妖精の尻尾
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▼グレナツ
“アイツは心底バカだと思う。いろんな意味で。すぐ感情に任せて突っ走ったりだとか、後先考えずに行動するところだとか、いろいろ含めて全部。そして一番バカだと思う瞬間がこれだ、『気にくわねぇしむかつくけど心底好きだぜ』この台詞。あいつは俺が好きだという。こんなに喧嘩ばっかりして相性最悪なのに、よくそんなことが言えたもんだ。けど、そんなバカに日々救われてる気になっちまうのはもはや隠しようのない事実で、そんな自分の更なるバカさ加減に、ああ同類でお似合いじゃねぇか、とも思ったりするのだ。『それでいいじゃん』、そう笑う顔をみて、氷の溶ける感覚がした。”

▼ナツルー
"丸まった背中が、震えていた。彼はそんなことは滅多にないから、自分がひどく動揺しているのがわかる。危機に瀕するたび、当たり前のようにみんなの視線を一身に受け止めていた背中はこんなにも小さかっただろうか。七月に入ってからおかしくなり始めたことには気づいていたけれど、今日は一等おかしい。夕陽にどっぷりと浸かった私の部屋が、こんなに息苦しく感じたのは初めてだった。座り込んだまま俯きなにも言わないその背中にそっと触れる。直後連動したかのように、「…こわいんだ」そう呟かれた声はやっぱり震えていて、何が、と訊き返す声は喉の奥に張り付いてしまった。何も言えないでいる私に構わず、けれど声は続けた。
「ハッピーも…エルザも…グレイも…みんな、消えちまうのかなって考えんだ。大切になっちまったんだ、全部。もう、失くせない。失くしたら、何が残るかわからねぇ。それくらい大事になっちまったんだ。 みんなも……ルーシー、おまえも」
不覚にも、涙が出た。何故私が泣いているんだろう、そう考えて、けれどすぐにああ、泣かない彼の代わりか、と気づく。触れた背中と掌が熱くて、融解しているような気さえした。失うことに怯える彼に、私はただ、約束することしかできない。
「私は、そばにいる」。
約束、と精一杯つぶやいた。

▼ナツルー
"いつからだろう。このぬるま湯がひどく息苦しくて、窮屈だと感じるようになったのは。まるで酸欠の一歩手前のような心地だ。いままでの曖昧な距離感が確実に私を蝕んで行く。…なぜこうなってしまったの? 考えて、ふと気づいた。そう、私は気づいてしまったのだ。何が変わったのでもない。なにも変わってなどない。変わったのは……私だ。気づいてしまったのだ、私が、自分が、彼を新たな感情でとらえていることに。当たり前のように私の領域をおかす、勝手で、けれどいつでも私の欲しいものをくれる、そんな彼を。私は絶望した。彼はきっと、欠片もそんなことを思っていないだろう。
誰よりも近くにいることが許されている気がするのに、それが逆に辛い。意識なんて、されるような立場ではないということを思い知らされているようで。今日も向けられる変わらぬ笑みに、触れる確かな温もりに、胸が千散れる想いがした。"






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