瓔香短編 | ナノ


短編 (※はNL)











 夕暮れの帰り道、京と二人で並んで歩いていた。どこもかしこも夕日に染まっていて、後ろから追い掛けてくる光に抜かれた俺達のシルエットが、歩く先に伸びている。

 二つの影は背も肩幅も違かったけれど、隙間は肩や腕が今にも触れそうなくらい近くて、なんだか嬉しくなった。自分でも気が付かず微笑んで(ニヤニヤして)いたらしい。



「なに笑ってるんだよ」



 右上から京の不思議そうな声が降って来て、やっと自分の笑みに気がついた。うわ、ちょっと気色悪いな俺。



「いや…なんか、うん、嬉しくなっちゃって」

「嬉しく?…なんかあったのか?」



 俺の答えに更に不思議そうに訊いてくるものだから、余計可笑しくてまた笑う。



「あはは、別に、なぁんにも!」

「はあ?…何なんだよまったく…。」

「はは、ごめんごめん。 多分、俺にしかわかんないよ」



 これは、と言って右手で京の左手を浚う。急な俺の行動にびっくりした顔で彼がこちらを見るが、そんなの全然お構いなし。我ながらびっくりだ!
 俺はやっぱりニヤニヤしながら、伸びた影を結ぶ、繋いだ手のシルエットを眺めた。



「…あ。」

「…?」



 突然京が間抜けな声を上げて、今度は俺が不思議面で京を見上げる。京はなんだか嬉しそうな顔をして、繋いでいた手を持ち上げた。



「 影、くっついてる。 」

「…!!」


 ――…びっくりした。
 同じ事考えてるなんて、と驚きながら目を丸くして京を見詰める俺に微笑み掛けながら、もしかして、と言葉を繋ぐ。



「奏も同じこと、考えてたのか?」

「……ッうん!」



 胸の底から沸き上がるむずむず。さっきまでの嬉しさなんてほんのちっぽけに思える程の、大きな大きな喜びが広がる。口許がニヤけてしょうがない。大きな声で叫びたい気分だ。この感覚を京に伝えたくて、でも上手く言葉になんて出来ないから、代わりに繋いだ手をきつくきつく握り締めた。ついでにぴったり隣に体を寄せてくっつくと、京が小さく笑って、



「お前、顔真っ赤。」



 ぎゅっと手を握り返してくれた。
ちげぇよばかっ、これは夕日のせいだ!
そう言おうと開いた唇は、いつの間にか夕日を遮って近づいた京の顔に、唇に塞がれる。

 繋いだ指と、触れた唇の温かさにドキドキした。



「…夕日のせいだ、ばか。」

「…まぁ、そういう事にしといてやるよ。」



 そう言ってまた笑った京に恥ずかしくなって、悔しくなって、寄せていた体を更に寄せて今度は俺からキスしてやった。



 一つに重なった影を見て笑うのは、世界を染め上げる夕焼け空だ。








end