ねむり姫の夢遊

はぐれ悪魔コンビ夢。
と見せかけたアシュラマン夢。夢主とサンシャインは能力的に相性が悪いという話。


 助けてくれー、という、悲痛だがどこか間延びした風に聞こえる相方の声に目を開けると、見慣れた魔城の床が一面の砂漠と化している。
 金色のそれは紛れも無く我が相方を構成していた物質である事が見て取れ、何事かと眠い目を擦りながら視線を巡らせる。一段とこんもりしている砂山から、辛うじて形を保っているサンシャインの顔が、今にも泣き出しそうな目をしてこちらを見つめているのがわかった。


「アシュラよ、起きてくれー!」
「……騒ぐな。今起きた」
「ならこの女をどうにかしてくれ!そいつの妙な力の御蔭でこのザマだ!」

 サンシャインの傍らには、先だって魔界に預けられた、重力使いのリンネが横たわっていた。見たところ熟睡しているようだ。

「成る程な。寝惚けて重力を司る力を漏らしているのか」

 この女を、サンシャインは常々天敵扱いしている。砂を集めて身体を構成している彼にとって、重力を意のままに操れる(勿論限界はあるが)彼女は脅威なのであろう。
 それにしても、砂山と化しつつある相方と、そんな惨状に全く気が付かず金の微粒子に埋もれかけている彼女の様はなかなか滑稽である。思わず笑い声をあげると、相方が非難の声を飛ばしてくる。

「笑ってる場合かー!早くそいつを起こしてやめさせてくれ!」
「カカカ、よかろう。こいつが窒息して夢の世界から戻って来れなくなったら一大事だからな」
「まて、オレの心配もしてくれ!」

 ぎゃあぎゃあと騒ぐサンシャインを尻目にカウチから起き上がると、砂の中から全ての元凶を抱き上げる。身動ぎはしたものの未だ眠っている彼女に呆れながらも、体を揺すって起こそうと試みた。


「おい、リンネ。起きろ」
「……う、…」

 流石に意識が戻ったらしく、目がうっすらと開かれた。同時にさらさらという音(言うまでもなくサンシャインが崩れる音だ)が止む。どうやらお漏らしは止んだようだ。
 リンネは薄目を瞬きしながら、惚けたような表情で顔を見つめてくる。まだ夢心地なのだろうか、と思いながら再度肩を揺すった。

「こら寝るな。起き、……」

 みなまで言えなかったのは、口を塞がれたからである。


自分の唇が、リンネのそれに圧迫されている。


 そう認識するまでには数秒ほどかかった。背後から相方が息を飲む音が聞こえたが無視。今はこの現状を分析しなければ。


と、ここまで思った時にはすでに柔らかな感触は消えていた。ぐらりとした頭を慌てて抑えると、再び両の目は閉じられており、鼻腔からはすうすうと寝息を漏らしている。


「……何だ、今のは」
「ま、また寝惚けていたんじゃないか」
「…何故お前が顔を赤くしているんだ」
「なっ、違う!これは……」
「カッカッカ!お前も顔に似合わず初な男だ」
「う、煩い!」

 何とか元に戻ったらしいサンシャインを一頻りからかうと、彼女を抱え直して踵を返す。

「何処に行くんだアシュラよ」
「部屋で寝直す」
「そ、そいつはどうするんだ」
「魔界のプリンスの唇を奪った代償は大きいからなあ。体で償って……冗談だ、そんな顔をするな」

 赤面している相方を残して共有スペースを後にし、自身に割り当てられている部屋に入った。何やらむにゃむにゃ言っているリンネをベッドに放ると、その隣に自分も横になる。
 とりあえず、覚醒した後のコイツの反応が楽しみではある。


「カカカ、添い寝の暖取りにでもしてやるか」


 そう呟いて、どこか幸せそうな顔をしているリンネを抱き寄せて、私も目を閉じた。



(次に起きた時、最初に目に映ったのは茹蛸のように真っ赤になったリンネの顔だった)

(そしてその日の夜、ニンジャの奴に終始余所余所しい態度を取られた)


(初出:2012.05.14、改訂:2019.04.05)

拍手のお礼用(四代目)だったはぐれ悪魔コンビ夢でしたが、実質アシュラマン夢という……。「恋時雨」から派生したニンジャと夢主の話がツボに入ったので、夢主がかつて楽しく片思いしていた時期のお話を書いたのだと記憶しています。「重力使い」という設定も、そっちの方面に強い方が見たら泡を吹きそうなくらい適当な設定です。新章を読んでから「王位争奪戦後に夢主が魔界にいた時期があったら楽しいかもしれない」と思うようになったので、改訂版ではその設定を反映しております。魔界に居候している理由も考えているので、追々書いていきたいです。
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