あのあと、やはり街道に紛れた方がばれにくい(脇道に入っても結局無意味だという結論でキアロと九郎で纏まった)という事で街道を江戸に向けて足を九郎とキアロは歩を進めていた 暫くキアロと談笑しながら歩いていると遠くにうっすらと今まで通りすぎていた集落とは違う変わった雰囲気の城下町が見えてきた 「あれ、あれが江戸だよぉ」 「やっとかぁ…なんかどっと疲れた…早く休みたい」 「そんなんいったらあたしだって疲れたよぉ…お!茶屋だよ!茶屋いこう!」 「うん…」 長旅の疲れでもうあんまり元気がない九郎とうって変わってキアロのそれは異常なものだった実にしゃべりだすと止まらない マシンガントークとはまさにこのことなんだろうと九郎は思った それは茶屋に入っても変わらず、相変わらずのマシンガンでまるでこちらがその話に入る隙を与えない。それのおかげで、自分の目的と出会う人がはっきり分かった。ただ、ひとつこのマシンガンから聞いてないことがある 「でね!!吉宗様ったら〜」 「キアロ、聞いてないことがあるんだけど、」 「ん?あ、なに?」 「某のお兄様ってどんなんなの?」 先ほどまで明るい口調で話していたキアロが一変し、顔が嫌そうに歪んだ 「…ぇぇぇぇえええそりゃあ…もう最悪だよ!!さ・い・あ・く!!実際、ほんとに九郎と血つながってんの?って感じだもん」 九郎もつられて顔が曇る 「最悪…?最悪なの?」 「うん!!店の窓とかね!!たたき割ってあるくし!!あたしのライブとかめっちゃ邪魔してくるの!しかも終わったあと出待ちして花渡してくるし!!まぁ目の前でいっつも足で叩き折ってるんだけどね?それでもしつこく来るの!!」 九郎は言葉を失った。兄よ、好きなのは分かるが、気持ち悪がられてるぞ。それなのに良くそんな奴の弟迎えに行こうと思ったなとキアロの忠誠心に関心した 「だけど、そんな嫌いな兄の弟を良く迎えに来ようと思ったね?」 「ひやかしに行こうと思ったの、だけど案外まともだったから」 なんだか、複雑な気持ちに九郎はなった。兄は店の窓叩き割っていったい何がしたかったんだろう、しかもキアロの迎えに来た理由がひやかしって…だから一番最初に辛辣なことばっかり言っていたのか… 「よっし!では行きますか!江戸まであとちょっと!」 気を取り直そうと、キアロが明るい口調で言った 今まで、キアロの話を聞いていて江戸には楽しいことしかないのだと思っていたが、やはり大きな間違いの様な気がしてきてやっぱり帰りたくなった第一そんな恐い兄に会いたくない。 きっと会った瞬間にガンを飛ばされて、なにこいつ?あ?あれが俺の弟?嘘だろ?とか色々やはり耳に痛いことばかりを言われるに違いない。九郎は重いため息をついて椅子からとてつもなく重い腰をあげた時だった。 この街道には似合わない単車がこちらに向かって猛スピードで迫ってくるではないか、この時代に単車なんてものすごい発明品で、もちろん操作するにもそれなりの技術が必要なのなのだが、見たようでは難なく乗りこなしているように見える、実際九郎は本でしか見たことがないので実物を見たのは初めてだった。 「キアロォォォォォォォオオ!迎えに来たぞぉぉぉぉぉ!!」 そのバイクを九郎とキアロが茫然と眺めていると遠くからキアロを呼ぶ声がしたかと思えば、その声はもう近くまで聞こえていた。聞こえていたかと思えば、突然周りが砂埃で見えなくなり眼に砂が入り涙目で九郎はキアロを呼ぶ声の方向を見やった 「げ、葛…何しに来たのよ!!!」 「いやぁ、お前が俺の弟迎えに行ってるって聞いてな、いてもたってもいられず」 「あんたなんて、江戸でおとなしくしてりゃいいのよ!!何やってんの?!」 キアロはニコニコした顔が一変し、葛という単車に乗っている青年に怒鳴っているいったい何が起きているのかと眼を丸くしている九郎にキアロが 「あ、九郎。こいつが君のお兄さん」 キアロは親指でさもめんどくさそうにその青年を指さした。少し、キアロに嫌そうな顔をしていたが、気を取り直したように改めてニカッと笑い、九郎に歩を進めてきた。九郎はその人物をまじまじみていると、確かに茶色の髪につり目がちな眼そして耳にはやけに大きい、薄い鉄板のピアスがが下がって鉄板が反射してキラッと輝いた。服はやけに襟の高いシャツとカーゴパンツにミニタリーブーツがしっくり似合っている。見た目を見ると九郎の思い描いていた恐そうな兄そのものである。しかし、こちらを向いてニコニコ笑うその青年を見ていると自分の考えが誤っていたのかと少し不安になった。青年は九郎に手を差し出して、 「うっす!お前が残九郎だったか?見るのは初めてだな、俺の名前は徳川葛!!よろしくな!」 九郎は少しその差し出された手を掴もうか一瞬迷ったが、葛と握手を交わした 「こちらこそよろしくおねがいします、あとそれから、残九郎じゃなくて九郎でいいですよ。みんなそう言ってるし」 「そうか!じゃああらためて九郎よろしくな!」 九郎は照れくさくてはにかみながら笑った。キアロが不機嫌さをもろに顔に出しながら 「九郎、早く吉宗様のとこにいこうよぉこんなんより、吉宗様のほうが九郎のこと首を長くしてまってるよ」 さすがに葛は堪えたらしく、顔をゆがめながら 「おまえなぁ…さっきから、こいつとか、こんなんとかもっと彼女は彼氏に優しくするべきじゃねえのかよ」 「うるさい!うるさい!葛があたしのミルフィーユ食べたのが悪いんだから!!あれすっごく楽しみにしてたのに!!暫く話聞かないって言ったばかりじゃない!!」 「いつの話だよ…それ…!だから!あれは親父が食ったの!!俺が甘いの嫌いなん知ってんだろ!!」 「南蛮のお菓子が珍しいからって魔が差したんでしょ!!」 九郎はかなり置いてけぼりをくらったが、状況がやっと掴めてあわてて二人の喧嘩を止めに入った 「ちょっとちょっとストップストップ!!あんたら恋仲だったの?」 キアロがあれ?いってなかっけ?という風に首をかしげた九郎は不安そうに 「じゃあ、窓ガラス叩き割るってのは?」 葛が思い出したようにああ、といって 「あれは俺の部下がやったの俺が弁償したって話」 九郎はキアロの話がおかしかったんだと確信した 「もうひとつ、ライブが終わった後出待ちして花渡してくるっていうのは…」 葛もこいつそんなこと言ってやがったのがと、キアロをにらむが当本人のキアロはまだミルフィーユの恨みが晴れてないのか葛をにらみ返す 「それは、こいつの熱狂的なファンが舞台の上まで上がってきて花もってプロポーズしてたから俺がそいつの眼の前で花をたたき折ったって話。お前あんときえらく感動してじゃねぇかよ」 キアロは相変わらず激昂し 「その時はその時よ!!」 九郎は安堵してからキアロに 「聞いた話と全く違うんだけど?」 「いや、葛の印象めっちゃ悪くしたかったんだけどどうだった?」 九郎はキアロに冷めた目線を送り 「最初と最後で全く印象がかわったよ」 葛は呆れたという顔をし、頭をガシガシ掻いた 「ほんとお前ってやつは…迎えに来たけど気が変ったわ、おい九郎後ろ乗れ親父のとこまで連れてくわ」 キアロが焦ったように、 「え?あたしは?」 「お前は歩いて頭冷やせ。な?」 葛は意地悪そうな顔をしてキアロに言い捨てた |