しづ心なく花の散るらむ

「――ここか!」
「Shit!鍵がかかってる!」
「ライカー、大丈夫だかー!」

 ドンドンとドアを叩くが反応はない。耳をすませると何か聞こえる気もするが、肝心な内容は全く聞こえない。

「おいガゼル!てめぇの耳で何か聞こえないのかよ」
「煩いな!今やってるから騒ぐな!」
「2人とも〜、カッカしてる場合じゃないだ〜」
「そうよ、貴方達。もう少し紳士らしく大人しくなさいな」

 ドアが急に開き、呆れたような表情を浮かべたジャクリーンが唐突に現れる。3人は思わず飛びのいた。

「なっ、誰のせいだと思って!」
「おい、ライカはどうしたんだ」
「まあ、そんなに怖い顔をしなくてもいいじゃないの小鹿さん。大丈夫よ、ライカならそこに……」
「うわあっ!来るなお前らー!!」

そんな叫び声が聞こえたものの、時すでに遅し。
全員の目は部屋の奥にいるライカに、とっくに注がれていた。

先程まで着ていたマスクやスーツは脱がされ、ヘアメイクや化粧をバッチリと施され…しかも、花が大量にあしらわれた華やかな柄の振袖を着付けられた彼女の姿に。

「わ〜、ライカ!凄いじゃん、よかったねぇ」

 いつの間に来たのか、万太郎がちょろちょろと近寄っている。

「すごいすごいー!これ、ジャクリーンちゃんが用意したのぉ?」
「ええ。喜んで頂けて、見繕った甲斐があったわ!」
「さっすがジャクリーンちゃん!センスあるねぇ。えへへー」
「いやはや……攫われた時は何事かと思っていたんですけど、何事もなくてよかったですよ、ライカさん!」
「何事も?よくないよこんなの!」

 にこにことほほ笑むミートに、憤然とするライカ。

「見てよ!あいつら絶句してるじゃない!」

 ライカの指さす方向にミートが顔を向けると、最初に彼女を追跡していた3人が、入口付近で呆然と立ちすくんでいる。

「ほら、変なんだよ、やっぱり!」
「……いや、ライカさん、彼らはですね…」
「へ、変なんてとんでもない!とっても似合ってるだよ!」

 最初に我に帰ったセイウチンが両手をぶんぶんと振る。

「セイウチン…そんな、無理しなくていいよ…」
「ち、ちち違うだよ、ライカ、その……オラは着物の事よくわかんねぇけど、その、凄いライカに似合っていると思うだ!!」
「なっ……!」

 もじもじしながらも、有無を言わせない迫力で言われたその言葉に、ライカの顔が赤く染まる。

「ヒュー、セイウチンやるじゃん!」
「あ、アニキィ、あんまり茶化さないでほしいだ……」
「ね?ライカ、着て良かったでしょ?……それに、あの二人だって変だから絶句してるんじゃなくて、貴女の事が――」
「おいまて、それ以上言うな!」
「ス、Stop!!!」

 慌ててジャクリーンの口を塞ぐキッドとガゼルマンであった……

「もがっ、レディーに何をするのよ貴方達!折角教えてあげようと思ったのに」
「そんな気遣いはいらん!」
「はあ、全く理解に苦しむわね……まあいいわ、勝手にすればいいじゃないの。そんなこと言っていられるのも今のうちでしょうけど」
「どっ、どういう事だそれは」

 ジャクリーンがにやりと微笑む。

「今夜のパーティー、何人の超人が招待されたと思っているの?委員会の上層役員やレジェンドの方々、貴方達の同輩や後輩達も参加するのよ……勿論、心当たりがある顔ぶれも沢山来るんじゃないかしら?」

 彼女の言葉を理解し、キッドとガゼルマンは固まった。ちなみに、他の面子はライカを囲んで話をしていたから、3人の会話には気が付いていない。

「めったに見られないあの子のドレスアップ、それも着物姿なのですもの!それはそれは注目が集まるでしょうねぇ……ああ、考えただけでも楽しくなってきちゃう!」

 楽しそうに身を捩じらせるジャクリーンを見て、今度はキッドとガゼルマンが彼女の影の異名を思い出す番であった。外面如来菩薩内面如夜叉。血生臭い試合を見る性癖は止んだものの、スリルを求める気性は生来の物の様だ。


 さて、これから始まるのは天国か、それとも地獄か。
 少なくとも、彼らにとっては気が休まらない一時になりそうではある。

(初出:2012.04.09、改訂:2019.04.15)
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