旧短編 | ナノ


雰囲気:シリアス ストーリー:甘め
※現パロ



罪という名の重さで傾き続けてゆく天秤。
その左皿が沈み切る前に、力づくでも浮き上がらせるだけの"何か"が右皿には必要だった。


(出逢い)


真っ暗闇の夜。
降りしきる雨。
切られた手首。
流れ溢れる血。
傷だらけの体。
「大丈夫?」
手を差し延べたのは、金髪の男だった。

「おいで」
招き入れられた黒い車。
しかし決して派手なわけではなく、仁義なき人が乗るような車ではなかった。
「……」
薄い灰のような色の座席にちょこんと座ると、ゆっくりと扉を閉められ、男は運転席に回った。
そして車は発進した。
(もう、何をされても構わない……)
こんなズタボロの少女を拾ったとして、使うのは性欲処理か暴力的行為だろうと予測した。
しかしそんな仕打ちなど、家でも学校でも当然のように行われていて、少女にとって日常茶飯事だった。
「ねぇ……何て名前?」
口を開いた男は少女に名前を聞いた。
「あ……えと……んん…、」
少し戸惑ったあと、小さいながらに名前を告げると、男は己の名前を応えた。
男はサンジという名前らしい。
「サンジさん……どこ、行くの?」
「aaaちゃんはさ、どこ行くと思う?」
バックミラーからこちらを見るサンジの顔は悪戯な顔をしていた。
その顔に、どこか心を惹かれた。
「……山?」
「ははっ!捨てたりなんかしないから、大丈夫!おれの家に行くから」
サンジはくすくすと笑い、aaaもつられて笑った。

サンジの家があるところは、有名な芸能人が何人も住んでいるといわれている場所だった。
都市に近い分、土地の値段も高く、少し丘のところにあるから眺めは最高だとか、そんな話をテレビでしていたのを覚えている。
(こんなところに住むサンジさんって…)
車が止まった。
見上げると車からでは最上階が見えないほどの、マンション。
「ほら、おいで」
ドアを開けられ、出会った時と同じ様に手を差し延べる。
aaaはその手に己の手を重ねた。
「!」
ぽたりと落ちた手首の傷からの血が、サンジの白いシャツに赤い染みを作った。
「ご、ごめんなさ…!!」
「いいよ。行こうか」
aaaの手を強く握り、マンションのエレベータへと連れていかれる。
aaaがエレベータに乗ったのを確認すると、ボタンを押した。
最上階を示すボタンが光っていた。
「サンジさん……何の仕事してるの?」
「そういう話は部屋に着いたら、ね」
そう言ったのと同時に、エレベーターが最上階に着いた。
サンジとaaaはエレベーターから降り、そこを左に曲がった。
パンツのポケットから裸の鍵を取り出し、がちゃりと扉を開いた。
「わぁ…」
広い部屋だった。
aaaの家は一軒家だったが、己の居場所が家に無いせいか、それよりも広く感じられた。
「驚くほどでもないよ」
「……謙遜しなくて、いいですよ」
電気を付けたリビングのソファにaaaを座らせ、サンジはどこかに消えていった。
「……サンジ、さん?」
「んー?」
暗闇から声がした。
すると、突然ゆらりと現れた影。
サンジが救急箱を持って来た。
「……aaaちゃん。腕見せて」
aaaの隣に座った。
「…へ?」
「手首」
「あ…」
サンジに見せた手首の傷は、ぱっくりと開いて血を流していた。
手首は冷たく、痛みすら感じない。
降っていた雨のせいか。
「痛くない?」
「……はい」
「そう」
サンジは救急箱を開け、aaaの手を掴んで消毒液をこれでもか、というくらいかけた。
「いっ!やだっ!!」
傷にしみた消毒液は痛みを発し、aaaの体を支配する。
反射的に腕を引っ込めようとするが、aaaの手を掴むサンジがそれを許さない。
「消毒は痛いもんだよ」
サンジは飄々とした表情で言う。
びりびりと痛む腕に、もう片方の腕の指の爪を立て痛みを我慢する。
「あっ」
変な声が出て、咄嗟に唇を噛み締めた。
「……」
サンジは無言で傷の手当を進める。
ガーゼを宛て、包帯を巻く。
「……血は出てるけどそんなに深くは切れてないみたいだから、すぐに治ると思う」
「……ありがとう、ございます」
「いいえ」
綺麗に巻かれた包帯を見遣る。
「あの…、何で、こんなこと…」
「なんでかな……、自己満足…?」
顎に手を当て云々と考えるサンジ。
「酷いことは……しないよ」
サンジはaaaの頭を撫でた。
「約束」
す、と差し出されたサンジの小指。
サンジは笑っていた。
「……うん」
その小指に己の小指を掛けると、「指切りげんまん」と歌い出すサンジが子供っぽく、aaaは笑っていた。
「なんで笑うのっ」
こつん、と額をaaaの額に当てたサンジ。
「いたっ!、もうっ」
くすくすと笑い合う二人。
今さっき会ったばかりとは思えない光景だった。

「あ。おれのことは呼び捨てでいいよ。敬語も、いい」
「え…っ、は、…………うん」
長い間の後、こくり、と頷くaaa。
サンジは視界の端でそれを見ながら、テレビのリモコンをテーブルから取り、ぴ、と音を立ててテレビを付けた。
「何か見たいの、ある?」
「ない、な……あんまりテレビとか見ないし」
「じゃあ適当に」
サンジは深夜のバラエティ番組に変えた。
二人はテレビに向かい合うようにあるソファに深く腰を掛け、テレビを眺めた。
次第に重くなる瞼。
隣にいるサンジの肩に頭を預け、いつの間にかaaaは眠ってしまった。



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