あいにくの雨模様な休日。
常ならば、二人でどこかへ出掛けているのだけれど。
特に行きたい場所もなかったので、久方ぶりに私の家でのんびりと過ごしていた。
音楽を聴いたり、本を読んだり。
お互いに言葉を探す必要もなく、会話は少なくとも傍に居るだけで心地良い。
そんな理想的な関係である彼の存在は、私にとってとても貴重だ。
いつからそんな関係になったのか、もう記憶には残っていない。
彼が私の店へ初めて訪れたのは、随分と昔の話だから。
けれど職業は全く異なるのに、休日が重なることが分かり。
私から声を掛けたことだけは、はっきりと覚えている。
そして彼が、その誘いに笑顔で頷いてくれたことも――…
普段なら外で済ませてしまう食事も、今日は私の家でとっている。
朝は二人揃って遅くなってしまった為、昼と兼用になってしまったけれど。
その時は、当然のように私がブランチの用意をして。
当たり前のように二人で食べている時、ふと思い立ったのだ。
彼の手料理が食べてみたい…と。
思ったままにそれを伝えれば、彼は困ったように顔を顰めて。
何が食べたいのだと聞くものだから。
あまり手の込んだものは可哀想かと思って、パスタで良いですよっと答えて返事を待った。
しばらく思案した後、渋々といった風に分かったと言うので、気にはなっていたものの。
まさか、独り身の彼がほとんどキッチンに立ったことがないと言うのだから、さすがに私も驚いた。
いざ、夕刻になって準備を始めてみれば。
家にある材料が、ナスとベーコン、そして缶詰のトマトソースくらいだったので。それなら簡単に出来るだろうと思っていたが、すぐに甘かったと思い直した。
ナスもベーコンも、ただ切るだけだというのに。
彼の包丁を握る手つきが、とても危なっかしいから。
つい、私も手を出してしまった。
それにパスタだけでは物寂しいから、サラダやスープも追加だと告げると。
少しばかり不服そうな表情を見せたので、私も手伝いますよと言えば。
彼があからさまにホッとした顔をしてみせるものだから、私は思わず苦笑を浮かべた。
結局、キッチンに二人並んで立つことになり。
それでも十分な広さはあったけれど。
長身な彼が隣に立つというだけで、手狭に感じるのは何故だろうか。
「君は…もう少し、料理が出来ると思ってたんですが」
「悪かったな、不器用で」
切り終えた材料をフライパンへ放り込み、順番に炒めている彼の隣で私は溜息を洩らした。
彼は拗ねているのか、手元から目を離そうとしない。
別にそこまで見ていなくても、手は動かせるはずなのに。
「普段の食事は、どうしてるんデス?」
「…朝はパンとコーヒーで十分だし、昼は職場の調理師が作ってくれる。夜は、おまえの店で済ませるから、作る必要がない」
それならばと納得しかけて、慌てて首を振る。
さりげなく嬉しいことを言われた気もするが、ここはしっかりと確認しておかなければいけないだろう。
喜ぶのは、その後でも遅くはない。
「休日は、そうもいかないでしょう?」
「本気でそれを聞いているのか?」
「まさか」
ようやく、彼がこちらを振り向いた。
訝しげな視線に、私は肩を竦めて笑みを返す。
休日はどうしているかなんて、私が一番よく知っている。
ただ、少し聞いてみたかっただけだ。
彼が私と過ごす日のことを、どう思っているのか。
「迷惑だったか?」
「…君こそ、本気で聞いてるんですか?」
「いいや」
予期せぬ言葉に、反応が遅れてしまった。
それに対して、事も無げに振舞う彼が憎らしい。
「分かってるなら、いちいち聞かなくても良いじゃないですカ!」
「ははっ、これでお相子だな」
軽く怒りをぶつけてみれば、さらりとかわされて。
すっかり毒気を抜かれてしまった私は、再び溜息を吐いた。
「何を子供みたいに…」
「毎日、そんな子供を相手にしているのだから、仕方ないだろう」
「そういうのを、職業病って言うんですヨ」
「…確かにな」
小さく笑う彼につられて、私も思わず笑ってしまう。
そういう子供っぽいところも、時折見せてくれる頼りがいのある姿も。
どちらの彼も嫌いじゃない。
私が無条件で傍に居て心地良いと思える、唯一の相手だから。
些細なことは、簡単に許してしまうのだ。
今までも、そしてきっとこれからも。
彼の傍に居られるなら。
食事を作ることくらい、造作もないことだ。
いっその事、嫁にでもなってしまおうかなんて。
そんな可笑しなことを考えてしまったから。
堪えきれなくなった私は、クスクスと声を上げて笑った。
2010/06/21
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我が家が一万打のときにリク受け付けますよーっと現れてくださった女神様:晴加さんに現パロ仄々で二人で料理、という曖昧なリクを押し付けて書いていただきました!本当にかわいいよ二人とも……っ!
もう本当にブレイクはレイムさんとこに嫁げばいいよ!!←
晴加さんの保育士×バーテンねたが好きだったのでその流れで書いていただけて本当に嬉しいです……!ありがとうございます!ありがとうございます!(平伏)
これからもよろしくお願いいたします…!