芋虫
肉が裂かれ、骨が割れる音が、頭上で響いた。新鮮味のない聞きなれた音だ。程無くしてどすりという重い効果音と共に、小さな地響きが起こった。ちら、と目だけを動かし見やると、裸の男がこちらに足を向けて仰向けに倒れている。 先程まで私の上に跨がり、荒い息を吐いていた者だ。数秒前には確かに生きていた身体が、只の物体となってそこに転がっている。その様を無感動で眺めていると、天井から何かが、私の傍らに落ちてきた。暗い室内だが、職業柄夜目は利く。『何か』は人であった。人にしては小柄なそれは、私の顔を見下ろすとにぃと口元を緩めた。


「ちゃんと殺したんだろうな?」
「胸を一突きだ。内臓が反転してでもない限りは、失敗などするまいて」
「そう――うん、お疲れ様」


長い事天井裏に潜んでいた彼に労いの言葉をかけ、再び足下の、男の身体に目をやった。骸からは赤い液体がどくどくと流れていた。生臭い臭いが庵中を満たしてゆく。
首は持ってゆくとして身体はどうしようか、取り敢えずバラバラにして川魚の餌にでもするかと思案していると、地虫が低く笑い声をあげ始めた。


「地虫?」
「なに――先刻までの主を思い出しておっただけじゃ」


随分と良がっておったのう、と付け加えると、地虫は再び笑った。笑い過ぎて胴体のみの身体がくの字に曲がっている。


「そう見えたか?」
「ほう、全て演技だったと申すか?」
「それは、お前が一番わかるんじゃないの」
「ハ、ハ――減らず口を」


鋭い光を放つ相貌が私の顔を捕らえた。先まで無感動だった心が熱を帯始めるのを感じていると、生暖かいものが頬を伝った。地虫の舌である。四肢の無い彼にとっては、腕代わりといっても過言ではない。

「―――血が」
「うん?」
「血がついておる」
「ああ……」

地虫が仕込み槍で刺した際に、血液が噴き出して、ついたのだろう。舌は頬から顎、顎から首、そして胸元へと順々に滑っていき、私は自分が全裸のままなのをやっと思い出した。途端に熱が全身を侵食し始めた。ごくり、と唾を飲み込む。


「……洗ってくる」
「いんや、このままで良え――」
「悪趣味」
「フフ、心外じゃの。自分から良がり顔を見せつけておったのに」
「そういうお前こそ、いつまでたっても刺さなかった癖に」
「他人に抱かれとる自分の女なんぞ、滅多に見られる光景ではないからな。目に焼き付けておったのじゃ」
「……やっぱり悪趣味だ」
「フフ。だが矢張――良い気分でないの」


ずるりずるりと音を立てて、地虫が身体の上に乗り上げる。鉄の臭いに満ちた部屋で裸の女に馬乗りになっている異形の男。端から見たら相当ゾッとする光景であろう。


「さて、あれが真に演技であったか、直接ここに聞いてみようかの」


二股の舌が下肢を這い始めたのを感じながら、私はすっかりと熱くなった身体を微かに震わせた。
卍谷に帰れるのは、明日以降になりそうだ。




2013/02/17
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ターゲットが興奮の真っ只中、地虫さんが天井から仕込み槍で背後からぶすり。
地虫さんにはちゃんと設定を持った夢主を作ってあったのですが、今回は別の人。
そもそも地虫さんの下半身が謎。どうやって致すかも謎。
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