私が泣くと文次郎は困った顔をする。
けれど私はよく泣く。
ありがちな展開のドラマを観てもお涙ちょうだい路線まるだしの本を読んでも泣く。きれいな夕日を見ても泣くし育てていた植物が枯れても泣く。
ぐすぐすと鼻をすすりながらくだらない理由でみっともなくいつまでもいつまでも泣いている。
私が泣いているのに気がつくと文次郎は本当に困った顔をする。それから頬をかいて、どうしたものかと思案する。
そして小さくため息をついてからようやく私に話しかける。
「…今日はなんで泣いてんだ」
文次郎の問いには答える時もあれば答えない時もある。以前私が「あんまり幸せすぎて泣いてるの」と答えた時に文次郎は、どうして幸せなら泣く必要があるのか、
と悩んだ挙句に頭痛を起こしてしまったからだ。真面目な人だと思う。
ちなみに今日私が泣いているのには特に理由はない。大した理由はなくとも一度出た涙はなかなか止まらない。
必死で涙と鼻水をふいている私の頬に、文次郎の無骨な指がそっとふれた。ぎこちない動きで私の涙を掬っていったその指は、
私の頭を乱暴になでてそれから私の肩を引き寄せた。
「いつも馬鹿みてぇにうるせえくせに、泣くときだけは静かなんだナマエは」
「そうなの?」
「そうだよ。だからこっちの調子が狂っちまうんだ」
「ごめんね」
「謝んなくていいから笑っててくれ」
「…うん」
思い切り歯を見せて無理矢理笑った私の顔を見た文次郎は、すげぇ顔、と言って噴き出した。それが悔しくてまたもや涙ぐんだ私を慌ててきつく抱きしめて、
「俺はこれから一生お前の泣き虫に付き合ってかなきゃいけねえのか…」などと小さく呟くものだから思わず顔が緩む。
これを言ったら本当に呆れられてしまいそうだから言わないけれど、というか文次郎もとっくに分かっているとは思うけれど、いつも私が泣くのなんて大した理由はないのだ。
泣くたびに降ってくる文次郎のぎこちない優しさが心地よくてたまらないから。私がどれだけ悲しみの底深く沈もうとも(実際そんな事はないんだけれど)
必ずあなたが掬い上げてくれる。どんなに下らない理由で泣いたってあなたは馬鹿にしない。それを確かめたくて私はこんなに泣くのかもしれない。