今日という日を
 

今日という日は、一度きりだ。
「神様のばかやろう」
あの日あの瞬間も、一度きりだ。
「誰も、あたしなんて見てくれない」
「生まれてこなきゃ良かった」
「どうしてあたしばっかりこんな思いしなくちゃいけないの?」
やり直しは効かない。
だから今あたしはこうしてここに立っている。
過去を悔やんでいる。
「……あたしなんかいなきゃ良かったんだ」
自分が要らないと感じる。
存在を消してしまいたいと感じる。
具体的にどうして泣いてるのかは分からない。それを考えようとすればするほど涙が止まらなくなって、それどころではなくなってしまうのだ。
「ばかやろう」
神様のばかやろう。
「あんたなんかいなきゃ良かった」
あんたさえいなけりゃ、あたしはこんなに苦しまなかった。
「消えてしまえ」
悔しい。
要らないのだ、こんな自分。
今なら幽霊だって怖くない。背後からこの崖に突き落とされたって構わない。
何も怖くない。
だって、
「……それでも、」
そんなあたしの言葉を遮って、ふわり。
「そんな貴方が僕は、」
震えるテノールの声が、耳元で響いた。
白い息が空に消えていく。
「たまらなく、愛おしいのです」
――だって君は、どんなあたしも受け止めてくれるから。
- end -



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