版権 (A/PHは本田さんの誕生日)






後日談。
翌昼俺はあの手袋をはめてくそ重たい荷物を運びながらケーキを取りに行きさらに荷物を増やすという地獄のような状態の中、ハイキングコースよろしい坂道をぜえぜえしながら登りきり、それなのに苦労に見合わずすでに到着していたハルヒに遅い!とどやされ、昨年に倣ったサンタ朝比奈さんが入れてくれたお茶を飲んで一息ついて間もなく、フォンデュの用意やらなにやらいろいろこき使われつつ、またみんなで変わらず過ごすクリスマスをそれなりに楽しんでいた。
ハルヒのセレクトした具材は、いったいどんな化学変化が起きたらこうなるんだ、と思うほど意外にフォンデュに合っていて、昨年の闇鍋同様部員たちを驚かせた。チョコレートに人参とか、チーズにマシュマロとか、絶対にあわないと思ってたんだが……恐るべし、ハルヒ料理。
そうして飲み食いが一段落した後は例のプレゼント交換で、音楽の流れている間プレゼントを回し合って、止まったところでそのプレゼントをもらうという典型的なものだった。ハルヒならもっと、争奪戦とかなんとか言ってまたくだらんことを思いつくのかと思っていたから少々拍子抜けだ。
俺のゲットしたのは長門のプレゼントで、中身は本だった。クリスマスらしいのかは甚だ謎だが、内容は一応雪国を舞台としたミステリーものだったし、まあ長門らしいといえば長門らしい。
俺の買ってきたマフラーはといえば、ぜひとも朝比奈さんに渡って欲しかったのだが、はっ、わかってたさ。現実なんてこんなもんだよな。もちろん、古泉に渡っていた。……しかも無駄に顔がいいアイツには、認めるのは癪だがたしかに似合っていたのだから悲しいことよ。他のみんなもハルヒは室内用靴下で朝比奈さんから、長門は耳当てで古泉から、そして朝比奈さんは写真たてでハルヒからと、それぞれ行き渡り、またそれから一騒ぎした後、かくしてクリスマス会は無事終了した。
帰り支度の途中、ハルヒの首もとをみて朝比奈さんが、「かわいいネックレスですね」と言い、ハルヒがそれに「気に入ってるの」と答えたのが聞こえたが、昨日とは違いマフラーをしてしまったため果たしてそれが昨日のやつかどうかはわ知るところではない。

「じゃあみんな、また! 多分初詣には行きたいなあって考えてるから、近いうちに連絡するわねっ」

「ではみなさん、これで。風邪には十分気をつけてくださいね。またお正月に」

「………」

そうしていつものように、いや、いつものようになんて言いたくないのだが、古泉とふたりになった俺は昨日のことを訊いてみた。

「昨日ですか?……いえ、本当に僕個人の私用でしたので、朝比奈さんとも長門さんともお会いしてませんね。もっと言ってしまうと、お二人が昨日部活を休まれたことも知りませんでした」

おいおい、なんだそりゃ。すごい偶然ってことか?

「……あくまで僕の推測ですが、朝比奈さんも長門さんも僕と同じだったと思いますよ。個人的な用事で休んで、凉宮さんとあなたがふたりだったことは知らなかった。もし仮に凉宮さん絡みで何か起きていたら、確実にあなたには知らせるはずですし、朝比奈さんや長門さんが“仕事“として動くのなら、組織を通じて必ず僕にも連絡が来るはずですので」

それじゃあ、ほんとにただの偶然だったわけか。珍しいこともあったもんだな。

「そうですね。けれど僕たちは“偶然“を意図的に作り出せる存在を知っている」

……ハルヒか。

「そうです。これもまた、凉宮さんの願い、願望だったのかも知れない」

……またいつものか。いいさ、聞いてやろうじゃないか。

「それはどうも。なに、簡単なことです。凉宮さんは、クリスマスイブの日にあなたと二人になりたいと願った。それが、何かをするため―たとえば一緒になにかをしたい、なにかを伝えたい、渡したい―というようなものなのか、どういう意図があったのかはわかりませんが、とにかくそう願ったとしたら。僕たち三人の個人的な用事を創造してしまうことなんて、彼女にとっては造作もないことなんですよ」

そんなこと知るか。ハルヒの考えることなんざ一生わからん。
ただひとつ。先程プレゼント交換中に気づいたのは、『男女兼用のものがいいわね』と言っていたわりに、俺がもらった手袋は明らかに男物だったし、昨日一緒に行ったあのアンティーク調の店には手袋なんて置いてなかったってことだ。ついでにいうなら、朝比奈さんの受け取ったあの写真たてはあそこの店のもの。……これがどういうことか、なんて野暮なことは放っておこう。

「なにか思い当たる節でも?」

いいや、なにもないさ。そのにやにやを止めろ。

「おや、すみません。ですがこれはもう癖ですので。本当はこんなキャラさっさと捨ててしまいたいんですがねぇ……」

こちらとしてもそれを願うばかりだよ。

「そういえば凉宮さん、今日は機嫌がいいようでしたから、きっと昨日二人きりで出掛けたことは間違いではなかったみたいですね。これでしばらくはまた、僕のアルバイトも暇になりそうです」

それだけ言うと、ではまた、と要らぬあの爽やかな嘘くさい笑みを残して古泉は去っていった。くそ、返せ、俺のマフラー。



ハルヒが何を考えてるかなんて、そうさ、俺にわかるわけがないが。
きっとあのときの笑顔だけは、じいさんになっても忘れないだろうと思う。


空から落ちてきた雪に、ハルヒのはしゃぐ声が聞こえた気がした。





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