高い空から冷たい風が吹く頃になると、なぜだか泣きたくなる。

昔、酔った私がぽつりともらしたその言葉を聞いてから、三郎はいつも自販機を見つけるとあたたかいココアを買ってくれるようになった。
へなへなした紙コップに入っているあまりおいしくないココアと、冷たい指先がすこしずつ暖まっていく時間が私は大好きで、
だから、もし三郎と別れ話をするときがくるんならそれはやっぱりこの季節で、しかもココアを飲みながらがいい。
そんなことをよく冗談めかして言って三郎に怒られたものだった。


「…寒い…許しがたいほどに…」
「三郎はいつも薄着だからだよ。ダウンとか着ればいいのに」
「ナマエはダウンでもこもこに着膨れた三郎くんを見たいと思いますか」
「あんまり思いません」
「だろ?」

満足そうに目を細めた三郎は上着のポケットに両手をつっこみ、背中を丸めて歩いている。
寒いから嫌だこんな日は家で一日中過ごすんだと抵抗する三郎を無理矢理この公園に連れてきたのは私だった。
いつもなら三郎の嫌がることはしない私が強硬な態度を崩さなかったため、三郎も渋々外へ出てきてくれたのだ。

「こういういい天気の日にお散歩するのもいいもんでしょ」
「まあな…」
「あ、ちょっとあそこのベンチに座って待ってて。飲み物買ってくる」
「おう」

一度通り過ぎた自販機へ戻って缶のココアをふたつ買った。本当は紙コップのココアが良かったんだけれど、そこはご愛嬌だ。
熱くて持てない缶をコートのポケットに入れて振り返ると、坂の上のベンチに座っている三郎が見えた。
いかにも寒そうにしながらマフラーに半分顔を埋めている姿が面白くて笑ってしまう。
私はしばらくその場に佇んで、一枚一枚シャッターを切るように瞬きをした。それからぐっと足に力を入れて坂を上り始める。
三郎がいるベンチまではけっこう急な坂で、よく子供達が段ボールをおしりの下に敷いて芝生の上を猛スピードで下っていく光景が見られるのだ。
私もやってみたい、と言ったことがあったけれど、服が汚れるから却下だ!と三郎に言われてしまった。

「買ってきたよ」
「サンキュ。…ココアか。何か懐かしいな」
「前はよく飲んでたもんね」
「ナマエはココア好きだもんな」
「…うん」

プルタブを引っ張ると湯気で景色が白くぼやけた。冬の白けたような光が公園全体に差して、
子供達の遊ぶ声も遠くに聞こえるようだった。隣の野球場からカキィンという音がして、空港からどこかへ向かう飛行機の影が芝生に落ちた。
それはまるで巨大な海のいきものが泳いでいるようで、一瞬自分が海の底にいるような錯覚を覚えた。
私は静かに深呼吸をして、それから隣に座っている三郎の手を握った。優しく握り返された手はとても冷たく、視界が潤んだ。
大丈夫、私は大丈夫。見上げた空は果てなく青く澄んでいる。このココアを飲み終わったら私は三郎にさようならを言う。

今日二人で見たこの景色を、私はきっと忘れない。