なんだか気味が悪い。感じたのはそれだけで特に何があるわけではなかった。猟奇的なものを見たわけでもなければ、いつもつんけんとしたルームメイトが突然優しさを見せたわけでもない。仮に、今あげたものが同時に起こっていたものだとしても、そんなものとは違う。ただ漠然と、気味が悪かったのだ。

今日は一日中曇りだった。
ずっと真っ白な空だけが渡り、ほんのたまに、雲の薄い部分から太陽のものらしき明るさが通る。暑いどころか季節に似合わない乾いた風が吹き、夏の終わりと形容するにはあっさりしすぎている涼しさにむしろ肌寒さすら覚えて両腕を抱いたくらいだ。
早く帰りたい。ふと浮かんだそんな思考に、帰り道、ただそれだけを巡らせて木の並ぶ道をだんだん早足になりながら進んで行った。
学校帰りというものは当たり前だがちょうど夕方であり、いくらか暗さと静けさが目立つものだ。この通学路としている歩道には並ぶ木々の枝葉が若干覆うように突き出しているため、それがうっすらと影になるのも原因である。
そこに突然、静寂を引き裂いて割って入るような声が響き渡った。声、というよりは音と表現するべきかもしれない。日常的に聞いていたもの…むしろ今もずっと聞こえていたはずのもので驚くものではないのだが、思わず肩が跳ねた。
突然、蝉の鳴き声が大音量で耳に届いたのだ。
とは言うものの、先ほどから鳴き声が聞こえ続けていたのは勿論知っていた。しかし毎日聞いていたためか、耳を塞ぎたくなるほどの音のはずが、日常の一部として意識されない存在となっていたらしい。先ほど静寂だと表したほど、何もそこへの意識はなかったのだ。
そんなものに肩が跳ねるほど驚いたのは、うち一匹が飛んで耳を掠めたことが原因のひとつだった。だがそれより、そいつがそのまま地面に落下したことがショックだったのだ。
こんなに近くで蝉を見るのは、小学生以来だろうか。目の前に身を投げ出したそいつに釘付けになった。まだ、腹を見せながらも足を動かし、尻を上下させ、弱々しく、しかし生きているという主張をしている。すぐにくたばるかと思ったが、まさか、今まであんなに大声で騒いでいたやつが力尽きるはずがない。
木に戻してやるか、放っておくか。
その時脳内には二択しかなかったはずだが、彼がまだ生きている事実こそおかしいと感じてしまった。
お前、もう死んでるも同然なのにな。そう呟いた後に響いたぐしゃりという音と共にまた帰り道を歩き始めた。相変わらず周りは静かで、気味が悪かった。
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