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「ねぇ、知り合いでしょ、亜沙子。どういう関係なの?」
「知らない」
 知りたくない。一度ならず二度までも出没するとは、何を考えているのか。嫌なことに、黒峠と自分は何かしらの関係があると見られてしまっている。文句の一つでも彼に言いに行かなければならない。
「私、図書室行ってくる」
「やっぱり待ち合わせしてたんじゃない」
「待ち合わせじゃない、待ち伏せよ」
 この学校の図書室に純粋な用事があってやって来たとはとても考えられないのだ。直接訪ねないで、またしてもわざと目立って、亜沙子が来るのを待っている。
「それで?」と美樹はにやっとした。「どういう関係なの?」
「無関係」
 憮然として亜沙子は答えた。
 夕暮れの風が冷たくなってきている。毎日少しずつ、昼が短くなっていた。とはいえ、まだまだ秋の始めだ。いつもならイヤホンを耳に押し込んで、帰り道を歩いている時刻。
 しかし今日はこれからアイツに会わなくてはならなかった。
 黒峠有紀。
 何度私を困らせたら満足するのだろう。
 亜沙子は図書室に足を踏み入れる。見回してみたが黒峠はいなかった。おそらく第二書庫の隅にでも隠れているのだろう。
 亜沙子の思った通り、黒峠は第二書庫にいた。隠れてはおらず、暢気に椅子に腰掛けている。
「先生、どういうつもりですか」
「やあ柊君、どうしたの」
「私の台詞です」
 昨日のうさぎの絵本とは違う、飾り気のない、堅苦しそうな書物を手にしていた。題名は読めないが、どうもドイツ語の本のようだ。
 亜沙子の視線をたどり、黒峠は本を持ち上げる。
「これ読む? 面白いよ」
 勢いよくかぶりを振って拒否した。それより、と亜沙子は黒峠の前の席に腰掛ける。
「何でここにいるんですか」
「本が読みたいからに決まってるじゃないか」
 冗談を聞いている気分ではない、という気持ちを明確にこめて黒峠を睨む。
「実は君を待ってたんだけどね、目立つところで待つと、君怒るじゃないか。だからわざわざこんな人目につかないところで待ってたんだよ」



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