旧短編 | ナノ


「待ってください、ゲンマさん!!」



ぱたぱたとスリッパが床を跳ねる音がする。
しかしゲンマは素知らぬふりを決めて家の扉を開いた。
と同時に、aaaはゲンマを捕らえた。
aaaがゲンマを抱きしめたのだ。
「任務がある、どいてくれ」
自分を包む腕を掴み、離そうとする。
ゲンマに、aaaは負けじと腕に力を込めた。
「やーでーすー!」
aaaの抵抗虚しく、腕はあっさりと離されてしまった。
「残念」
ゲンマは明るくそう言った。
そしてこちらに振り向き、aaaを見た。
「……行かないで」
そう呟いたaaaの頬を擽る。
「……」
「ケガ、しないで。怖いですよう」
眉を八の字にさせ、aaaは頬を撫でるゲンマの手を両手で包んだ。
「……怖いんですよ」
自分でも聞こえないくらい小さく呟いたつもりが、ゲンマの耳には届いていたようで、ゲンマはゆっくりと顔をaaaへと寄せた。
「死にゃしねーって。これでも特上だぜ?」
楽しそうな声色だった。
「前は大怪我して帰ってきたくせに。どれだけ私が心配したか知らないんでしょう?」
aaaは怒ったように眉をひそめた。
そしてぎゅう、とゲンマの手を不安を表すかのように握った。
「知ってる」
ちゅ、と額にキスをされ、aaaの顔はぼっという音と共に真っ赤になった。
「ばか」
俯いて紅潮した顔を隠しながら、aaaは悪態をついた。
「aaa」
耳元で名前を呼ばれ、背に電流のようなものが走った。
びくりと震えた体を落ち着かせようとする。
「aaa、こっち見ろ」
再度名を呼ばれてやっと、ゲンマの方を向いた。
「……ん、むう」
ちゅうと重なった唇が呼吸をさせてくれなくなった。
反射的につむった目を、そっと開いてみた。
(ゲンマさん)
自信に満ちた瞳だった。
これ以上は止めても無駄だ。
そう確信した。
それと同時にゆっくりと唇を離された。
「……行ってくる」
「いってらっしゃい」
ゲンマはaaaの顔色を窺い、ぐるりと身を翻した。

そしてゲンマは、
背を向け 往く

「ケガしないで」




※「往く」は「ゆく」と読んで下さい

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