瓔香短編 | ナノ


短編 (※はNL)









窓から見える白いユニフォームの彼の姿が、怖いくらい煌々してみえて、目に染みた。
鮮やかなオレンジ色に染まった教室の窓の傍はあたたかくて、グローブをはめた手で額を拭う君をいつまでも見つめていたい気持ちにさせる。
近いような、遠いような二階のこの教室から部活に打ち込む姿を眺めるのはもはや日課になりつつあって、春と夏の間のこのなんともいえないすがすがしい香りが彼を想うたびに胸をいっぱいにするのを、映画の一コマみたいだな、なんてちょっとロマンスをかけて浸ってみるのも好きだ。
グラウンドで彼がボールを追いかけて走っている。
私のことなんて気が付くはずもないのに、そのままその視線がこちらに向いてくれないかな、と願って失望するのも慣れっこだから悲しいのだけれど。

いつからこんなに好きだったのだろう、なんて考えても意味のないことだった。
毎日毎日、泥だらけになりながらボールを追いかけて、走って、投げて、そしてそれがなによりも大切だと言わんばかりに過ごしていた彼に、何気なく訊いた“そんなに野球、好き?”のひとこと。ただの好奇心。それなのに、
『 ゆずれないっ! 』
…あんな―――…世界中の幸せを掻き集めたような、見ているこちらが泣きたくなるくらい嬉しそうな顔で答えるなんて、どれだけ卑怯なんだろう? 一瞬で、ただその一瞬で、私の心はおそるべきスピードで浚われてしまった。そのあとはもう、坂道を転がるだけ。ただひたすら彼を目で追うようになって、惹かれて、また溺れて…

そっと、窓際の彼の机に手を触れる。
野球バカと言われるくらいだから、典型的に授業中は寝ているような、完璧からは程遠い彼の、
でも何かを輝きながら追うその瞳にいつか私が映る日がくるのだろうか。
もうこの想いも、そろそろ許容量を超えて私を辛くするばかりだ。

何気なく、教室の後ろの黒板のすみに小さく書かれた、大会の予定が目に入った。日付は明後日。
開け放たれた窓から吹き込んだ風に、ふと頭が冴えわたる感覚がして、グラウンドの彼を見やる。
転がってきていたボールを拾った彼が、顔を上げてこちらをみた。
みている、気がする。遠くて、夕日のあたるキャップの影で目なんて見えないけれど、こちらを見ていればいい。私に、気が付いて。



決戦の日は、決まった。私だって、ゆずれない。