それから何事もなく平和に時が過ぎ、子供達も大きくなった。
毎日家の中を、物を壊さんばかりの勢いで元気にはしゃぎ回っている。
しかし、時折はしゃぎすぎてお互い後に引けなくなることも…。
「お父さん…開司が苛める…」
涙目で縋り付いてくる我が子、しげるがカイジの袖を引っ張る。
また開司がゲームでしげるに勝負を仕掛けて、負かして遊んでいるのだろう。
「こら、あんまりしげるを苛めるなよ?」
しげるの頭を優しく撫でながらカイジが言うと、開司はブスッとした顔になって言い返してくる。
「母さんに似てるからって、しげるばっか甘やかしてさ…」
「お前なぁ…素直じゃねぇその態度、ホント母親似だな…」
「…カイジさん、何か言った?」
「べっ、別に何も…っ?」
料理をしていたアカギが振り返らずに、刺々しい問いかけをしてくる中、カイジは急いで返答する。
ふーん…と納得していないような返しと共に、また静かに料理を続けるアカギ。
その背中を見ながら、ホッと溜め息を吐くカイジだった。
「…それより、お前ホント勝負に強いんだな」
カイジは自分に容姿が似た子に向かってそう言ってやると、開司は嬉しそうにヘヘッと笑う。
褒めて貰えるのが嬉しいらしい。
だが、勝負強さはアカギの遺伝だろうな、と思った。
ぶっちゃけ、多分だがカイジの勝負運の悪さはしげるに遺伝してしまったようだ。
毎回開司に負けて、勝てない見込が見えると此方へ縋り付いてくるからである。
カイジが開司に此方へ来るように手招きすると、素直に寄ってくる。
しげるにしたような、優しい手つきで頭を撫でてやると、彼もまた喜んだ。
胡座をかいているカイジの足下には左右にそれぞれ、しげると開司が座っていた。
「ねぇお父さん、一緒に遊ぼう」
そう言ってしげるが言うと、開司も同調してくる。
「遊ぼうお父さん!良いだろ?」
笑顔で頷いてやり、何をしようか考えていると…。
「…みんなご飯出来たから、食べよう」
そう言ってアカギが皿を運ぶ姿で声を掛けてきた。
それを見て、カイジはピンッと良い遊びを思い立つ。
「よし、良い遊びを思い付いたぞ…っ!」
「なになに?」
「どんなっ?」
しげると開司が興味津々で聞いてくる。
「飯を食い終わった瞬間から開始だ…これは勝負だからな?内容は………」
アカギに聞こえないよう、小さな二人に耳打ちしながら勝負の内容を伝えていく。
すると二人は小さく頷きながらクスクス笑った。
「良いか?二人とも、分かったな?」
同時に頷いた二人を見て、ほら行け、とカイジが背中を押してやるとダイニングの机に駆け寄っていった。
一歩遅れで席に着いたカイジに、アカギが不思議そうな視線を送ってくる。
「どうかしたか?アカギ」
「いや、今なんの話をしていたのかと思って」
「別に大したことじゃねぇよ、次は何して遊ぼうかって、三人で決めてただけだ」
なっ?と二人に向けて言うと、幼い二人は笑顔で一緒に頷いた。
そう…とアカギが零しながらエプロンを外し、席に着く。
頂きます、とみんなの声が重なると食事が始まったのだった。
あれやこれやと他愛ない話をしながら笑いの絶えない食事が続く。
次期に皆が食べ終わると、全ての皿は綺麗に平らげられていた。
アカギに続きながら、開司としげるが一緒に片付けのお手伝い。
それが終わった瞬間、彼らの脳内にゴングが鳴り響いた…勝負という名の遊びの開始だ。
「なぁ、お母さんっ!聞いて聞いて!」
洗い物をするアカギに、まずは開司が詰め寄った。
あっ…と先を越された感を小さな声に表すしげるは、隣でやり取りの様子を見守る。
「フフッ…どうしたの?」
「質問!お母さんはオレとしげる、どっちが好き?」
「そうだね…どうだろう、でも急にどうして?」
「ただ聞きたくなっただけ、なぁオレの方が好きでしょ?」
「そう…二人とも好きだよ、同じくらいね」
「ふーん…お父さんはしげるに甘いから、きっとお父さんはしげるが大好きなんだろうけど」
その瞬間、アカギの洗い物をしていた手が一瞬止まった。
「…きっとお父さんも二人を同じくらい好きだと思うけどね」
「なになに?お母さん、どうしたの?一瞬止まらなかった?」
「別に?…」
「そっか…じゃあお母さんの大好きな人は誰?」
「それは勿論、お父さんだよ」
柔らかくニッコリ笑ったアカギの顔を見て、開司は負けた…と一人項垂れてリビングの方へトボトボ歩いていった。
その様子に、一人残されたアカギは?マークのまま小首を傾げた。
「ねぇ、お母さん」
すると今度はしげるが、アカギの服の裾を引っ張る。
「どうしたの?」
「お母さんとお父さんは、どっちが強いの?勝負すると」
一瞬ポカンとした顔を浮かべたアカギは、少し考えると結果を答えた。
「多分だけど、オレの方が強いと思うよ…でも、なんで?」
「ふ〜ん…だったら、開司よりオレの方が強いよね、だってお母さんに似てるから」
にこやかに言ったしげるに、アカギはあからさまな苦笑い。
アカギも普段から二人の勝負は見物していることが多く、その差は歴然。
何をやらせても開司の方が一枚上手。
だがしかし、しげるにも一点開司に勝る事が無いわけでもないわけで。
「…まぁ、勝負は時の運にも寄るからね…でも、手先の器用さなら負けないんじゃない?」
「そうなの…?」
「そうだよ、だって…お父さん譲りだからね、そこは」
そう言ってニコッと笑ったアカギに、しげるも嬉しそうにそっか!と笑ってリビングに去っていった。
またもやアカギは、今日は二人ともどうしたのかと疑問に思いながら小首を傾げる。
すると今度は…。
「なぁ、アカギ」
「今度はカイジさん?一体今日はどうしたの、みんな揃って」
「子供の知りたい病なんて今に始まったことじゃねぇだろ?」
「まぁ、そうだけど…で、カイジさんは何の用なの?」
ニヤニヤと笑っているカイジの様子に、少なからず企みを感じたアカギは目を細めつつ呆れた顔をして見せた。
「いや、二人にお手本を見せてやろうと思ってさ」
カイジの言っている意味が、全くと言って良いほどアカギには分からなかった。
お手本とは、一体なんのことか。
「…どう言う事?」
聞いてみても、ただニタニタと笑っているだけのカイジに段々と顔を顰めたアカギがいた。
「…不気味なんだけど…一体なに?」
すると、急接近してきたカイジが押し退ける隙も与えずにアカギの唇を奪った。
子供の前でなんて事を!と思ったが、背には台所、腰にはカイジの腕が絡みついていて逃げることも出来ない。
「…急になにっ!」
やっと開放されたと思えば、ドヤ顔で視線を送ってくるカイジがいる。
「…ばかっ」
「ん?顔が赤いな…どうした?アカギ」
「うるさい…」
目を逸らして視線を泳がせている時点で、完全に自分が負けたのだと確信すると余計に顔が火照ってしまった。
ククッと笑ったカイジは、後方に振り返り一言。
「分かったか?お母さんの困らせ方はこうだ…この勝負、お父さんが貰ったぜ?」
お前ら詰めが甘いなと笑っているカイジと、流石お父さん凄い!と目を輝かせているしげるに、お父さんだけずるいよっと講義している開司がいる。
そしてその傍ら、どす黒く強烈な怒りのオーラを纏ったアカギがいる事も忘れてはいけない。
その後、こっ酷く叱られた三人だった。
まぁ主に怒りをぶつけられたのは、そんなバカみたいな遊びを提案したカイジだったが…。