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 占い屋「水連星陣」は、駅から少し離れたビルの四階に店を構えていた。看板を見たところ、美容室や英会話教室なども入っているらしい。
 車から降りた黒峠は、いつものように円へ待機するよう指示する。亜沙子は黒峠の制止を振り切って車から出た。
「君も待ってなよ」
「いいえ、行きます。占いに興味があるんです」
「占ってもらわない方がいいんじゃないかな。がっかりして、生きていく気力がなくなったらどうするの」
「どうして悪い結果が出るって決めつけるんですか」
 二人は狭いエレベーターに乗り込み、亜沙子はなるべく黒峠と距離を置いて立った。
「宮川君のお母さんに、何を聞くんですか?」
「彼の居場所だよ。逃げてるだのなんだのって、言われっぱなしじゃ気になるじゃないか。ところで柊君」
 黒峠が後ろに立つ亜沙子へ振り向く。
「君の件は済んだのに、何故ついてくるんだ」
「興味があるからです」
 亜沙子はこの一点張りだ。黒峠を目つきで威嚇する。黒峠はその視線から逃れるように首を傾げた。
「君はそんなことに興味を持たないで、もう少し外国語に興味を持った方が……」
 四階に着くと、亜沙子は黒峠を押し退けてエレベーターをおりた。何かよくわからない事務所の小さな表札が出ているドアの前を通り過ぎる。
「そういえば、ここのビルに英会話教室があったね。そこで英語を学んでいったらどう?」
 笑いまじりの黒峠の冗談を、亜沙子は当然聞き流した。
 『霊感占い 水連星陣』は見かけからしても怪しい店だった。入り口がすでに怪しい。
 ラメ入りの、安っぽい紫色のカーテンがかけられていて、胡散臭かった。おどろおどろしい字体でガラス戸に書かれた店の名前。わざと胡散臭くしているのではないかと疑いたくなるほどだ。
 亜沙子も友達に誘われて、手相を占う店には行ってみたことがある。占いに夢中になる性格ではなかったが、その時はまあまあ当たるところもあって、面白いとは思っていた。
 その店とのあまりの雰囲気の違いに、思わず足が止まる。絵に描いたような胡散臭さに、呆れたのだ。
「怖じ気づいたのなら帰っていいんだよ。私もその方がありがたい。君と関わってると、ろくな目に遭わないんだから」
「こっちの台詞です」
 お互い喧嘩をふっかけ合うと、競うように店へと入っていった。



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