相互記念
夜半、レイムはやっとの思いで仕事を終え、自室へと続く廊下を歩いていた。既に明かりは消され、行く先を照らすのは窓から差し込む星明かりのみだ。もう見慣れたそれに感嘆をもらすことはなくなったが、僅かな光が伸びる様は神秘的で、夜の廊下を歩くことはどこか癒された。
身に付けている制服が重い。早くシャワーでも浴びたいものだと自室のドアを開くと、明かりがついていた。何故だと思うこともなく、ああ、来ているのか、と部屋へ入った。
「ザークシーズ、…?」
予想した人影は見当たらない。首元のスカーフを緩めながら、チラチラと視線を配る。ベッドへと脱ぎ散らかされた制服を見つけ、またアイツは、とため息を溢した。
部屋にはいない。ならばまた、だらしなくあの場所にいるんだろうと投げ出された制服を後回しにしてタオルを片手に部屋を出た。
夜は完全に更けた。月が見えるならば、彼の行き先は階段の踊り場だろう。いつもではないが、彼はよくその踊り場の窓を開け放し、空を眺めている。
制服が脱ぎ散らかしてあるのを見ると多分シャワーは浴びた。だからこそのタオルだ。
(私も慣れたものだ)
自由奔放すぎる彼の扱いは、果たして自分以外に務まる者がいるだろうかとさえ思う。
目的の踊り場につけば、やはり彼はその窓を開け放し、空を眺めていた。まだポタポタと滴る水滴に更にやはりと思いながら、歩みより、声をかけるより先にタオルを彼の頭へと被せた。
「…レイムさん?ですカ」
「私以外に誰がいる。また満足に髪を拭かないで…風邪でもひいたらどうするんだ」
「知らないんですカ、心の清らかな人はー」
「いいから、少し黙れ」
やっと振り向いた相手をいいことにレイムはタオルでブレイクの髪を拭った。別にいいというのを無視して、白銀のそれをタオルで包んではその水気をとる。
見れば髪から垂れる水分は肩までをも濡らしていて、レイムは自分の上着を脱ぐとそれをブレイクに羽織らせた。
「別に寒くないですヨ?」
「そういう問題じゃない」
「…君って本当、おせっかいというか…」
もうおせっかいでも何でもいいと再び髪に触れた。ブレイクはまるで惹かれるようにして視線を再び夜空へと戻してしまう。
レイムは手を止めずにブレイクと同じように夜空を仰いだ。まるで砂塵のように散らばる小さな星の上、半分以上欠けた僅かな月が見えた。
「三日月か…?」
「いや、もう三日月ですらないですヨ」
「まぁ…そうだな」
頬杖をつきながら気ままにただ夜空を眺めるブレイクは何かに陶酔しているようで声をかけるのを躊躇わせる。
しかしやがて彼から静かな声がかけられた。
「よく…なくなった人は星になるっていいますよね」
「ああ」
「でもそんなこと」
誰も分かる筈がありませんよね。レイムはもう水気のなくなった髪からタオルを外す。月明かりに照って白くなびくそれは此方に有無を言わせない。
「ね、レイムさん」
「なんだ」
「あれ、見えますカ」
彼が指差したその延長線上には寄り添うようにした2つの星があった。
「あれ。レイムさんみたいですよね」
「……は」
「何時だって君は、あれみたいに。…私の側にいてくれますカラ」
「…結構大変なんだからな」
そうですか、とブレイクは小さく笑うと何か思いついたように、レイムの上着を楽しげにはためかせ、階段を駆け登った。
「おい!どこ行くんだ…ッ」
もっと近くから見ましょうよ、アレ、とブレイクは階段をピョコピョコと登る。
私は疲れているのに、とグチを小さく溢しながらレイムはその背を追った。どうやらレイムを待つ気はないらしく、どんどんと先を行く背中。それが妙に悔しくて、レイムは足を叱咤して彼に追いつくと、その背を自分の胸へと引き寄せた。
「ちょっと…何ですか」
キョトンと見上げてくる紅玉に、先に行く奴があるか、とわずかに荒い息で応えてその腕をひいた。
「あれみたいだと言うなら、勝手に行くな」
一緒に行こうと素直に言えないのがもどかしかったが、彼ならばそんな素直でない自分のこと等、手に取るように分かるのだろう。代弁するかのように、じゃあ一緒に行きますかと言われ、レイムは頷いた。
階段を登れば登るほど窓から差し込む光は淡く強くなる。二人が歩く先は白い光の道がしかれたようにゆらゆらと揺れる光の帯があった。
ずっと側にいれたら、と。望むのは幼稚なものに思えたが、レイムは握りしめた手に、そうであればいいのにと思いを馳せる。
頭上に広がる光の粒を求めて、不揃いな歩みを二人はまたひとつ進めた。
Fin.
朧月様宅との相互記念でレイブレ仄甘。…仄甘になっていたら幸いです(笑;)なんだろう、とりあえず世話を焼くレイムさんと手を繋ぐ二人と天体観測する二人を書きたかっtt(明らかに詰め込みすぎ)こんな拙いものですが良かったら受け取って下さいませ。この度は相互ありがとうございました(*^ω^*) これからも宜しくお願いします*
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相互記念にcrisisのカナタさんに書いていただきました…!情景が脳内に完璧に再生されましたよ!文才分けてくださいませんか?←
仄甘レイブレをありがとうございました!こちらこそこれからもよろしくお願いしますね!^^