あたら桜の咎にはありける

「おおっ、やっと来たか万太郎!」
「あっ、父上―!!」

 ジャクリーンが仄めかした通り、会場には大勢の超人界関係者が集っていた。ヘラクレス・ファクトリーの座学講義の教科書でしか見た事のないような顔ぶれが続々と見受けられるそこは、新世代超人にとっては少々落ち着かない空間でもある。(殊にセイウチンの挙動不審ぶりといったら可哀想なくらいであった。)

 招かれた年配の著名人達にとっても、これから未来を担っていく若手超人たちは好奇の的である。主席だったガゼルマンや、テリーマンの息子であるキッドは会場に入るなり既に話しかけられており、その応対に勤しんでいた。

 そんな場でも全くペースを崩していない万太郎は流石一国の王子とでも言うべきか――それとも、ただ単に図太いだけなのだろうか。こちらに向かって歩いてくる、父であるキン肉星の大王に人目も憚らず、ぶんぶんと手を振っている。

「元気そうだな万太郎!そのスーツも似合っているぞ!」

 流石ワシの息子だと破顔しながら万太郎の肩を叩くキン肉マン。

「……ところで万太郎、後ろにいるお嬢さんはどなたじゃ?」
「えっ、父上ったらぁー、前に会ったでしょ!ライカだよライカ!」
「ライカ?……あ、ああー!ヴォルクの息子か!」
「娘だってば父上ー」
「おおそうだったな、すまんすまん!」
「おうおう、何騒いでるんだお前ら?」

 ぬっと現れた巨体に、ライカは反射的に身をすくめる。現れたのは、学生時代に彼女達を扱きまくった鬼教師だった。

「あーっ!バッファローマン先生!」
「おう万太郎、元気そうだな。……で、こいつは…」
「先生も気付かないのー?」
「おっ?――ああ!?もしかしてお前、ライカか!?」
「…そうですが」
「うわっ…どうしたんだよその高そうな着物!」
「ジャクリーンに捕まえられて無理矢理着させられたんですよ。お陰で動きづらいし、悪目立ちするしで散々です」
「何言ってるんだ勿体ねぇ!こんなに別嬪さんになったのによぉー」
「べっ……!?」

 バンバンと肩を叩きながら豪快に笑うバッファローマン。ライカの顔が反射的に赤く染まる。

「おっ、何だライカ?もしかして照れてんのかお前」
「いっ いえっ、そんな、滅相もない……」
「ハハッ可愛い奴だなー!オレがもうちっと若かったらまずほっとかねぇぜ!」
「……」

 ライカは思い出した。バッファローマンの悪癖ともいえる――アルコールが回ると露呈する、もう一つの顔の存在を。そういえば顔も赤らんでる気がするし、若干ボディタッチが多い気もする。腰に回された手に、思わず頬を伝う冷や汗。

「まあオレはまだまだ現役バリバリなんだけどな!勿論アッチの方も」
「あの、先生」
「なんだったら今夜持ち帰って食っちまっても―――」
「そこまでだバッファローマン。ライカが困っているではないか」

 バッファローマンの言葉を遮るようにバリトンヴォイスの第三者の声が被る。

「何だよォロビン!可愛い教え子との一時を邪魔しやがって」
「……ライカ、酒がまわったバッファローマンには近づかない方がいいぞ」
「失礼な!酔ってねーぞオレは!」

 大抵の酔っ払いは皆そういう――と、ライカは内心ツッコミを入れておいた。

「事情を聞く限り災難だったようだが、似合っているぞ、ライカ」
「そ、そんな。ロビン校長にそう言って頂けるだなんて、恐れ多いです」
「本当に真面目だなぁお前!今日は無礼講だ無礼講!!」

 バッファローマンの声には聞こえないふりをした。

「ふむ、折角だ。―――おい、カメラマン」
「え、あの、ロビン校長何を」
「お前の晴れ着姿などなかなか見れるものではないからな。納めておこう」
「えぇっ!?その、あまり記録に残したくないのですが!」
「マスコミの事を気にしているのか?その点はしっかりと釘を指しておこう……焼き増しもしてやるから、故郷に帰った折には両親に見せるといい」
「は、はあ」

 そう二人がやり取りしている間にカメラマンがパシャパシャとシャッターを焚いている。レフ板まで出されてしまい、なかなか本格的ではある。

「どれ、折角じゃからワシも」
「じゃあオレも」

 キン肉マンとバッファローマンがポケットから携帯電話を取り出してライカの方に向けている。

「な、何やってるんですか!?」
「あー、写メだ写メ。そのままじっとしてろよ」
「写メって……え、ちょっ、大王様!先生!」
「のう万太郎、カメラ機能はどうやって出すんじゃ?」
「えっ、まだ覚えてないのぉ?父上」

 シャッター音に混じってピロリーンという音が聞こえるのが、なんとも緊張感に欠ける。

「どれ、私も一枚」
「オラも撮りたいズラ〜!」
「あ、俺も俺も」

 いつの間に集まっていたのか、他のレジェント達まで便乗している。見た目に似合わずカメラ機能を使いこなしている彼らを目の当たりにしながら、ライカは唖然としていた。


(ま、全くこのオッサンたちは!!)


 逃げたい。この異様な状況から逃げ去ってしまいたい。


 青い顔でセイウチンを見ると、申し訳なさそうな顔で首を横に振られた。
 キッドとガゼルマンは先程の著名人達との応対ではぐれたのか姿が見当たらないし、万太郎に至ってはキン肉マンの代わりにカメラの操作をしている。彼女に助け船を出してくれそうな人材は現時点でゼロである。



「―――何をやってるんだ、ダディ」



 いや、一人いた。

 背後から聞こえた声に、ライカは硬直した。

 現れたのは、天使か悪魔か。いずれにせよ一悶着を起こしそうな予感がするが。
 今日は厄日なのだろうか――と、己の置かれている境遇を、改めてライカは呪い始めていた。

(初出:2012.04.16、改訂:2019.04.15)

「どれ、私も一枚」→ラーメンマン
「オラも撮りたいズラ〜!」→ジェロニモ
「あ、俺も俺も」→ウルフマン
というイメージでした。
執筆当時はまだガラケーが一般的でしたね…
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -