旧短編 | ナノ


※シリアス甘


「好き」と言ったことがなかった。
多分、それがいけなかったんだろう。


臆病者への天罰


天罰が下った。

ゾロはようやく部長というそれなりの地位を得た仕事で部下にあいさつをして家に帰ってきた時に、目を疑うような、信じられないものを見た。
これが天罰か。
そう思った。
ソファに寝転がっている、いや、倒れている女。
ソファから頭がはみ出して、だらんと床に向かって垂れている女の頭。
「んだよこれ…」
最愛とも言える女が「おかえり」も言わず倒れている。
最悪な状況だ。
ゾロは屈んで、aaaの頬を平手でぺちぺちと叩いた。
反応はない。
「…やべぇ!」
ゾロはやっと事の重大さに気が付いたのか、携帯を握り潰すように掴んだ。
「119」とボタンを押す。
救急隊が来るまでの数分、自分で人工呼吸と心肺蘇生をしろと電話越しに言われ、ゾロは言われるがままに電話を切ってから、aaaの前に座った。
ソファにちゃんと寝かせて、気道を確保する。
息を肺いっぱいに吸って、aaaに空気を送り込んだ。
(aaa、生き返れ!)
人工呼吸をして、心肺蘇生をする。
(息が…息をしない…)
半ば絶望しつつ、諦めず何度もしていると、やっと救急隊が来た。
急いで担架に乗せて、救急車に運ばれた。
ゾロもその救急車に乗り、病院に行った。

aaaが搬送された病院で、ゾロは手術後の医師と話した。
「脳の血管が切れていました。手術は成功しましたが、意識が戻るか……。戻っても、後遺症が残るかもしれません」
医師の診断に、ゾロは呆然と聞いていた。
(仕事ばっかしてaaaに好きも言わずにいたからこんなことになっちまったのか)
aaaの脳が写し出されたそれを、じっと見つめていることしか出来なかった。

ゾロはaaaの眠る病室を訪れた。
ピッピッと機械音が部屋全体を包んでいた。
管だらけのaaa。
まるで機械そのものみたいだ。
「…ばっかじゃねぇの。おれを驚かせるためにどんだけしてんだ」
aaaはゾロを驚かせるために色んなことをしていた。
しかし、aaaにとっても不意打ちのサプライズだっただろう。
脳の血管が切れるということは。
「aaa、好きだ。まだ、ちゃんと言ったことねぇだろ」
さらさらとaaaの頭を撫でる。
髪はゾロの手を避けていく。
「ちゃんと言わせろよ…aaaの前で」
臆病だったから言えなかった言葉。
言ったら、言ったら築き上げてきた何かが壊れてしまうような気がしていたから。
「aaa…愛してる」
ベッドに手を置いて、ゾロは未だ目を開かないaaaにキスをした。

ああ、王子様のキスで目が覚めるってのは、ほんとのことだったのか。

キスは瞳を閉じてするものだとaaaに教えられていたゾロが唇を離した時に目を開けると、aaaと目が合った。
「!、aaa…」
「…そういうのは、私がちゃんと起きてる時に言ってよ」
ふ、と笑ったaaaに、淡く涙が流れた。
「悪ィ…ほんと」
「あと、ここ、どこ?病院、なのかな?」
部屋を見渡すaaa。
上手く体が動かせないのか、体を起こすのにもゾロの補助が必要だった。
「aaa、おまえ倒れたんだ、脳の血管が切れて」
「うそ…、すごいね、そんなこと……自分にはないと思ってたから…」
手をぐっぱっとしてみるが、自由に動かず、震えている。
後遺症か、これが。
「……ゾロが泣くのなんて珍しいね」
ゾロの頬を伝う涙を拭ったaaa。
「てめぇのせいだ……」
白いシーツのベッドに腰掛けたゾロ。
「…私ね、リハビリする、そんで前みたいに家事出来るようになるから」
にっこりと笑うaaa。
まるで何もなかったかのように、日常的で、普遍で、変わらない笑顔。
(…後遺症に汚されなくてよかった)

「お嫁にもらって、ゾロのお嫁さんに」

aaaの告白に、目を丸くして、それからうなだれた。
「ぎゃ、くプロポーズ……しかも今、なんで…」
はぁ、と大きく溜息を吐いてゾロはaaaの顔を窺った。
さっきまで生死をさ迷っていた人物には見えない。
「…ゾロに好きって言われたら、結婚しようと思ってたから」
「……てめ、」
「私もね、ゾロ。ほんと好き、愛してる」
服のはしを強く引っ張られて、aaaの上に倒れ込んだゾロ。
「aaa…、愛してる」
「うん…」
二人はキスをした。

「結婚しよう」
退院した後、aaaはゾロから給料三ヶ月分の指輪とプロポーズをもらった。



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