空が消える
 

 空が風に流されていく。ああ、私はもう二度とあの空に浮かぶことはないのだろう。私は雲。貴方の言うことには逆らえやしない。この荒れ果てた地上をどこまでも這って生きていくのだ。仕方ない、とは割り切れない。雲はいつだってぼんやり浮かぶ者だから。
 貴方はどこまでも青く美しかった。時に大粒の涙を流しては、私の泥を流してきた。時にその世界は、白く透明な世界を創り上げた。貴方は私の憧れだった。空よ、貴方はしてはいけないことをしてしまった。貴方は人間を救う為に生まれたわけではない。この血塗られた世界にもう意味などないよ。ほら、人々は喜んでいる。この仕打ちは、本来なら人間達の受けるべきものなのに。貴方はその優しさ故に、愚かなのだ。
 その身体が苦しみに黒く染まる今、漸く貴方は後悔している。自分が拘ったもののくだらなさに気づいた。私は何もしてやれないよ、傍にいられないよ。私は既に地上に落ちた。引き返すことは二度とない。
 さようなら、何時も貴方だけは人間の味方だった。だけど人間が好きだったからこそ、憎いときもあっただろう?
 貴方は何も分かっていない。恐れていては何も始まらないのに。空は何を恐れているのだろう。どんなに汚されたって、空は空なのに。貴方は貴方が形を変えることを嫌う。でもいつかは変わってしまうのだから、貴方のしていることは無意味なのだよ。空の美しさを奪った人間を、貴方は怨むべきじゃないのか。拘るな、どうせ何も救えない。
 そんなに嫌なら消えてしまえ。見届けてあげよう。どうせ死ぬんでしょう?ほら、貴方が貴方でなくなっていく。貴方は役目を終えたんだ。次の空がもうじき来るよ。そして私は泥水となる。

(さようなら。後悔しても遅いよ)
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