寒いと思ったら雪だ。初雪。情緒があるなぁ…と思っていられたのははじめだけで、雪はあっという間に吹雪になった。ごおおとか言ってるし。さむっ。

「吹雪だよ潮江。…という訳で私は帰宅します」
「バカタレ!まだ仕事が残ってるだろうが!」

ちょっと冗談言っただけなのに。シャレの分からない奴め。それにどっちにしろこの天気じゃ帰れないし。私と潮江は生徒会の副会長と書記だ。ちなみに潮江が副会長。生徒会長である立花は「なんか今日寒いし風邪気味だから帰る」と言って授業が終わって早々に帰った。本当に生徒会長なのかあの男は。アホ立花め。しかしこれは潮江と距離を縮めるチャンスでもある。同い年の女の子たちの間では「隈がやだ」とか「なんか顔がコワイ」とか散々なことを言われている潮江ではあるがしかし女の子たちは知らないのだ。私と立花がからかった時に見せる照れた顔とか、不意に見せる笑顔とか。それに生徒会の仕事に追われて疲れきってうとうとしている潮江の寝顔はけっこうかわいいこととか。「おい」あと後輩の面倒見もいいし…

「おいこらミョウジ」
「何よ潮江」
「お前さっきからにやにやしてるだけで手が動いてねぇぞ」
「私にやにやしてた?」
「気持ちわりぃくらいしてたぞ。またどうせ下らねぇこと考えてたんだろ。どんな顔するのも構わんが手は動かせ」
「はぁい」

こういう優しいところも好きだな。いつもなんだかんだ文句を言いながらも私と立花の悪ふざけに付き合ってくれるし、私がこの間風邪でしばらく休んだ時はその間の授業のノート見せてくれたし。立花なんか「バカは風邪ひかないっていうのにな」とか憎たらしいことを言っていたというのに。あっもしかして私の風邪がうつって今日あいつ帰ったのか!?やったぜざまあみろ立花!因果応報とはまさにこのことだぜヒャッホウ!

「なあミョウジ」
「ん?何?手は動かしてるよ」
「いやそうなんだが顔がにやにや通り越して何かもうすごい顔になってるぞ」
「ああ…立花のこと考えてたから…」
「仙蔵のこと?」

急に潮江は眉間にしわを寄せて黙ってしまった。さっきとまでは違いなんだか沈黙が重い。何なんだ。

「……ミョウジ」
「はい」
「前から思ってたんだが…お前仙蔵のこと好きなのか?」
「あぁん?その質問は私に対する嫌がらせですかコラ潮江くん」
「いっいや…その…気が合うみたいだしよ…結構いつも一緒にいるだろ」

私が立花と気が合うのは悪事を働く時のみである。そして不本意ながらもよく一緒にいるのは立花が潮江とよく行動しているからだ。

「違うよ…まあ一応友達ではあるけれども…好きじゃないよ。にやにやしてたのは私の風邪が立花にうつったのが嬉しかったからだよ。ざまあみろという意味で」
「そ、そうか…」

まったく潮江も謎の勘違いをしたもんだ。潮江ひとすじの私が何故立花なんかを…
「あっそれに大体立花彼女いるよ」
「マジかよ!?あいつ何で俺には教えねぇんだ」
「私だって知らなかったよ。でも最近よく女の子と一緒に帰ってるの見るよ」
「仙蔵に彼女ねぇ…」
「笑えるよねー」
「そうだな…」

あれ?この流れなら潮江に聞けるかもしれない…!
「しっ、潮江はいないの?彼女とかそういう感じのものは…」
「何だよそういう感じのものって……大体俺に彼女がいそうに見えるかよ」
「ですよね!!潮江が今彼女って発音しただけですごい違和感だったしね!」
「腹立つなお前!」
「フヒヒ」

そうかそうか。潮江には彼女いないのか。良かった良かった。それが分かっただけでもう今日は十分満足だよ私は。

「ミョウジは…かっ彼氏とかいないのか…?」

なんだなんだそのお父さんみたいな質問の仕方は。この話題をこれ以上続けるとなんだか妙な雰囲気になりそうだからもういいよ潮江。聞かれたからには一応答えるけど!

「いませんよ…分かりきったことを聞かないでくださいよ潮江さん」
「そうか…わかった」

わかったって何がだ。大体私たちはこういう話題は似合わないのだ。その証拠に潮江も私もさっきから居心地が悪そうな空気を出している。だがしかしよく見ると潮江の口角が微妙に上がっている。これは期待してもいいのだろうか…で、でも万が一私と潮江が付き合うなんてことになったら立花にものすごい勢いでからかわれそうだな…

「ミョウジ」
「なっ何?」
「そろそろ帰るか。雪の勢いも弱まってきたし」
時計を見るといつの間にか六時半を過ぎている。「そ、そうだね…帰ろうか」

ふふ…分かってますよ潮江が私に気がないことくらい!ちくしょう!下駄箱で靴を履き替えていると潮江が「もう遅いから家まで送ってく」と嬉しいことを言ってくれたので素直に甘える事にして、ぽつぽつと話しながら歩いているとあっという間に私の家の近くまできてしまった。と、それまでずっと何かを考えているようだった潮江が急に私と手をつないできた。こ、これは!?パニックになっている私をぐいぐい引っ張りながら家の前まで来た潮江は目を泳がせながら、

「明日からも毎日送る。あと、す……すきだ」と消え去りそうな小声で言った。「返事は今度でいいから」と言って走り去って行く潮江は耳まで真っ赤になっていた。感極まった私が思わず
「潮江ーーーー!!私も好きだーーー!」と叫ぶと、「ば…バカタレ!!」と怒りながらすべって転びそうになっていた。こ、これが青春ってやつなのか…!潮江が見えなくなるまで背中を見送ってから家に入り、部屋にかけこむとベッドに飛び込んで幸せをかみしめた。あ、明日立花が学校来たらアイスおごってやろう。感謝とお見舞いの気持ちをこめて。冬だけどな!