合作 小説 | ナノ








「…………」
「…どうした」
「いえ…何でも…」

何か気になるところでもあるのか、葵が訝しげな表情をした。

取り敢えず、話を聞き終えた三人はちりめん問屋を後にする。

「さて、九郎。これからどうするよ?」

真悟は残九郎に訊いた。彼の性格からして、やめろと言われてもやるのだろう。

「やっぱり神島さんはああいってたが…もう少し探りを入れてみようかと思う」
「俺も手伝うよ」
「ありがとう、さて!!今日は遅いしご飯うちで食べる?」

葵さんとこにさんま取りにいかなきゃな。と笑いながら九郎が言った。真悟は目を輝かせる。

「まじで!?いくいく!!」

2人は九郎の家に行くことにした





葵の実家にさんまを取りに行き、その足で残九郎の家へと赴く。
若干さんまが痛んでいるような気もするが、煮付けにすれば食するには問題ないだろう。

「オメーの家もでかいな」

真悟が溜め息を吐きながら言った。
真悟は道場の為敷地面積はあっても、実際に生活する場所は日向家や轟家よりも遥かに小さい。

「でかくても掃除が大変だよ」
「そーそー。俺はやった事ないけど」

家の敷地面積が広い者同士の贅沢な悩みを聞きながら、真悟は轟家の門をくぐった。

「あ、残九郎ー」
「何で進がいんだよ」

轟家の筈なのに何故か花本進が居た。

「話は一刻を争うよー」
「は?」

全くそのような雰囲気を感じさせないが、彼は残九郎に話す。

「辻斬りだってよー」
「は!?」

その言葉に三人は驚愕するしかなかった。

進の話によると、彼もまた極秘にその残九郎と同じ人相書きの浪人を追っているという。

「困るよねー。ボク葵より弱いのにねー。ふつー日向家に先にいくよねー」

なぜ進がその話を知っているのかと九郎が不思議に思った瞬間、天井の上から声がしたかと思うと天井を壊してなにかが落ちてきた

「やほーくろー!!」
「キアロ…お前なぁぁぁあぁ!!あれだけ情報漏らすなっていっただろおぉぉ!!」

キアロと呼ばれた金髪碧眼の露出度の高いドレスを身に纏っている少女は怒ることないじゃんと拗ねながら

「だって進くんが教えてっていうからぁ。ねー?」
「ねー」

二人の周囲には花が飛んでいるかのような錯覚を感じさせる。実際には飛んでいないのだが。
その前になぜ天井から人間が降ってくるのか、それになぜ九郎は普通に対応してるのか、真悟は理解できず、頭がごちゃごちゃしてきた

「あ、その人は?」

真悟が理解できなくて口をパクパクしていたので進が代弁して

「あぁこのアホそうな奴?真悟だよ」
「そっかよろしくなしんごー!!私はお庭番のキアロでっす!!」

ずかずかと歩みより、無理やり真悟の手を取りぶんぶんと握手をした

「あぁよろしくな?」

挙動不審になりながら取り敢えず挨拶を交わした

「お庭番…」

葵がぼそりと呟く。将軍を守るお庭番衆とはこのように明るい者だったのかと思った。

「それより辻斬りが遇ったんだろ?」
「あー、うん…。それがさぁ…」

真悟が未だ混乱している頭の中で進に訊く。しかし彼は言葉を濁してはっきりと言わない。

「何だよ」
「じゃあ、ハッキリ言うよー」


「辻斬りの度を越して仏さんバラバラ」


真悟の顔が引き吊ったのが目に見えて判った。対する進はいつもの表情を崩さないまま話を続けた。

「今頃事件現場は屯所の人でごった返しー」
「これは…晩御飯なんて食ってる場合じゃないな…」

九郎が深刻な面持ちで答えた

「今からいく?」

葵がごくごく普通な面持ちで聞く

「うん…そうしよう、真悟、多分犯人は近くにいるかもしれない、帯刀したほうがいいと思う」

真悟は焦ったように

「えぇ!?俺刀はまだもってないぜ?!」
「なら、貸すから持っててちょっと取ってくる」

九郎はそういうと部屋の中に入っていってしまった

「ふっ」

それを見ていた三人が鼻で笑う

「笑うなぁぁあぁ!!!!俺だって跡次いだら刀もらえるんだって!!」

真悟が必死なのをよそに進が対して興味なさげに

「ふーん」

とさもつまらなそうに相槌をうった




残九郎から刀を借り、真悟達は辻斬り現場へと赴いた。周囲には屯所の役人が持つ提灯がぽつりぽつりとあった。
そして、その提灯の明かりに照らされて、まだ真新しい血がぬらぬらと提灯の光を反射していた。

「…こりゃぁ…」
「……ただ者じゃねぇよな…」

その残忍と血液の量から相手は相当な手練れだと思える。
暫く辺りを調べ、屯所の役人の人気がなくなりかけた頃だった。犯人の素性や尻尾が全く掴めず、真悟達がどうしたものかと考えていると、何者かが音もなく真悟と九郎達を取り囲んだ。

「しまった…!取り囲まれた…」

九郎はまずいと苦虫を噛んだようにいった

「これは楽しくなってきたね」

と進が状況を理解しているのかいないのか、楽しそうに呟く

「楽しそうって…!!全然楽しくねえよ!!」

真悟が必死になって答える

「…………」

そうこうしているうちに辻斬りたちは抜刀し、真悟たちに向かってジリジリと歩み寄ってくる

「来るぞ」

葵が淡々と告げると、それを皮切りに辻斬り集団が九郎たちに向かって一斉に襲いかかってくる。それと同時に九郎達も抜刀し、相手を迎え撃つ体制に入った

相手の動作は大振りでどこの流派なのかは判らない。しかし大振りでありながら、隙と思える隙はない。そして実戦経験の差か、残九郎達は次第に追い詰められていく。
実戦経験が全くない真悟もほぼ勘で対峙するが、圧倒的に不利である事に変わりはない。

「おい、何か…増えてねぇか!?」

真悟が相手の刀を防ぎながら、残九郎に言う。彼に言われて辺りを見れば、いつの間にか辻斬り達は残九郎達の倍以上の人数になっていた。
いつの間にこのような人数となったのだろう。しかしそのような事を考えている時間は与えてはくれない。

「もたもたしてんじゃねぇぞ!!ブッた斬られてぇのか!!」

いつものぽやぽやした性格から一転して、荒々しい性格となった進が残九郎や真悟へと声を掛ける。ある程度実戦経験があるといっても如何せん数が違いすぎる。次第に四人の息も上がっていく。

「何だコイツら…」
「九郎!!後ろ!!」

残九郎が相手の刀をかわし一瞬の隙を付いた時だった。
すぐ後ろに迫っていた辻斬りの一人。とっさに反応出来たなら、危機は回避出来ただろう。しかし疲れが溜まった今の状態では、回避も刀を受ける事も出来なかった。

「ヤバ…!!」

斬られる。

そう思った時だった。

「邪魔だ」

真悟や葵、進の声ではなかった。その声と共に残九郎は着物の襟首を捕まれ、その瞬間に後方へと飛ばされた。
飛ばされたと言うよりは投げられたと言うべきか。

「へ!?」

残九郎が驚きの声を上げる。彼を投げ飛ばした者は、そのまま辻斬りの一人を斬った。
『斬った』といっても傷は浅く、『少々いきすぎた峰打ち』のようだった。

そしてその男は残九郎らが四人がかりでも対抗出来なかった辻斬り集団を、たった一人で斬り伏せていく。
相手が右から来れば身をかわして相討ちにさせ、左から来れば持っていた刀で斬る。前方から来れば相手を蹴り飛ばし、後方から来れば投げ飛ばす。
その戦い方は、誰かに教わったというよりは実践で自然と身に付いたといった感じだ。

たった一人で、ものの数秒の間に辻斬りを全員地に伏せさせた。

「すげぇ…」

思わず真悟が零した。

その男はゆっくりとした動作で剣を収め、こちらに向き直る

「あ!!」

あの顔は自分が探していたお尋ね者ではないか。こんなに早くに見つかるとは思わなかった。しかしこれはどういう状況なのか、自分が追いかけていた人物に助けられるとは思っていなかった

「あ、ありがとうございました…」

その男は何も言わずに、残九郎らの前から立ち去ろうとする。

「あ、待て!!」
「…………」
「あ…いや…その…」

声を掛けて制止させたのは良いが、その次の言葉に詰まった。
お尋ね者として引っ捕らえるべきか、それとも助けてもらった礼をするべきか残九郎は葛藤し始めている。
その男は黒い着流しの懐からおもむろに煙管を取り出して吸う。暗闇ではぼんやりとしか確認出来なかったが、その両目は赤い。充血という訳ではなく、瞳の色自体が赤かった。

「用がねぇなら帰るぞ」
「用ならある」
「だったらとっとと言え」

残九郎が話そうとした時だった。急に何の前触れもなくその男は抜刀し、残九郎の顔のすぐ横目掛けて投げた。

「なっ!!」

誰もが驚くのと同時に、残九郎の背後に迫っていた立派な身なりの商人が肩を押さえて倒れる。

「手前は背後の注意が足りねぇだろ。それでも侍か」

その男は煙管を加えたまま残九郎に言う。そして良い身なりの商人の肩から刀を一気に抜く。その痛みで再び商人は悲鳴を上げた。同時に商人は逃げ出そうとする。しかしそれはさせまいと、男は商人の肩の傷を足で踏み付けた。

「クソッ!!何故貴様がここに居るのだ!!」
「そりゃぁこっちが訊きてぇなァ。手前、俺の名前を好き勝手に使って人斬りさせやがって。あ゛?御掛けで俺ァ千人斬りのお尋ね者だよ。強ち間違っちゃぁいねぇがな」
「貴様が私の用心棒にならんのが悪かろう!!」
「知るかボケ。誰が手前みてぇな悪徳商人に就くか。冗談はその顔だけにしとけ」

「あぁ」

その二人の話を聞いて漸く合点がいったかのように葵が頷いた。

つまり自分達が追っていたお尋ね者は人違いだったのだと。

「と、いうことは、某が追いかけるべきだったのは…」

唖然とする九郎に真悟が倒れている商人を指さして

「多分こいつだぜ」
「なーんか、腹立ってきちゃったなー。丁度いいや、今ここに御試し役もいることだし首斬っちゃってー」

進が笑いながら残九郎の背中を押す
九郎もまんざらでも無さげに首斬り用の柄の長い刀を抜刀し、

「そうだな、これまでの腹いせを兼ねて、ここで首を斬ってやろうか?」

これまでの苦労がたかがこんな悪徳商人のために振り回されていたなんて怒りしか沸いてこない
お尋ね者も中を開ければいい人じゃないか。帰ったらあの糞親父に一言言わなきゃ気が済まない。そんな怒りを露ににじりにじりと商人の方に歩み寄る

首斬り残九郎、情報屋日向葵、二刀流の花本進、真眼天派流(しんがんてんぱりゅう)の跡継ぎ山中真悟。そして最強の浪人。
一度は聞いたことや見たことのある面子が商人を囲むように追い詰める

「ひいぃ!!」

商人も商人で、九郎の本職に気づいたようで涙と鼻水で顔面をぐしゃぐしゃにしている

「止めとけこんな豚斬ったところでその立派な刀を汚すだけだ」

男は踏み付ける足に力を入れ残九郎に言った。商人はあまりの激痛に意識も朦朧としている。

「寝てんじゃねぇ。話はまだ終わってねぇぞ」

男はもう一度肩の傷を踏み付けた。それは逆に止めをさすようだが、痛みで商人の意識は覚醒する。

「おい!!そこで何している!!」

「丁度役人が来たしよ。俺ァもう行くぜぇ。これを役人に渡しときゃこの商人の罪状がまるわかりだからよ」
「は!?」

男は近くに居た真悟に手紙のようなものを渡す。

「それから手前。背後への気は確かに足りねぇがな、腕は良いぜぇ。このまま鍛練積みゃぁ、稀代の剣豪にでもなんだろうよ」

去り際に男は残九郎に向けて言った。一度紫煙を吐き出して、彼は行った。

真悟は訳も判らないまま、駆け付けた役人に言われた通りに手紙を渡した。
手紙を受け取った役人は、訝しげな表情のままそれを見る。すると役人はそれまでの表情を一転させ、無言のまま倒れている商人を乱暴に立たせてそのまま連れて行った。

「何が書いてあったんだ…?」
「あれ?さっきの人はー?」

進の言葉に辺りを見渡す。しかしどこにも先程の男は見当たらなかった。



所変わって、江戸城のとある一角

「…と言うことでした。報告は終わりましたよ!!!!どういうことですか!!父さん!!」

九郎が怒りに身を震わせながら、父さんと言われた人物、徳川吉宗は吸っている煙管の煙を吐き、灰を落としながら言う。

「…俺はな!!そいつをオファーしたかったんだよ!!」
「はぁ?」
「考えても見ろ!!あいつはお前より強いんだぞ?御試し役交代のチャンスでもあったわけだそれを自分でみすみす落としやがって!!馬鹿か!!」
「はぁぁ?!だってあんたお尋ね者って!!」
「いや、あれは間違ってないぞあまりにも正体が掴めないんでお尋ね者扱いにしてみた」
「まぁあの商人が捕まったのは意外だったがなぁ、もう少しで俺が赴いて…」
「いやいやいやいや将軍将軍俺の苦労なんだったんだよ、江戸中かけずり回ったんだぞ?!」
「いい社会勉強じゃねぇかよかったな!!」
「ちょっと暫くお暇を頂きます」

廊下を通して、遠くからおい!まて!書類の片付けやってくれよ!などと将軍の悲鳴が聴こえるが、知ったこっちゃない今日はカラカラ日本晴れ、帰りにまた団子屋に寄ろう
そう思いながら、大きく伸びをする残九郎だった

2010.04.04





[*前] | [次#]