やはりまた別の世界、でももしかしたら私たちととてつもなく近い世界にて

あるおとぎ話をしましょう。
 あるとき、一人の少年がある少女に一目惚れをしました。彼が一目惚れをした彼女は、とても白い肌を持っていました。その肌は白いと形容するだけでは足りないほどに白かったので、彼は触れてみたくなりました。実際触れてみると、さくりという心地よい音がしました。彼女はさくりと言いました。
 ふわりと甘い香りが漂いました。彼はするりと彼女の頭を撫でました。ぺろりと舐めると、甘い味がしました。少し甘すぎるような気さえしました。彼女は甘味の塊でした。
 少年は彼女を抱き上げてみることにしました。その少女があまりにも軽そうに吹き飛んでしまいそうなほど、軽そうに見えたからです。
実際、彼女はとても軽く感じられました。抱きかかえたとき、少女はさらさらと揺れました。少年が腕を動かすと、彼女の一部は彼の腕の中からぱらりと零れ落ちました。
彼はゆっくりと空を歩き始めました。少女が落ちないようにするためです。どうにか、彼女は落ちずに済みました。
彼らは、とある場所に辿り着きました。どうしてここに来たのか、彼ら自身は分かっていませんでした。
彼らはある人物の意志により、その場所に連れてこられたのです。
そこには、不思議な色をした湖がありました。
二人はその湖をじっと見つめました。その湖の真上には、霧が立ち込めていました。二人は霧の中から目を凝らして湖を見つめました。
湖は夕焼け色をしていました。しかし、そのときは別に夕暮れ刻という訳ではありませんでした。ただひたすらに。湖だけが夕焼け色に輝いていたのです。よくよく見れば、その湖は透き通っていて、底に沈んでいる周囲の樹木の葉を見ることができました。
そのとき、突風が吹き付けました。二人は不安定になり、不気味に傾きました。少女は少年の腕の中からするりと零れ落ち、そのままさらさらと湖の中へと静かに吸い込まれてゆきました。
少年は彼女を追いかけて、湖へと飛び込みました。そして、湖の中で彼女を見つけようと、ぐるぐると泳ぎ回りました。しかし、いくら探し回っても、何周湖を泳いでも、その透き通ったオレンジの中、彼女を見つけることはできませんでした。
しばらくして、少年は諦めて陸へとあがりました。彼が陸にあがった頃には、彼女はあちこちに散って溶けて、湖の底に彼女の欠片がわずかに。残っているだけでした。
こうして、甘い紅茶ができました。

おとぎ話はこれでお終いです。
何の話をしたのか、って?一杯の紅茶に、砂糖をスプーンですくって、それを入れてかき混ぜたときのお話です。