さと愛しさと



私と拓磨・真弘先輩は夜闇に包まれた境内を言葉もなくただ歩く。
二人の無言が『ついてくるな』と言っているようで、私は境内の真ん中で立ち止まるしかなかった。

空を見上げれば綺麗な星空。
・・・鳴き続ける虫の音が、うるさかった。


『お前に何が出来るんだよっ!俺はお前が思ってるような正義の味方でも白馬の王子様でもないんだ!!』


ついさっき、蔵で拓磨に言われた言葉が胸に突き刺さる。
どうすれば拓磨は、傷つかなくてすむのだろうか。

私は皆を・・・拓磨を、玉依の呪縛から開放してあげたい。
ただ笑って一緒に毎日を過ごしたい。
それだけなのに。

その為には知ることが必要なのだと思った。
自分が何者なのかも。
自分が何をすべきなのかも。
私は知らなさ過ぎるから・・・。
何も出来ないという事実に歯がゆさを感じることしかできない珠紀。

「よしっ!気を取り直して調べ物の続き〜っと」

誰もいない境内で曇った気持ちを振り払うかのように明るく振舞う。
自分のしていることに意味はあるんだろうか・・・。



「違う・・・。・・・これも・・・違う」

珠紀は一人蔵に篭り、蔵の資料を読み漁る。
時間を忘れ食事も睡眠も放棄し、ただ読むことだけにひたすら没頭する。

絶対、何か・・・何か方法があるはずっ。
早く探さないといけないのにっ!

本当は焦りと不安で心が押しつぶされそうだった。
でも弱音を吐いても何も変わらない。
自分で見つけるしかないのだ。



−−−・・・



あれから数日がたった早朝。
今日も朝食に現れない珠紀に、美鶴は蔵を訪れる。

「珠紀様?」

重い扉を控えめに開き蔵に入ると、昨夜運んだ夕食が手付かずのまま置かれている。

「・・・・・」

少々悲しそうに目を細め、前に目を向けると珠紀がブツブツ何か呟きながら本に目を通している。
最近、毎日目にする朝の光景。

「珠紀様」
「・・・・・」

よほど集中しているのだろうか、美鶴の呼びかけに珠紀は全く気づかない。

「珠紀様っ!」
「・・・えっ!?美鶴ちゃん!?」

先程よりも近づいて肩を軽く揺すりながら再度呼びかけると、やっと珠紀が美鶴の呼びかけに反応する。
振り向いた珠紀の目元にはうっすらと隈ができていた。
その表情にいつもの明るさは無く、見るからに憔悴しているのが見て取れる。

「もしかして、また一睡もされていないのですか?」
「えっ?もしかしてもう朝!?」

蔵にいると時間忘れちゃうねぇ〜と笑顔を浮かべながら笑う珠紀だが、その笑顔にいつもの元気は感じられない。

「そうだっ!学校行かなきゃっ」
「学校に・・・行かれるのですか?」
「うん!行くよ〜学生の本業は勉学だもんね!」

『元気だよ』と言いたいのだろうか、どう見ても空元気だろうに・・・。

「あの・・・本日は学校、休まれてはいかがです?」

珠紀はここ数日、ろくな食事も取らず睡眠も取っていない。
美鶴が珠紀の体を案じ意見を述べるが、

「大丈夫、だいじょーぶ!私、元気が一番の取り柄だから」

美鶴が何かを言いたげにしている中、慌しく『遅刻しちゃう〜っ』と散らかした本を片付けはじめる。

「・・・・・」

無理矢理笑う珠紀を見て何も言えなくなってしまった美鶴は、唇を噛み悲しそうに我が主を見つめた。



―――・・・



「あれぇ?珠紀ちゃん。今日も鬼崎くんとお昼行かないの?もう行っちゃったみたいだよ〜?」
「あ〜うん。ちょっと用事があってさ」
「ふぅ〜ん。何?別のオトコでもできた?」
「ちっ違うよっ!」
「ふっふっふっ。そこんとこ詳しく聞こうじゃない?」
「違うってば!」
「はいはい」
「もぉ〜っ!」

お節介な友人、多家良清乃と廊下で別れ珠紀は弁当を抱えて図書室を目指す。
少しでも情報が欲しいと昼休みは最近、図書室で一人過ごしていた。

「う〜ん。やっぱり学校の図書館には玉依の記録はないのかなぁ」

日当たりの良い窓際で美鶴製の弁当をつつきながら一人ぼやく。
包みから開いてはいるが、何せ食欲が無い。
少量だけを口にして心の中で美鶴に謝り、弁当を机の端に追いやってから新たな本を開いた。




その頃、屋上では・・・。

「あれ??拓磨先輩。珠紀先輩は?」
「ん?あぁ・・・」
「教室ですか?」
「多分な・・・」

拓磨が歯切れの悪い返事を返す。
珠紀が昼休みに屋上に来なくなって数日。
いつもはにぎやかな昼休みの屋上は、萎れた花のように活気がなくなっていた。

「・・・・・」
「真弘?」
「・・・なんでもねぇ・・・」
「お前達、珠紀と何かあったのか?」
「・・別に・・」
「何もないっすよ」
「・・・・・」

昼休みの屋上は、珠紀を除いた4人の守護者で時を刻む。




  −−−〜♪


静かな昼下がり。
昼休みを終えるチャイムが校内に響いた。

「あぁ〜昼休み、終わっちゃった〜」

本を読む体制で固まっていた筋肉を伸ばし、読んでいた本を閉じる。

「さっ!教室に戻らなくっちゃね。おーちゃん」
「ニー!」

陽のあたる場所で眠っていたオサキ狐が珠紀の声に目を覚まし、短く返事をする。
まだ眠そうに欠伸をするオサキ狐に笑みを浮かべ、優しく頭をなでると珠紀は立ち上がった。

その瞬間、珠紀の視界がぐにゃりと歪んだ。

  あれ・・・?
  な・・に・・・これ・・・


そしてオサキ狐の鬼気迫る鳴き声を遠くに感じ、珠紀は意識を手放した。



―――・・・



「・・・・・」

拓磨は目の前の空白の席を無言で睨み付ける。
珠紀の奴どこに行ったんだよ。
カバンは・・・あるよな。
珠紀が屋上に来なくなってからも、俺が教室に戻れば必ず教室に珠紀がいた。
なのに、今日は授業が始まっても教室に戻ってきていない。
珠紀は俺と違ってそう簡単に授業をサボったりしない奴だ。
まあ、珠紀だってサボりたくなる時もあるだろうが・・・・胸騒ぎがする。
日当たりのいい場所で昼寝してそのまま寝過ごしているだけかもしれない。
それなのに、胸はざわつきを増す。

「ニーッ!」
「ん?」

足元から聞き慣れた声が聞こえ視線を足元に下ろす。

「ニッ!ニーーーーッ!!!!」

そこには俺の制服のズボンのすそを噛み必死に引っ張るオサキ狐がいた。

「尾崎?何やってるんだ?」

授業中ということと、自分以外には見えていないということから自然と小声になる。

「ニニーーーーーッ!!!!!」

机に頬杖を付き足元を見ていると、俺の足を登ってオサキ狐が机の上に上がって来た。

「ニー!ニー!ニー!」

そして制服の袖を噛み、必死に引っ張る。
まるで『早く来い』と言いたげに。

  −−まさか

「っ!珠紀かっ!?」
「ニっ!」
「案内しろ!」

机から飛び降りたオサキ狐は一直線に走り出す。
急に大声を出した俺にクラスメイトの視線が集まるが、そんなことに構ってられない。
怒鳴る教師を無視して、俺はオサキ狐を追いかけた。





「珠紀っ!!」

拓磨がものすごい勢いで図書室の扉を開き、オサキ狐の後を追う。
そこには散らばった本の上に真っ青な顔で倒れる珠紀がいた。

「おいっ!珠紀っ!!」

珠紀を抱き起こし叫びかけるものの、ぐったりとした珠紀はまったく反応が無い。
体はまるで死人のように冷たく、体温が感じられない。

「珠紀っ!とりあえず運ぶぞ!」
「ニッ!」

拓磨は珠紀を抱き上げようとするが、

「っ!?」

抱き上げた珠紀の軽さに言葉を失う。

なん・・でこんなに軽いんだ。
いや、元々珠紀は軽いほうだと思うが・・・。

よくみれば珠紀の目元には隈が、頬の肉は以前より痩せ落ちている。
元気な珠紀の表情には程遠く、数日ぶりに正面から見た珠紀は以前とは変わり果てていた。

「くそっ!」

どんな理由があったとしても、やはり珠紀のそばを離れるべきではなかった。
ロゴスと戦ってボロ負けして、それでも前向きすぎる珠紀にイラついて。
挙句、珠紀に八つ当たりして傷つけた。
とにかく今は珠紀を休ませなければならない。
拓磨は珠紀を抱え、走りだした。



―――・・・



布団から除く珠紀の冷たい手に、自らの手を絡め体温を分け与えるように両手で包み込む。

「・・・・・」

ベッドには相変わらず青い顔の珠紀。
保険医が不在の為、勝手に保健室に入り込んだ。

「珠紀・・・」

どうしてここまで無理をした。

「珠紀っ」

いくら呼びかけてもいつも聞こえるあの優しい声は聞くことが出来ない。

「・・・俺の生気を分けてやる・・・」

立ち上がった拓磨が、珠紀の顔の横に手を付きゆっくり身を屈めていく。
本来なら珠紀の意識のある時にしたかった。
・・・初めての口付け。

「・・・・・」

初めて触れる珠紀の唇は想像していたよりもはるかに柔らかかった。
ただ、触れた唇の冷たさが胸を締め付ける。

唇を通じて、俺の生気を珠紀の中へ流し込む。
唇を離し珠紀の頬に触れると、先ほどよりも体温が戻っているようだった。

「珠紀…」

何度でも与えてやる。
お前の為なら、いくらだってくれてやる。

俺は珠紀の横に手を付いて、再度身を屈めた。



−−−・・・



「ん・・・・・」


俺は珠紀の手を握りながら眠っていたらしい。
珠紀の様子を見ようと起き上がり、そっと頬に手を添える。

暖かい・・・。

「珠紀・・・」

愛おしそうに珠紀の髪をなでる。

「ごめんな・・・」
「・・・・ん」
「珠紀?」
「たく・・ま・・?」
「あぁ・・・」
「あれ?ここ・・・」

ゆっくりと重そうな瞼を持ち上げ、自分の状況が理解できていないようだ。

「保健室。倒れたんだよ・・・お前」
「保健室?」

自分がベッドにいることをようやく理解し、起き上がる。

「まだ寝てろ」

無理に起き上がろうとする珠紀の両肩に手を添える。

「もう大丈夫だよ?帰ってやることもあるし」
「珠紀っ!」

力の無い笑みを向けられ、俺は衝動のまま力任せに珠紀を抱きしめた。

「拓磨・・・?」
「もう、いいから」
「え?」
「無理に笑うな」
「え・・・何を・・・」
「もう一人で抱え込むな」
「たく・・ま」
「悪かった」

あの日の夜からずっと、蔵に篭っていた事。
食事もろくに取らず、睡眠も取らずひたすら蔵で書物を読むことに必死だった事。
昼休みは一人図書室にいた事。
珠紀が眠っている間、オサキ狐に記憶を見せられ全てを知った。

全ては俺の身勝手な言葉が珠紀を追い詰めたことが原因。

「悪かった」
「なん・・で・・拓磨が謝るの・・」

震える声で答える。

「珠紀・・・」

珠紀を抱く腕に力を込める。
もう離さないと言いたいように。

「好きだ」
「・・・え?」
「好きだ。珠紀」
「拓磨・・・」

ふと珠紀が顔を上げると、いつになく真剣な表情の拓磨と目が合い胸が高鳴る。
そして二人の距離は自然と近づき・・・

「・・・んっ」
「・・・・・」

甘い口付けを交わす。

遠くから賑やかな足音がこちらに向かってくる。
オサキ狐に状況を知らされた仲間達だろう。

「拓磨・・・」
「好きだ」
「うん」
「俺がいるから」
「うん」
「珠紀」
「ん?」
「もう一回・・・」
「ん・・・」

再び目を閉じる。
仲間達が着くまでの短い逢瀬に拓磨と珠紀は身を任せた・・・。



アトガキ
とりあえず。切甘がスキww
はたしてこれは切甘なのか??
そんなのしらない(゚m゚*)プッ
教室の設定、アニメとゲーム違うよね。
アニメ設定で呼んでくださーい(笑)

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