瓔香短編 | ナノ


短編 (※はNL)









だから言ったんだ。そんなことばっかりしてると、いつか痛い目みるぞって。

「う…っ、は、ぁ……」
「どうだ、気分は。……つらいだろう」
「……わかって、なら、…っは、……訊かな、でよ」
「ばかだなあ。お前の苦しむ顔見るのが愉しいんだって」
「……あくしゅみ」
「今更」
「…っ、ふ……ん……」

溶けそうに熱い頬に触れられてそれさえも辛そうに息を洩らし苦しんでるのは、いつもへらへらしたムカつく態度で、そのくせひとのことをからかうのが大好きな変態野郎。そして変態なのは性格性癖だけに留まらず、生活スタイルにまで侵食している。
寝るときは全裸。たとえそれが、真冬の凍えるような夜であったとしても。そしてそのまま隣で寝る俺にひっついてくるから堪らない。……ただでさえ無駄に顔がよくて見るだけで毎度毎度心拍数上げなきゃならないってのに、その上あのばかみたいに均整のとれた身体とか犯罪だろこの野郎。そんなんだから、毎回引っ付いてくる度に心臓の過労死を防ぐためにやつを蹴りつけて引き剥がそうとするけど、努力虚しく抱き枕になるのが関の山で悔しいったらない。だから、そんなヤツへの俺の口癖は
、『裸で寝てると風邪ひくぞバカ』で(なんともありきたり)、『大丈夫、オレ丈夫だから〜』ってにへらと笑う男と『なら風邪ひいても看病なんかしないで笑い飛ばしてやるからな』という会話を繰り広げたのはもう両手指の数以上だ。
そして、昨日。見事に風邪をひいたバカがここにいる。


「だから言っただろ、散々」
「ん……だっ、て……」
「だってもクソもあるか。それとも何、言い訳でもあんの?」
「ひなにちょく、せつ…さわれる……し、…」
「っ……」
「心配してくれ、る…から……」
「………ばかめ」

熱に浮いた瞳でうっすらと微笑いらながら頬に手を伸ばしてくるヤツは犯罪的にエロくて、それだけで腰かけていたベッドに下半身が沈む思いがする。
その熱い手をとってやればその温度に我慢の箍が外れて、思うままに真っ赤な口唇へ噛みついた。

「んンっ……っふ、…」
「は……、あっつ…」

探った口内のおかしいくらいの熱さに、これは相当ヤラれてるな、と悟る(実際39度を超えていた。薬はもう飲ませたから今は多少下がっているはずだ)。
結局ヤツを笑い飛ばしてやるどころか、その壮絶な色気に充てられてこのザマな自分をこそ笑い飛ばしてやりたい。

「も……ひな、かわいすぎ」
「だまって寝てろ」
「ね……シよ、?」
「やっぱり頭沸いてんだな。寝ろ。さもなくば俺が眠りの淵に沈めてやるけど?」

無理だ。これ以上ここにいたら、俺のほうが我慢できなくなる。くそったれ。そんな後で格好のネタにされるような事を為出かす前にさっさと寝かしつけてしまいたい。

「はは……それ、はちょっと…ごめんかも……」
「なら目ェ閉じていい夢でも見るんだな」
「ん……ひなのゆめ、みれます、ように……」
「…………」

最後の最後まで俺を休ませてくれる気はないらしい、結局弱ったコイツでもどきどきと心臓は忙しなく働くのだ。

「……ばぁか」

本日二度目になる悪態を、小さな口づけとともに眠る恋人へと贈るのだった。














なんだかこの二人、シリーズになりそうな予感。
需要の如何はスルーの方向で。