雨の日のバースデー

6月。世間では衣替えと同時に梅雨の時期に入る頃だが、最近は雲一つない晴天が続いていたせいで油断していたかも知れない。

(どしゃ降り……)

放課後を迎える頃には雷を伴った大雨で、さすがに部活も中止になった。今日に限って折りたたみ傘すらなく、置き傘もしていなかった。朝のニュースで自信満々に晴れと伝えた天気予報士に心の中で文句を言いながら、走ろうかとラケットバッグを肩に背負った瞬間、背後から肩を叩かれた。

「不二」
「……乾、どうしたの?」
「今から帰るのか?」
「うん、傘忘れちゃったから走ろうかなと思って……姉さんも母さんも留守みたいだから」
「じゃあ、途中まで一緒に帰るか?良ければ俺の傘に入ったらどうだ」
「いいのかい?」
「ああ、もちろん」
「ありがとう、お言葉に甘えようかな」

乾の広げた大きな傘の下に不二が入るのを確認すると、乾は歩き出した。さり気なく不二の方に傾けて濡れないように気を遣っていることを悟り、不二はフフ、と口元だけで笑った。

「乾は今日雨が降るって知ってた?」
「あぁ、天気予報は晴れだったが、なんとなく降る気がした」
「そっか。……そういえば、乾と二人っきりで帰るのって初めてだね」
「そうだな、不二は英二と一緒だと思ってたが」
「日直だから大石と帰るって」
「なるほど」

ザアザアと、止む様子のない大粒の雨が傘に当たって煩い。それでも、ふたりの間には静かな時間が流れた。

「そうだ、乾。ちょっと喫茶店寄ろうよ、駅前の」
「喫茶店?別に構わないが……珍しいな」
「たまにはね」

雨のせいで少し混んだ駅前の喫茶店に二人で入る。コーヒーふたつと、カットケーキをひとつ。

「不二、これは?」
「朝練の時に言い忘れてたけど、今日誕生日だろ?僕の奢りだから食べて」
「……本当に忘れてたのかと思った」
「まさか」
「相変わらず読めない奴だ」

乾も苦笑してフォークを手にする。普段ほとんど甘いものは摂らないが、今日くらいならいいかも知れない。

「ありがとう、不二」
「どういたしまして」

予報外れの雨に感謝しながら、乾は甘味越しに不二を見つめた。



End







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