旧短編 | ナノ


雰囲気:シリアス ストーリー:甘め
※現パロ



あの日のキスが優しかったから。
あなたをもっと知りたいから。
あなたが、好きだから。


(想いの帰るところへ)


『おれ、遠くへ引っ越すよ』
(サンジ……私はどうしたらいい?)
サンジのマンションから立ち去り、学校へ行く。
校門を通り過ぎ、階段を上る。
見慣れた教室のドアを開く。
いつも通りの席に座り、かばんの教科書とノートを机に入れていると、声を掛けられた。
「あっ、あの……aaaさん、いい?」
いつもの人達ではない。
「……うん」
手招きするのでついていくと教室の外。
「昨日、かっこよかったよ!」
「ヘ?」
「言い返しちゃったでしょ、あいつらに!私も迷惑してたから……aaaさん凄いなって思って…!」
興奮しながら凄いよ、と言う生徒。
(見たことある顔。なんて名前だっけ?)
「あんまり褒めないで……」
「ううん、すごいよ!!」
こんなに褒められたことないから、aaaはただ照れて苦笑いをするだけ。
「……ありがとう」
今更だけれど、学校に出来た居場所。
話し掛けてくれる友人。
(私は、ここに…)

学校が終わり、話し掛けてくれた生徒に挨拶を交わしサンジの家に向かった。
家に帰りたくはない。
マンションに着き、扉に手をかけると開いている鍵。
玄関を通りリビングに入るとサンジは部屋の片付けをしていた。
あったはずの家具は無く、棚にあった本も段ボールに詰められている。
「サンジ…」
「今日で辞めたよ、教師」
屈めていた腰を伸ばす。
コキコキと音がしていた。
「ねぇ、サンジ……私、友達ができたの」
「……よかったね」
にっこりと笑った表情に見え隠れする淋しさ。
(また…)
サンジに歩み寄り、見上げた。
高い背。

「サンジ……私も連れてって」

aaaはサンジの長い指を握った。
「ダメ」
「なんで」
手に力を強く篭めるけれど表情は変わらず飄々としている。
「やっと居場所が出来たのに、学校を離れるなんて……駄目…」
「だから、サンジが居場所を作ってくれたから……私には、サンジが必要だよ……!」
ガッ、とサンジの腕に掴みかかる。
サンジはaaaの肩を掴んで鋭い目を見つめる。
「aaaちゃんには……これからの人生だってある…!」
言い聞かせるように目を見据えている。
aaaはサンジの瞳の中の己を見た。

「それに私は……サンジが好きだよ!!、…離れたくない…お願い……一人にしないで…!」

ぽろぽろと溢れる涙はサンジと会った夜の時の手首の傷の血のように止まらない。
崩れ落ちそうになる体をサンジの腕につかまり、必死に堪える。
「サンジの罪…、私にも背負わせて……」
「aaaちゃん…」
がくがくと震えるaaaの膝。
サンジはaaaを優しく、しかし力強く抱きしめた。
「サンジ…すき、好き……サンジ、」
「ありがとう……おれも、好き。大好きだよ、aaa」
耳元で囁かれた言葉と、優しいキス。
搦め捕られた舌。
「あっ…ん…」
漏れた変な声。
混ざる唾液。
うっすらと開いた瞼に映ったサンジの色っぽい顔。
「サンジ…っ」
今度はaaaから舌を絡めた。

朝日がまだ空を照らしていない暗い朝。
黒い車がまだ人気ない道を通る。
サンジは運転席へ、aaaはサンジと会った時とは違い、助手席へ座った。
「どこに行くの?」
「遠く。……決まってない。あ、そうだ」
家どこ、と聞いてきたサンジにあっち、と具体的に説明すると急ブレーキをかけて右に曲がった。
「ひゃあっ!」
「ごめんね」
謝っているが気持ちが篭っていない。
aaaは溜息を吐いていると、知った場所に着いた。
「ん、ついた」
「え?サンジ!?」
一気に不安になるaaa。
着いた場所――aaaの家だった。
「荷物と……挨拶しておいで」
「どこにも行かないでよ!待っててね!!」
念を押してaaaは車を下りた。

家に入り、二階に上がり静かに自室に入り、ボストンバッグに適当に服や必要な物を詰めた。
学校のかばんは勉強机に置いた。
一階下りてリビングに入ると酒の匂い。
リビングのカーテンから外を覗くと黒い車はまだあった。
ほ、と溜息を吐いて、リビングテーブルにある片付けられていない酒の缶を片付けた。
この手慣れた作業もこれが最後。
その辺にあったチラシの裏にボールペンを滑らせた。
ありがとう。
そう、書き残して。
aaaはボストンバッグを背負い、家を出た。
黒い車の助手席に乗り込む。
後ろの座席に服詰めのボストンバッグを放り投げた。
シートベルトをして、サンジを見た。
笑っている。
「……てっきり置いて行くんだと思った」
「そうしたらaaaちゃん、泣いちゃうでしょ」
「うん」
こくこく、と頷くaaa。
「aaaちゃんが泣く姿なんか想像したくないし……、好きな女を離したくねぇよ…」
サンジはハンドルを持っていた手を離し、aaaの頬に手を添えた。
そして鼻にキスをした。
「っ!」
「さて、行こうか」
ブゥン、と発進した車。
aaaは移り行く景色と隣にいるサンジを見遣り、笑った。
手首の傷はもう痛くなかった。


罪は重いけれど、その天秤に釣り合うくらいの愛情を捧げよう。



The Last.



○おまけ
「どこに行くか決まってないだなんて、嘘でしょー」
「えっ、なんでそう思うの?」
「女のカン」
「恐れ入ります」
「嘘。家具がないってことは引越し業者が来たってことでしょ。つまり行くアテがあるってことかなぁと」
「あたり。……決めてる」
「どこ?」
「行ってからのお楽しみ」
「えー、教えてー」
「だぁめ」
「もう……じゃあ早く行こー」
「業者には鍵渡してあるし、ゆっくり行こうよ。あっ、近くに温泉あるんだって、行こうよ」
「えっ、うん。行く」
「よし、行こう」
二人を乗せた車は温泉に向かって走り出した。


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