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「前は結構来てたんだよね。『ガルーサ』が上手いから覚えてる。最近見ないな、その人」
「ガルーサって?」
 亜沙子が口をはさむと、少年達は口々に説明を始めた。そのガルーサとは格闘ゲームらしかった。なかなか二人の説明は終わりそうもない。
「面白いよね、ガルーサ」さすが常連の黒峠は話が分かるらしく、話を上手くまとめた。「それでこの人に関して、何か変わったこととかなかったな。何でもいいんだけど」
「何でそんなことを聞くの? 写真まで持ってるし。おじさん達警察なの?」
 子供というのは何でも質問したがるものだ。黒峠は少し考えた後、ある携帯ゲーム機のソフトの名をあげた。
「この人について教えてくれたら、あのゲームの裏技を教えてあげよう。隠しステージが出てくるやつだ」
 少年の目が輝いた。黒峠はゲーム全般に詳しいのかもしれない。
「そう言えば男の人と話してたよ」
「男の人……」黒峠はポケットから重村勝吉の写真を取り出した。ニュースなどで公開されていた昔の写真ではない。ごく最近の重村の写真のようだ。一体いつの間に、どこで手に入れたのだろう。
「この人?」
「どうだったかな」
「そうだって」もう一人の少年が肘で小突いた。「だっさい緑のセーター着てたじゃん」
「そうだそうだ、こいつだよ」
 黒峠は少年達に礼を言い、約束通りゲームの裏技を教えてやった。そして店を出ると、腰に手を当てて言った。
「どうだい柊君。私のおかげで面白いことが分かっただろう。これに懲りたら私のやることにはあまり口出ししないことだね」
 黒峠有紀は本当に憎たらしい男だ。

 * * * *

「先生、よくあそこへ行くならどうして友弥君を見たことがないんですか」
 重村が友弥の行方不明事件に絡んでいるかもしれないことが分かり、二人は一度事務所へ戻ることにした。亜沙子は円が出した、しけってない醤油せんべいとクッキーを次々に口へ放り込んだ。間食は控えるようにしているのだが、菓子でも食べなければやってられない。一種のやけ食いだった。
「見たことがあっても興味がなければ覚えてないからね」
 黒峠と亜沙子は競うように菓子を食べていた。
「有紀さん、プリントアウトしておきましたよ」



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