旧短編 | ナノ


雰囲気:シリアス ストーリー:甘め
※現パロ



心惹かれ合う。


(動き出す時間)


「これ、使って」
渡された合鍵。
「いつでもおいで」
笑ったサンジが見せた淋しい表情。
「あ…ありがと」
サンジの体温を帯びた合鍵を握り締めた。

ぶかぶかのパジャマを脱ぎ、丁寧にアイロンされた制服を着た。
(いつの間にアイロン…)
いつもより大人びて見えた気がした。
「aaaちゃん……なんでだろ、会った時よりも変わって見える……似合ってる」
サンジも同じことを思っていたようだった。
(多分、気持ちが違うんだろうなぁ)
サンジに会って変わった気持ち。
晴れた心。
与えられた優しさによって生まれた自信。
生きるという自信。
何かに立ち向かう自信。
「サンジ、私……ありがとう。いってきます」
「本当に送らなくていい?」
「うん……いいの」
「そう。いってらっしゃい」
サンジは笑顔をくれた。
靴を履くaaa。
「あ」
短いサンジの声。
「?」
aaaはサンジを見ようと上を向くと、屈んだサンジが耳元に唇を寄せた。
「またおいで」
低く囁く。
aaaは顔を赤くさせながら、それを隠すように出ていった。

(家にかばん取りに行って……そんで学校。うん、間に合う)
腕時計を見ながら早足で家に向かう。
見慣れた通りを曲がり、近道。
(着いた…)
随分早く家に着いた。
自分の居場所がない時点で"家"ではないかもしれないが。
がちゃりと扉を開けて、リビングにいるであろう両親に挨拶もせずに、二階の自室に向かう。
散らかった部屋にかばんが転がっている。
それを拾い上げ、教科書を詰めていく。
そして何も言わずに家を後にした。

少し乱れた制服を直しながら校門を通る。
(大丈夫…大丈夫…)
ざわつく心を落ち着けながら教室に入る。
席に座り、かばんから教科書やノートを広げる。
「ねぇ…いい?」
"いつもの人達"に声を掛けられた。
「ねぇ……こんなことして、恥ずかしくない?」
その人達を真っ直ぐ見据えて。
「!!、あんた…ナメてんの?」
ダン、と机を勢いよく殴られる。
「私をナメてるのはあんた達でしょ」
真っ直ぐ、瞳を見つめる。
しかし瞳は真っ暗で何も映してはいない。
(こんな目をしてるから……、自分が何をしてるかもわからないんだ)
己の机を殴った手を払いのけ、目の前に立つ子の胸をトンと叩いた。
「もうやめなよ。子供じみてる」
「なっ!何よ…!」
「なに、こいつ…」
顔を真っ赤にさせながらaaaの前から去っていった。
清々しい気分だった。
授業は怠く、休み時間は孤独だったけれど、aaaは希望に満ちていた。
(サンジ……)

授業が終わり、放課後。
かばんを持ってダッシュでサンジのマンションに向かう。
通った道は全く違ったはずなのに、すぐに辿り着いた。
「はぁっ、はぁ…!」
息切れも気にせず、セキュリティ万全の玄関をサンジのくれた合鍵で抜け、エレベータに乗った。
(最上階…っ)
一昨日を思い出す。
エレベータのボタンの最上階を押した。
そわそわと体を動かす。
(なんでかな……サンジに、会いたい。すごく)
チン、と音がしてドアが開くと、サンジの部屋に直行した。
扉に手を掛ける。
鍵が閉まっている。
(……いない?)
合鍵で開けて入ったサンジの部屋はうす暗く、夕日がカーテンを照らしている。
「サンジ…っ」
会えない淋しさ。
aaaは広くうす暗いリビングに入り、ソファに寝転がった。
テーブルにきちんと揃えられたテレビと冷暖房のリモコン。
テレビのリモコンを手に取り、ぴ、とテレビを付けようとする。
しかし、付かない。
(そうだ。本体付けないと…)
怠そうにソファから立ち上がり、大きな液晶テレビの電源を付け、またソファに寝転がった。
ギャーギャーと騒がしいテレビをよそに、aaaは睡魔に襲われ瞼を下ろした。

夕日も暮れて夜の七時半。
エレベータから出て部屋の前に立ち、扉のドアノブに手を掛けると扉が軽く音を立てて開いていた。
(鍵……閉めてなかった?)
がちゃりと扉を開くと、玄関に、一回り小さな革靴。
高校生が履くローファー。
「……aaaちゃん」
呟いて、即座に靴を脱ぎ捨てリビングに向かった。
暗いリビングに電源の付いた明るいテレビ。
それに照らされながら眠る少女。
サンジはaaaに歩み寄り、「ただいま」と言って頬にキスをした。
着ていたコートを制服のままのaaaにかけ、服を着替えた。
縦縞のスーツと黒いパンツ。
イスにかけてあったエプロンを身に纏い、キッチンへ向かう。
(何が好きかな…)
キッチンから食材を取り出し、料理し始めた。

良い匂いがする。
昨日みたいな、鼻腔を擽る――。
「おっ、お腹すいたっ!」
「今さっき出来たよ」
目の前で笑みを浮かべているサンジはしゃがんでこちらを見ている。
(えっ、ここ……サンジの家だ…!)
きょろきょろと部屋を見回すaaaにサンジは立ち上がり、手を差し出す。
「ご飯、食べようか」
aaaはサンジの手に己の手を重ねた。
「…うん!」
引かれたイスに座り、サンジは向かい側のイスに座った。
昨日と同じようにご飯を食べ、風呂に入った。
大きな浴槽はaaaの体全てを包み込む。温まった後、サンジの大きなパジャマを着た。
「サンジ。あいたよ」
ソファで教科書を読んでいたサンジの肩を叩く。
「うん……aaaちゃん…」
「ん?」
ソファから立ち上がり、サンジの手はaaaの着ているパジャマに――。
前にボタンが付いているシャツタイプのパジャマはぶかぶかで、上から眺めると胸元が剥き出しだった。
幼さの残る小さな、しかし色っぽい胸元へ手を侵入させようとした。
が、サンジはパジャマの襟を掴み引き寄せ、胸元を隠しただけ。
「見えてる。いってきます」
飄々と風呂場に消えていったサンジ。
aaaは引き寄せられたパジャマを掴んだまま、リビングに取り残された。
(みっ……見られてた。どうしよ、ブラジャー子供っぽかった…!)
パジャマから胸元を覗く。
途端、開いたリビングの扉に、aaaは驚きながら目を向けた。
「風呂出たら包帯代えるから!」
上半身裸のサンジがこちらを覗いたあとすぐにパタンと扉は閉められた。
「え…うん」
軽い返事ははたしてサンジに聞こえたのだろうか。
(はだかだった……!)
二十分も掛からずに風呂から出てきたサンジ。
昨日も見たはずの風呂上がりのサンジ。
しかしとても色っぽく見えた。
紅潮した顔を隠すために俯いた。
「…しようか」
事前に持ってきていた消毒とガーゼと包帯をテーブルに置いた。
そしてサンジは問うた。

「ねぇ、aaaちゃん。罪は許されると思う?」



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