恋人同士ってなんだろう。お互い好きで、お互いとても大事な存在で、お互いとても恋しくなる存在。私はいつだって、あなたに対してそう思ってるけど。あなたはそうじゃないみたい。



「んナミすわぁ〜んッ!ロビンちゅわぁ〜んッ!おいッしいおやつが出来ましたよォォ〜ん!!!」


お昼過ぎになると必ず毎日聞こえてくる彼の声。その声はとても甘くて、その声で恋人の私以外の女の人の名前を毎日何度も呼んでいる。それを聞いていて、私はいつも少し気分が悪くなる。嫉妬というより、寂しい気持ちの方が強い。



「本日のおやつはシュークリームです。愛を込めて作りました」

「ふふ、ありがとう」

「ありがとうサンジくん!さっそくいただくわ」

「はァ…ッ!おやつを食べる姿も素敵だぁあ〜ッ!!」


ナミとロビンがおやつを食べる姿を見て、目をハートにして体をクネクネさせている人が私の恋人のサンジ。彼はすごい女好きで、女の人なら誰でもいいような人。そんなどうしようもない人だけど、私は彼のことを好きになってしまった。ダメ元で告白してみたらあっさりと受け入れてくれて、今では恋人同士。


付き合い始めた時は両想いだってすごい喜んでいたけれど、それは私の勘違いだってすぐに気がついた。彼は女の人にすごく優しいから、きっと私のあの告白を断れなかったんだと思う。ナミには「そんなわけないじゃない」と軽く言われたけど、彼の行動で全部わかる。



「サンジ」

「あ、aaaちゃん」

「私のおやつは?」

「あァ。aaaちゃんのおやつならキッチンにあるから勝手に食っといて。俺はナミさんとロビンちゃんにコーヒー出してくるから」

「…うん」


私たちは恋人同士になってからも、今までと何も変わらなく過ごしている。付き合ってもう数か月も経つけど。私たちはキスもしていないし、手すら繋いだことはない。私がサンジに「好き」と言っても、いつも「ありがとう」と返されるだけで、彼から好きと言われたことは一度もない。


彼の気持ちは私にはない。
それなのに関係は恋人同士って、なんだかとても悲しい。





***



「ぎゃあああ!!!」

「ちょっとルフィ!ご飯飛ばさないでよ!」

「だってよー!ウソップがなんとか星飛ばしてきたからよー!」

「人の飯取るからそういう事になるんだ!!!」

「仕方ねェだろ!足りねェんだから!」

「お前の胃袋はどうなってんだ!!」

「全くもう…ほんと子供ね」

「うふふ、賑やかでいいじゃない」

「ナミさんロビンちゃん、食後に何か飲むかい?」

「あ…じゃあコーヒーもらえる?」

「私もコーヒーお願い」

「かしこまりました」

「あ、ねぇサンジくん」

「はい?」

「aaaのはいいの?私たちより先にaaaのやった方が…」

「あァ、全然大丈夫ですよ。aaaちゃんのは後でやりますから」

「…そう」

「すぐにお二人のご用意しまァす!!」

「…ありがとう、コックさん」

「ねェaaa、いいの?あれ…」

「…うん、いいの」

「でも…」

「ずっとあァだから、もういいの」

「aaa…」


ナミとロビンのコーヒーを用意するサンジの姿はとても楽しそうで。その姿を見ていてとても辛かった。サンジにとって私の存在は、レディだけどナミやロビンくらい気にする程でもない存在だと思う。そんな私が彼女で、きっとサンジは迷惑してる。でもそれを言い出せずに、何か月も付き合ってくれているんだと思う。


私の存在はサンジにはいらない。
それならもう、私があなたに出来ることはひとつしかないじゃない。





***



「はァ…」


いつもの騒がしい夕飯の時間も終わって、そろそろ就寝の時間になったころ。私は女部屋ではなく芝生の甲板にいた。夜の海を眺めながら静かにため息をつく。



「aaaちゃん」

「サンジ…」


後ろから聞きなれた声が聞こえて。振り返ってみれば、煙草をくわえたサンジが立っていた。サンジは煙草を吸いながら私の隣まで歩いてきて。ふたりの間の距離は人一人分くらい。サンジはそれ以上近づいて来ようとしない。



「何してたの?」

「…特に何も。サンジは何してたの?」

「あァ、夕飯の後片付けが終わったからさ。ちょっと一服」

「…そう」


さっきの夕食の時の楽しそうな態度とは違って、今はとても落ち着いているサンジ。思えば私は、ナミやロビンのような扱いをうけたことがなかった。ゾロみたいなひどい扱いでもなく、ただただ普通の扱い。

恋人だけど、恋人じゃない。
相手を想っているのは私だけだもの。


もう、解放してあげなきゃ。




「サンジ…」

「なに?」

「私たち、お別れしよう」

「え?」

「その方がいい」

「…理由は?」

「それはサンジが一番わかるでしょ?」

「…」

「サンジが、私のこと好きじゃないからよ」

「…そんなことねェよ」

「それはサンジが気づいてないだけ。今まで付き合ってみて、私たち恋人らしいことなんて何ひとつしなかったじゃない」

「…」

「付き合った時はサンジの彼女だって勝手に浮かれてたけど、関係は付き合う前と何も変わらなかった。彼女になってからも、サンジは変わらずナミやロビンにメロリンしてるし。…それ見てて、私ほんとはすごく寂しかったの」

「aaaちゃん…」

「サンジから好きって言われたこともないし、私だけずっと一方的に想ってて…なんか、私すごくバカみたい」

「…」

「サンジは女の人に優しいから。私からの告白、断れなかったんでしょ?」

「違…ッ」

「無理しないでいいよ。今までの態度でわかってた」

「aaaちゃん…」

「今まで何か月も…ずっとごめんね?」

「…」

「私なんかと付き合ってくれて、どうもありがとう」

「待ってくれaaaちゃん、ちゃんと話…」

「じゃあもう寝るから。…おやすみなさい」


サンジの言い訳は何も聞かないで、私は女部屋に向かった。女部屋のドアを閉めたと同時に、今まで我慢してた涙が一気に溢れた。女の人に優しいサンジ。私の告白も、その彼の優しさのせいで断られなかったから。

でも、私のことを好きじゃないのなら、ちゃんと断ってほしかった。そうしてくれていれば、自分の気持ちが一方通行だって思い知らされずに済んだもの。ここまで悲しい気持ちにならずに済んだもの。


溢れて止まらない涙を
私は枯れるまで流し続けた。




***



「うンめェーッ!」

「あッ!ルフィおめェ!だから俺のまで食うなって!」

「おれおかわり!!」

「ちょっとルフィ!ウソップ!チョッパー!朝からうるさい!」

「ルフィ、これあげる」

「えーッ!いいのかaaa!!」

「なんだお前、あんま食ってねェじゃねェか」

「いいの。あんまお腹空いてないし」

「大丈夫か?体調悪いのか?」

「大丈夫よチョッパー、ありがとう」


心配してくれているチョッパーの頭を撫でて、「部屋で休んでる」と言って私は席を立って女部屋へ向かった。サンジの顔は見ないようにして。昨日の夜、涙が枯れるまで泣き続けたから、きっと今すごい目が腫れてると思う。サンジがこの顔を見て、この目の腫れは昨日のことが原因だって思われたくないもの。



「はァー…」


女部屋について自分のベッドの上に寝転がる。さっき、サンジと顔を合わせるのが気まずかった。きっとしばらくこんな感じになっちゃうんだろうなァ。こんなことになるなら、告白なんてしなければよかった。…ずっと片想いをしていればよかった。





----コンコン



きのうのことを思い出してまた少し涙目になっていたら、部屋のドアがノックされた。ナミかロビンかな。「はい」と返事をしたら、すぐにドアが開いて。



「aaaちゃん」

「サンジ…」


ドアを開けたのはサンジで。サンジは部屋のドアを閉めて、私の前までゆっくりと歩いてきた。少し涙目の私の顔を見て、彼の表情はとても悲しそう。



「aaaちゃん、ごめんな…」

「うぅん、全然…私こそごめんなさい」

「目…腫れてるな」

「ごめんね。もう別れてるのにメソメソ…」

「…」

「もう泣かないから、気にしないで」

「aaaちゃん」

「ん、なに?」

「俺の話、聞いてくれねェかな?」

「え?」

「俺、このまま別れるつもりねェんだ」

「…」

「ちゃんと、謝りたい」


サンジは私の前でゆっくりと腰を下ろして、私を見上げるような体制になった。サンジは私の目をまっすぐ見て、私の手を弱弱しく握った。



「aaaちゃんは昨日。俺がレディに優しいから、自分の告白が断られなかったって言ってたけど…それは違うよ」

「…え?」

「こんな俺だが…いくらなんでも、告白してくれたレディの気持ちを全部受け入れるようなことはしねェ」

「…」

「俺、aaaちゃんに甘えてた。ナミさんやロビンちゃんにメロリンしても、aaaちゃん何も言わねェからさ。…傷つけてるなんて知らずにずっとやっちまってた」

「…」

「俺、普段からいろんなレディに簡単に好きだって言ってるから。aaaちゃんに好きだって言っても、いつもみたいな軽いやつに見られるんじゃねェかって…不安で言わなかったんだ。aaaちゃんに対する態度も、そういうのがあって冷たくしちまってた…」

「…」

「でもそれがaaaちゃんを寂しくさせてんなら、もう止める」

「え…?」

「好きだ、aaaちゃん。一方的な想いなんかじゃねェ。俺だってすげェ好きなんだよ」

「…うそ」

「嘘なんかじゃねェ。…嘘でこんなこと言わねェよ」

「サンジ…」

「aaaちゃんがよかったらなんだが、もう1回…やり直すチャンスくれねェかな…?」

「…」

「俺、aaaちゃんがいねェとダメなんだ」


好きだと言われたあと、すぐにぎゅっと抱きしめられた。好きだと言われたのも、こうやって強く抱きしめられたのも初めてで。また私の目からは涙が出てきた。この涙は昨日の悲しい涙なんかじゃなくて、きっと嬉しい涙。



「私も好き。…好き過ぎるて困るくらい好きなの」

「そりゃァ光栄だ。今まで本当にごめんな…これからは泣かさねェようにする」

「うん…ありがとう」

「ナミさんにもさっき怒られたよ。もっとaaaちゃんを大切にしろって」

「え、ナミが?」

「あァ。よっぽど俺の態度が悪かったらしい」

「んー…確かに冷たかった」

「本当すまねェ。これからはもうしねェから…」

「ふふ、もういいよ」

「…あとさ、aaaちゃん」

「ん、なに?」

「これも、軽く思われるのが嫌で言わなかったんだが…」

「?、うん」

「…キスしてもいいかい?」


真剣な目で私を見てくれるサンジ。こんな真剣な顔されたら、軽いなんて思えるはずがない。私たちはお互いのことを想いすぎて、すれ違ってたみたいなのね。


私は笑ってそっと目を閉じた。
数秒後、唇に暖かくて柔らかいものが当たった。





恋人同士
(それは想いが通じ合うふたりのこと)



***


きすく様へ!
相互記念に書かせていただきました。
リクエストが切甘だったのですが
ちゃんとなってますでしょうか><?

こんなのでよければ
もらってやってください^^!

これからもよろしくお願いします!



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