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 亜沙子としては、占ってもらいたいという希望もないのだし、さっさとここから脱出して、煙の含まれていない新鮮な空気を吸いたかった。
 鈴木に見つめられると、居心地が悪くなる。眼差しは鋭くないものの、妙な力でも発しているかのようで、正面から目を合わせづらい。
「柊さん、あなたの連れの方、変わってらっしゃるのね」
「はあ、かなり」
 そこは否定しなかった。事実だ。
 私は何を占われるのだろう。黒峠と同じように、健康運で、寿命などを予言されるのだろうか。
「あなた、私の息子に会ったんでしょう。黒峠さんに近づくな、とか、言わなかった?」
「宮川君と話したんですか」
 鈴木は答えず、笑顔のまま自分の右耳のピアスに触れる。
「あなたと黒峠さん、相性が悪いわ。二人が近づくと、災いを呼ぶの」
 相性ばっちりよ、と誉められるよりはましだ。
「もう、会わない方がいい。あなたは彼と別れて、このまま家にお帰りなさい」
 亜沙子は唇を引き結んだ。
「……宮川君と、同じこと言うんですね。占いだか、警告だか知りませんけど、私は自分が誰と会ってどうするか、自分で決めます」
 あんまりむきになると、黒峠と会いたがってると思われやしないだろうか、と思い、急いで「別にあの人と会いたいわけじゃないですけど」と付け加える。
 鈴木は亜沙子の言うことを聞いているのかいないのか、目を伏せて、鼻歌を歌っている。聞いたことのない曲で、独特のテンポだった。
 その曲を聞き、煙に包まれ、薄暗い中で座っていると、気分が悪くなってくるようだった。彼女は鼻歌をやめようとせず、ゆっくりとそれに合わせて首を左右に振っている。
「あなた、声が聞こえないんですってね。珍しい」
 何のことかわからなかった。
 そういえば、和也が自分にあてた手紙にもそんなことが書いてあった。
「私は、聞こえすぎるくらいなの」
「何の話ですか」
「そのうちわかるわ」
 鈴木は煙草を灰皿へ押しつけた。
「いい子だから、私の言うことを聞きなさい。あなた、黒峠さんと何の関係もないんでしょう? 彼のことは忘れなさい。あなたと彼は、相性の悪い星のもとに生まれてきたの。彼のそばにいると、とても困ることになるわよ」
「そうですか」
 亜沙子は素っ気なく、できる限り素っ気なく返事をした。彼女に気圧されていると気づかれないように。



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