Act-3



「たく・・まぁ・・」

物凄い音と共に現れた拓磨に、心の底からほっとする。

「おに・・ざき・・・」
「佐々木」

「お前・・・何してる」
「いや・・これは・・・」

全身で怒りを露にしている拓磨に先程までの強引さはどこにいったのか、佐々木がうろたえ始める。

「俺の女に何してる!!」
「ひっ!」

佐々木の胸倉を掴み、珠紀から引き剥がした勢いで床にたたき付ける。

「たく・・ま・・・」
「珠紀っ!」

拘束されていた腕から解放され、力なきまま珠紀は床へ崩れていく。
崩れる珠紀を抱きとめ、腕の拘束を解き床に座らせると着ていたジャケットを脱ぎ珠紀の肩に優しくかけてやる。

「少しだけ待ってろ」

優しく珠紀の頭を撫でおでこにキスを落とすと、恐怖に震える佐々木を振り返る。

「覚悟は出来てるんだろうな」

視線だけで人を殺せるのではないかというくらいの鋭い視線を佐々木に向ける。
その視線には怒りしか含まれていない。

「ちょっとした出来心で・・・」
「ちょっとした出来心で人の女襲ってんじゃねぇよっ!!」

言葉と共に佐々木の胸倉を掴み、怒りに任せて思いっきり拳を振るう。

 ガァァンッ!!

人間離れした守護者の力に佐々木の体は吹っ飛び、壁に激突してそのまま気を失う。
相手が神であれば殺していただろう。
たった一撃で拓磨の怒りが沈むわけがないが、佐々木はただの人間。
これ以上の追撃は無理だ。

「はぁ・・はぁ・・」

ぎりっと歯を噛み締めやり場の無い怒りを鎮める。
佐々木から珠紀に視線を戻すと、両腕で自らを抱き震えていた。

「珠紀」
「っ!!」

俺が珠紀に近づいて抱きしめるが、珠紀はビクッと体を震わせる。
下を向いて俺と視線を合せようとしない。

しかたないか・・・。
それよりもまずは珠紀を休ませてやりたい。
ここだと他の生徒が来る可能性があるから移動しねぇと・・・。

「珠紀・・・歩けるか?」

無言で頷く珠紀の肩を抱き、保健室を後にした。

―――・・・

拓磨が選んだ場所は、資料室。
催しに使われていない階だから人気は無い。
本棚で埋め尽くされた中に、ぽつんと長机があるだけの殺風景な場所。
カーテンが閉められており若干湿気くさい。

屋上に行きたい所だが、今日は開放されているはずだから行くことは出来ない。

ドアを開き珠紀と共に足を踏み入れ、後ろ手に鍵を掛ける。

「珠紀・・・」

ようやく二人になれたことで、拓磨は珠紀を正面から抱きしめる。
まだ小さく震えている珠紀に先程の怒りが再度、こみ上げてきそうだ・・・。

「珠紀?何があった?」
「・・ぁ・・・の・・・」
「ゆっくりでいいから話してくれるか?」
「・・うん・・」

拓磨の腕の中にいることで少しずつ落ち着きを取り戻した珠紀が、拓磨の胸に擦り寄る。

「絆創膏を貰いに・・保健室に行ったの・・」
「あぁ・・そこまでは知ってる」
「先生、いなくて・・・貰って帰ろうと思ったら・・佐々木君が来て・・」

珠紀を抱きしめたまま拓磨が無言で頷く。

「足・・捻ったって言うから湿布と包帯・・巻いてあげたの・・」
「あぁ・・・」
「そしたら・・・急、に・・・」

思い出したのか、また体を震わせ涙する珠紀。

「珠紀・・・」

怖かっただろう、辛かっただろう。
自らの怒りもだが、珠紀を傷つけられたことが何より許せなかった。
愛しい女を腕に抱き、拓磨はさらに珠紀をきつく抱きしめる。

「珠紀、一応聞いておきたいんだが・・」
「・・・?」
「何された?」
「っ!?」

珠紀がビクッと体を震わせる。

「思い出すの辛いと思う・・けど聞いておきたい」
「・・・ぅん・・」

決心するように息を零す。

「背中と・・胸、触られた・・・」
「そうか・・・」

最悪の事態を防げたことはよかったと思うが、やはりこみ上げる怒りは消せない。

「珠紀」
「・・なに?」
「後ろ向け」
「ぇ・・・?」

突然の拓磨の言葉に、珠紀が固まる。
拓磨に見られるのだろうか・・・あの男が付けた“印”を・・・。

「俺が忘れさせてやる」

真剣な拓磨の視線。
嬉しさと、拓磨の優しさにまた涙が零れた。

「うん・・・」

拓磨の胸にもう一度だけぎゅっと抱きつき、意を決した珠紀は拓磨に背を向ける。


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