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 午後。それまで混んでいた食堂も、授業が始まる頃になると人数もまばらになってくる。生徒達はそれぞれ席を立ち、去って行った。午後の授業がない者は引き続き、優雅なランチタイムを楽しむ。
 夜月大学の食堂は、二年前の改装を機に、レストラン顔負けの洒落た内装へと様変わりしていた。価格は生徒の懐に優しく、メニューも豊富ときている。食事目当てでこの大学を志望する学生はさすがにいないものの、とにかく学食の評判はよかった。
 出遅れると、あっという間に席は埋まってしまう。そうすると、コンビニか生協のご厄介になるしかないのだ。サンドイッチやサラダやジュースを買って、外のベンチでランチ。案外こちらの方が高くついたりもする。
 裕福でない学生にとって、日々の食事代というのは結構気になるものなのだ。
 文学部二年の柊亜沙子は、いつものお決まりの席で友人達とくつろいでいた。今日の授業は午前のみ。しばらくゆっくりしていられる。
 アラビアータのパスタを食べ終えると、亜沙子はこっそりため息をついた。腹が満たされてのため息ではない。
 いくら食堂のメニューの価格が安いといっても、毎日の出費はそれなりに痛手だ。小遣いの中でやりくりするのも限界がある。そろそろ弁当作りという手段に出なければならないかもしれない。もしくは、アルバイトをさがすとか。
「亜沙子、どうしたの? 悩み事?」
 同じ学部の友人、小峰美樹が亜沙子の腕をつついた。何でもない、と亜沙子は首を振る。
 相談したところで解決する問題でもない。亜沙子としてはもう少し昼食代を減らしたいところだが、友人との付き合いというものがある。
 私って、見栄っ張りなのかなぁ、と亜沙子は悩む。そして目線は、自分の鞄からはみ出たブランドものの財布へと向けられた。
 こんなもの、衝動買いするから苦しくなるのだ。
 この類の反省は今まで何度となく繰り返してきたが、教訓となって生かされたことはあまりない。
 中身の少ない高価な財布というのは、何やら哀れだった。
「彼氏が出来て、何か悩んでるとか?」
「まさか! 彼氏なんていないって!」
 慌てて否定したが、しかし実際、そんな悩み事であればどんなにいいだろう。恋人の悩みなら友達にだって相談しやすい。財布の新調によって肝心の入れるものが減ったなんて言ったら、笑われるか呆れられるかのどちらかだ。
「とか言いつつ」
 もう一人の友人、島田香織がからかうような笑みを浮かべて亜沙子を指さす。



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