旧短編 | ナノ


※学パロ



甘美な歌声。
鳴り響いたあと、頬につう、と流れる一筋の涙。
教室の壁にもたれ掛かり、口に手を宛て声も上げず泣いている。
その姿が余りにも綺麗で、俺は魅入ってしまったんだ。


歌声


屋上に金髪の男がいる。
「あー、最高」
煙草を指に挟み、ふうと煙を吐きながら煙草の美味さに声を漏らした。
「くせぇ」
隣で横たわる緑頭の男がそう言った。
「だったらどっか行きやがれ、このクソマリモ野郎」
その男を眺めながら、飛び切りの笑顔で悪態をついた。
「ンだとてめぇ!」
「あぁ!?」
一睨みすると、ゴンと頭に鈍い音が響いた。
「んナミすわぁあーん!」
メロリンモードに変わって、頭を殴った張本人であるナミに両手を広げる。
「ゾロもサンジくんも、こんな良い天気なんだから騒がないで!」
「はぁーい!」
ハートを飛ばしながらナミに返事をするサンジ。
「馬鹿が」
ゾロは誰がとも言わず悪口を言った。
「アア?!んだとコノ!」
「サンジくん!」
ナミの声でやっとサンジは収まった。
「サンジもゾロも何言ってんだー?あっひゃっひゃっひゃっ!」
ルフィは転げて腹を抱え笑っている。サンジとゾロのやり取りがツボに入ったらしい。

「ほんっと、サンジとゾロは仲悪ィなぁ」
ウソップがそう言うと、隣にいたロビンがふふ、と笑った。
ロビンは髪を耳にかけ、口を開いた。
「楽しいじゃない」
「そーいうもんか?」
ウソップは、はぁと溜め息を吐いて思い出したかのように、あ、と声を上げた。
「どーした、ウソップー」
サンジとゾロのやり取りに何故か大爆笑していたルフィが話し掛けた。
「そういえば最近、屋上から謎の歌声が聞こえるらしい!その声の正体が解らねぇからってすんげー噂になっててよう……」
ウソップが人差し指を立てながら喋ると、どこからともなく歌声が聞こえてきた。
「そうそう、こんな歌声だって聞いて……歌声!?」
「これか!?」
ルフィはわくわくと胸を踊らせる。
「誰かしら?」
ナミは冷静に歌声の主の姿を探した。
「この声、どこかで……?」
サンジには声の主が記憶にある気がした。
「ねえ、ウソップ……その声の主の姿を確認出来なかったって言ったわよね…?」
ナミが眉をひそめて何か考えている。
「あ、あぁ!!言ったぞ……!」
「これはね、わたしの推測にしか過ぎないんだけど、多分……姿が確認出来なかったのはこのせいよ!」
ナミはガラ、と屋上にある天文部の部室の扉を開いた。
「わあ!」
すると、扉にもたれ掛かっていたのか、支えがなくなり、ころりと転げながら部室から出て来た女生徒がいた。
「!、大丈夫!?」
サンジは少しびっくりした様子で女生徒を起こした。
「あ、はい、え、えと、なんの用ですか?」
サンジに助けられつつ起き上がりながら自分を取り囲む人々に声を掛けた。
「歌上手かったなぁと思ってよー!名前、何ていうんだ?」
ルフィが笑いながら言った。
「2組のaaaよ、aaaaaa」
知らないでしょ、と苦笑いしながらaaaは名前を言った。
「!」
サンジには心当たりがあった。
何故なら、このaaaという女の子は――。
ルフィはaaaを気に入り、すぐに仲良くなった。

放課後、サンジはそわそわしていた。
「……」
「何してやがんだ、グル眉」
昼休みに会った女の子に会いたいが、どういう理由をこじつけ会いに行くかに悩んでいたのだ。
「あぁ!?てめぇ…!」
「あ!サンジくーん、ゾロくん!」
帰りついでに女子がサンジとゾロに寄ってくるのは毎日のことだった。
「……」
ゾロは面倒そうにそっぽを向いたが、サンジは笑顔で女子と喋っていた。

女子と話し終わると、ゆっくりとした足取りで、aaaがいる2組の教室へたどり着いた。
そっと教室を覗いてみると、席について本を読むaaaの姿を確認した。
「よかった……まだいる」
「おい、グル眉……、俺ァ帰るぜ」
鞄を持ってゾロはそう言いながらサンジの横を通った。
「あ、あぁ…」
サンジは教室の外でaaaが出て来るのをずっと待った。
ある話をするために。

30分ほど経った頃、この階にはaaaとサンジ以外の人間はいなくなった。
「まだか……?」
サンジが呟いた瞬間、洗練された声が耳を流れた。
aaaの歌声だ。
ば、と2組の教室の扉のガラス窓から中を見遣る。
すると、窓際で歌うaaaがいた。
少し見とれていると、我に返ったようにサンジは扉に身をひそめた。

遠くの存在である人を歌った女性視点の歌。

aaaが歌えば、より儚なさが増す。
aaaが歌い終わると、サンジはガラガラと音を立てて教室の扉を開いた。
aaaは驚きながらこちらを見ていた。
そのaaaの瞳には涙が溜まっている。

俺は、この涙を知っている。

「ねぇ、誰の為に歌っているの?aaaちゃん」
「サンジ、くん……」
ぐい、と涙を拭いながらaaaはサンジの名を呼んだ。
「今日も……屋上で歌ってたのこれだよね。ねぇ、aaaちゃんを泣かせているのは誰?」
サンジはaaaに近寄りながら、問い掛ける。
「……だれ、かな」
「なんでかな、会ったばっかりなのに、凄く辛いんだ。aaaちゃんが泣くところ見てるの」
それは女の子に対してでなく、aaaという一人の女性として。
サンジは煙草を取り出し口にくわえ、ライターで火をつけた。
「…サンジくん」
口を開いたaaa。
「ん?」
サンジは耳を傾けた。
「……………サンジくんだよ」
「……うそ」
「嘘なんか言わないよ」
aaaは頬を染めながら、サンジの横を眺めながらそう言った。
「春に、サンジくんを見たの……一目惚れだった。けど、サンジくんは格好良くてモテて……私には勇気がなくて話し掛けられなくって」
ねぇ、サンジくん、とサンジを呼ぶとaaaは笑った。
「クラス全員分の提出物を持った女子を手伝うサンジくんを見て、私はもっとサンジくんが好きになったの」
サンジはaaaの笑顔にどきりとした。
「春……?、俺も、初めてaaaちゃんを見たのは春だったよ。歌ってた。さっきみたいに、窓際で泣いてて――、一目惚れだった」
女の武器は涙とは言ったものだ。
「おれ……aaaちゃんのことが好き」
サンジは笑った。
「う、うそ」
aaaは戸惑い慌てる。
「嘘じゃないよ」
サンジは両腕を広げてみせた。
「……aaaちゃんの想いが嘘じゃなかったら、おいで」
「……!!」
aaaは瞳から大粒の涙を流し、サンジの胸へ飛び込んだ。
「サンジくん!!好きだよう!」
「俺も、大好きだよ」
サンジとaaaは抱きしめあった。

学校帰り、夕暮れ時、二人の影が地面に並んでいる。
「もっと早く気付いてたら、aaaちゃんを泣かせることもなかったんだろうなぁ」
きゅ、と手を繋ぎ合う二人。
「どうかなぁ……今度は、幸せすぎて泣いちゃうかも!」
aaaはサンジの方を向きながら笑った。
「!!……あ…、aaaちゃんが下ネタ言ったのかと思ってビックリしちゃった」
サンジは笑っていたが、aaaは顔を真っ赤にさせ「サンジくんのえっち!」と言っていた。

恋は始まったばかりである。



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