を持つバクラは今頃何をしているだろうか。

彼がこの事態の解決方法を見つけられたなら、それで全てがうまく行くのだが……

いいや。
盗賊バクラに懐柔されてしまった私には何を願う資格も無い。

それでも私は。

二人のバクラが、あるべき道を往けるようにと――
願って止まないのだった。







「……い」

心地よい暖かさが体を包む。

うーん……

ふわふわと漂う蒙昧な意識。

眠い……

「おい」

声がする……

「起きろ」

これは……あのひとの声だ。

「ゆめ」

私の名前を呼ぶ声。

頭を撫で回す温もり。

すき…………

「起きろっつってんだよ!!!」

「ッ!?!?」

ガッ、と肩に衝撃を感じ、意識が無理矢理覚醒方向へと引っ張られる。

「いつまで寝てやがる……!
まだ食いモンは沢山あんだろ、寄越せ……!!」

頭上から降ってきた遠慮の無い物言いは、たしかにバクラのものだった。

「うぅん……」

ゆっくりと体を起こす。

ベッドの上。
カーテン越しに漏れる光。

私を睨みつけるバクラ――盗賊王の顔。

「あれ……? もう朝……?」

記憶を手繰る。

昨日はたしか、盗賊バクラが現れてあのバクラと言い争いをして……
それで……このバクラと一緒にご飯を食べてお風呂に入って、それで……

「ケッ……お前の無防備さには恐れ入るぜ。
自分が人質だっつーことを忘れたか? ゆめ」

「……」

そうだ。
私はこのベッドで、このバクラと……。

それから、下に降りて汚れたソファーや床を掃除して、外套以外のバクラの服を洗濯して乾燥させて、そして……
疲れて眠くなっちゃって、2階に戻ってきて寝てしまったんだった。


「バクラ……さん。
バクラさんはよく眠れた……?」

ふあぁ、と俯いてあくびを殺し、目をこすってベッドから降りる私。

「ごめんなさい……なんか疲れちゃって。
バクラさんの方が疲れてるだろうに……いっぱい寝ちゃった」

ぺたぺたと床を歩き、のろのろと部屋を出る。

「何だよ、そんなに疲れるほどオレ様のが『良かった』、ってか?
そりゃ光栄だな……」

クク、と嗤うバクラの皮肉にも上手く反応できない私は、思わず「うん」と答えてしまう。

横でバクラが変な顔をした気がしたが――
私は構わず、階段を下りていったのだった。

――あれ?
そういえば、バクラはどこで寝たんだろう……?

昨晩私がベッドに潜り込んだ時、盗賊バクラはたしか……

いいや思い出すのはやめよう。

もし、大好きな温もりが、当たり前のように一晩中隣に寝ていたのだとしたら。

私はきっと、その幸福感に正気を失ってしまいそうな気がするから。





「本題に入るぜ、ゆめ」

ソファーに並んで座る私と盗賊バクラ。

朝食を済ませた私たち。

――話はちょっと遡るが、実はその朝食の時にもまたひと悶着があったりする。

私が朝の回らない頭でボーッとシリアルを出したら、バクラが肉を食わせろと騒いだのだ。

朝からお肉なんて……ベーコンやハムならともかく……でもハムは昨日の生ハムが最後だったし……
というわけで、私は冷凍ハンバーグを彼に用意してあげることにした。

毎度毎度出来合いのものばかりで申し訳ないけど、時間も材料も手早く調理できる技術もないから仕方ない、そう思いつつ。

そうして、デミグラスソースがかかったハンバーグを一口食べたバクラは――
ちょっとだけ変な顔をして、また例のごとくしばし固まってしまい。

やがてガツガツと食べ進め、パンにかぶりつき、それから――なんと。

付け合せのブロッコリーをフォークに刺して、じっと目を細めて凝視しているではないか!

……耐えられず吹き出す私。

古代エジプトにはブロッコリーは無かったのだろうか?

こちらをぎろりと睨んだバクラが何事かを言う前に、私は慌てて笑うのをやめて彼に追い討ちをかける。

「それはね……、小さな木だよ」

一応言っておくと、私はその時たしかにちょっとふざけていた。
新鮮な反応をするバクラが微笑ましくて、ついからかってみたくなってしまったのだ。

だが盗賊王は、私のふざけた説明を真に受けたのか、さらにじっとブロッコリーを眺めていて――

さすがに悪いと思った私は、「ごめん嘘。野菜の一種だよ。付け合わせでちゃんと味ついてるから食べられるよ」と言ったのだった。

あの、何者をも恐れない盗賊王バクラが……ブロッコリーに戸惑うとか!

ダメだ。可愛いし微笑ましいし胸がばくばくする。

ギャップという名の棍棒で、頭を殴りつけられたような衝撃に等しい。
私は込みあがる笑いを押し殺して平静を装った。

――が。

食事が終わったあと、食器を片付けリビングに来た時に、いきなり『それ』は飛んできた。

「ぅあん!!!」

思わず犬のような悲鳴を上げる私。

何事かと目を白黒させてみれば、盗賊王が死角から私のお尻を割と強めにはたいたらしかった。

わけがわからず彼の顔を窺えば、降ってきたのは「次にふざけたこと抜かしやがったら殺すぜ」という一言。

だがその物騒な台詞とは裏腹に、口元は心なしか不敵に笑っていて――

素直に謝った私は、もう盗賊バクラをからかうのはやめようと心に誓ったのだった!



とまあ、それはさておき――話は戻る。

夜が明けても状況が何ら変わっていないこの不可思議な現象をいい加減どうにかしようと、私たちは現実に向き合っていた。

ソファーテーブルの上に置かれた携帯電話。

腕を組んでそれを見つめながら盗賊王が発した提案は、私を心底驚愕させるものだった。

「え……本当?
あっちのバクラと連絡とっていいの……?」

盗賊のバクラは昨日この世界に現れた時、獏良君を宿主とするバクラに不信感を抱き、対立した。

結果私は人質にされ――あっちのバクラは私を盗賊王にくれてやり、同時に盗賊王を私に預ける形で――
この家で、私は盗賊王と一晩を過ごしたのだった。

だが様々なやり取りを経て、盗賊バクラは、自分自身の魂が千年リングによって3000年後に持ち越された結果があのバクラだということを知った。

同時に、かつて己が果たせなかった目的を、この世界のバクラがこの時代で実現しようとしているのだということも――

実際は、『あのバクラ』は、盗賊バクラと完全に同じ魂ではない。
それどころか、千年リングを本体とするバクラは、人格らしきものがバクラというだけで、本質は人間ですらなくごっそり別のモノ――
闇やら邪神やらというモノに取って代わられているのだと思う。

でも、それでも。

獏良了を宿主とするバクラが、『バクラ』を名乗る限り――

盗賊バクラとあのバクラは、決して切り離す事は出来ないのだ。


「オマエの話が本当なら、ヤツがオレ様を警戒していた理由もわかる……
千年リングが二つ存在するなんつーイカレた状況……平然としていられるワケがねえからな。
だが、まだ確認したい事は山ほどある……
ヤツを警戒させずにおびき出せ、ゆめ」

「えぇ〜……」

バクラの要求。
それは実際にはとても難しいもので、私は頭をひねってしまうのだった。

昨日の今日だ。
あっちのバクラは、盗賊王とその人質に取られた私の行動を、この上なく警戒していることだろう。

「じゃあとりあえず……
『バクラの正体がばれた。その上で盗賊王さんが協力してくれるそうだから、会いたい』
……とか?」

「待てよ。オレ様は協力するとは言ってないぜ……?」

「むぅ……。じゃあ、『とりあえずバクラの邪魔はしないから』みたいに言う……?」

「いいぜ。……ちょっと待て、そいつを寄越せ」

「えっ……?」

携帯電話を手にしメールを打とうとしたところで、盗賊王の手が私から携帯を奪い取った。

「教えろ」

その顔はどこか面白がっているような、期待に満ちた表情を浮かべていて――
ああ、メールを自分で打ってみたいんだなと理解した私は、側に寄って彼にメールの打ち方を教えるのだった。

(なんだか可愛いなぁ……)

甘く疼く心。
それは昨晩のような、業火に焼かれた情愛というよりは――
もっと、穏やかで、暖かくて、そっと寄り添いたいような温さだった。

もちろん、そんな腑抜けたことを考えている場合じゃないのは分かっているけども……。


「出来たぜ!」

ソファーの上で体育座りをし、ボーッとテレビを見ていた私の横から発せられた声。

自信ありげに携帯電話を寄越してくる盗賊バクラから携帯を受け取り、入力が終わったメール画面に目を通す私。

『盗賊王バクラ様はバクラの正体を知った。
素直に話し合いをするならバクラの邪魔はしない。
だから家に来な』

「……ってちょっとー!?
バクラさん……ちょっとふざけてるでしょ……?」

「ヒャハハハ!!!」

盗賊王はソファーにふんぞり返り、豪快に高笑った。

「んもー……」

むくれてメールを直す私の中で、むくむくと広がっていく甘い感情。

思いもよらず知ってしまった、盗賊王バクラの意外な部分。

復讐だの精霊獣だの千年アイテムを集めて大邪神の力を手に入れるだの、そういったきな臭い部分を除いたら――
案外彼は、年相応の微笑ましい部分というか、人間らしさを持っているのかもしれなかった。

そしてそれこそが、たまにあのバクラからも感じられるお茶目(?)な部分なのだと、私は知っていた。

唇を噛む。
『バクラ』を愛しいと思う気持ちが沸き上がり、顔を火照らせる。

「バクラさんて……ちょっとずるい」

小声で吐き出した私は、修正し終えたメールを送信するのだった――


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