ある日の事だった。
しげるを失って早一ヶ月が経とうという頃、ついにカイジは再会する。
一時期はあまりの悲しみにどうにかなってしまいそうで、心が折れて発狂してしまいそうだったが、周りの仲間たちに励まされて何とか持ち直して今までやってきた。
その苦労と探していた努力が報われたと、カイジが思った瞬間だった。
しげるが現れたビルの角からもう一人、かなり良く見る知った顔の男が出てきたのだ。
それはなんと、カイジと全く同じ顔だったのである。
「…し、しげる…そいつ、何なんだよっ?…」
同じく驚いているような、しかし何処か後ろめたさがあるような表情を作っているしげるは、俯いて口を噤む。
カイジが驚いているように、回りの皆も心底驚愕していた。
全く同じ顔の人間が二人もいるなんて事が、おかしくて堪らないからである。
「な、なんでカイジさんが二人いるんすかっ!?」
「カイジ…お前双子だったのかっ!?」
「うわぁ、二卵性双生児なんて始めてみたよー!」
「…瓜二つだ」
「こりゃあ、たまげたな」
「銀さん…これは…っ!」
佐原、一条、零、涯、銀次、森田がそれぞれ思った事を口々に言う。
しかし、背後に控えているフードの男だけはただ黙って、その光景に目を向けていた。
「んなわけねぇだろ!…オレは正真正銘姉貴と二人姉弟だっ!」
静まれと言わんばかりに叫んだカイジは、すぐにしげるへと向き直る。
「しげる、兎に角無事で良かったぜ…さぁ、来いよ」
「………」
だが、動かない。
しげるは一歩もその場から動こうとしなかった。
「なぁ、しげる?…どうしたんだよ、早くこっちに…」
「…ごめん、オレは行かない」
しげるの口から発せられた言葉を聞いた瞬間、カイジの思考は固まった。
今なんと言ったか?行かない?それに、ごめんとは何故?
理解できずに固まっているカイジへ、しげるは更に続けた。
「オレが一人のとき、ずっと傍にいたのはこっちのカイジさんだった…だから、アンタの元には帰れない」
「おい、しげる…」
「それにアンタは一人じゃないでしょ、沢山周りに人が居る…だからオレは必要ない」
「んなわけあるか、しげるっ…」
「第一、あの時心配ならどうして来てくれなかった?…とどのつまり、オレのことはどうでも良かったんでしょ、行動が物語ってる」
「…しげる…っ!」
目の前が真っ暗になるのを感じ、カイジは悲痛な表情を浮かべながら俯いた。
しげると離れていた間に、彼を忘れたことなど一度も無かったというのに。
「ちょっと言い過ぎなんじゃないんすか?」
すると、佐原が困ったように口を挟んだ。
「そうだ、カイジを立ち直らせる為にオレ達がどれだけ苦労したことか」
そう言って、一条もため息を吐きながら言った。
「オレが出会った時も、まるで死人なんじゃないかってくらい、落ち込んでたしね」
零もカイジに目を向けながらそう言う。
「同感だ…生気をまるで感じなかった」
涯も他の者たちと同じく、カイジの当時の様子を簡潔に語った。
「…それでも、オレは彼を選ぶから」
そう言って突っぱねるしげるは、首を一切縦に振ろうとはしない。
これはまたカイジが落胆し、立ち直らせる為の苦労が再来する予感がすると、周りの者たちは思っていた。
しかし、そんな時唐突にフードの男がスッと前に歩み出、そして…。
「なんでそんな選択をしたのかね…後悔するのは自分自身だってのに」
俯いていたカイジも、そっぽを向いていたしげるも、その他周りの者たちも皆、フードの男へ視線を向けた。
小さくため息をついた男は、仮面越しでカイジを見る。
「カイジさん…このために、オレは戻ってきた」
突如言い出した言葉に、カイジは意味が分からず首を傾げた。
「オレは全てを知っていた…アンタが辿る道筋を…まぁ、離れ離れになっている間のことは分からなかったけどな…」
「…お前、何言ってんだよ」
「今見せる…オレの素顔を」
言った男は深く被っていたフードを剥ぐ。
そこにはしげると同じような、透き通る白い髪があった。
まさかと思う。
続けて男は、顔を覆っていた仮面を剥いだ。
そこには…しげると全く同じ顔。
いや、正確には少し大人びた顔があった。
「うぇっ!?しげるさんまで分身したっ!?」
佐原が驚愕しながら交互にしげるとアカギの顔を見る。
「いや…正確には同一人物ですよ…そこのオレとね」
そう言ってしげるを見たアカギはククッと笑った。
「…だったら何、幾ら自分に言われても俺は意見を変えるつもりは無いから」
「分かってるさ…オレはお前なんだぜ?」
全ての者が愕然とする中、普通に会話を続ける二人の赤木しげる。
「…未来から来たとでも言いたいの?」
「その通り…今から6年後のお前って事、だからどういう風に全ての物事が運ぶか粗方分かってるさ」
「アンタが俺なら、傍にこのカイジさんが居るはずでしょ…なんで戻ってきたの」
「いずれ失うからさ…そこのカイジさんをな」
「…っ!」
「まぁ、今のお前には何を言っても無駄ってのは分かってんだよ…当然オレも、過去にこの状況は経験したから言える」
しげるは傍に居るカイジに視線を向けた。
向けられた本人は困惑した顔をしている。
「オレがお前と同じ状態だった時…オレ自身が会いに来た…そして気を変えさせようとした…だが、オレは今のお前のように突っぱねた」
「…おかしいでしょ、このカイジさんは居なくても、そっちのカイジさんは居るはず…裏切られたってひたすら嫌われてんの?」
「それならまだ救われるさ…」
「…?」
「まぁ、関係ねぇんだそんな事は…オレが言いたいのはただ一つ…お前の気を変えるつもりで来たわけじゃない、お前が誰の元に付こうが構わないって言ってんだよ」
キッと鋭くした視線でしげるを睨み、アカギは続ける。
「本物のカイジさんはオレが貰うってこと…どの道、この時代からじゃ元の時代には帰れない…だったらお前なんて相手にしても仕方が無いのさ」
「…本物ってどういう事、それにそっちのカイジさんに何があったの」
「関係ねぇな、今のお前には…結局カイジさんを失うことになったのは自分の責任…その尻拭いをしに来たってだけ」
「…なぁ、聞かせてくれよ…オレにはそれを聞く権利はあるんだろ?」
そこで漸くカイジが口を挟んだ。
アカギは鋭い視線から穏やかなものに変えて、カイジに視線を合わせる。
「そもそも、何で未来のお前がここに来られたんだ?」
カイジの問いに、アカギはゆっくりと口を開いた。
「…6年後には時空転送装置ってのが出来てるのさ、それで来た」
「じゃあ、もう一人のオレを失うって時に、助けてやる事は出来るだろ、全部知ってんだったら」
「過ちの原点になった者を助ける理由なんて、オレが持ち合わせてると思ってんのか?カイジさん」
「…まぁ、お前はなぁ…って言うか、オレがこの質問をするって事も分かってたのか?」
「いや、そこまで詳しい事を前のオレは言っていなかった…だからこの会話は初めてさ」
「あぁ…そうか、じゃあ最後にもう一つ聞いて良いか?」
「構わないぜ、カイジさん」
「お前の時代のオレは…何処にいるんだ?」
その瞬間ピタリと口を閉じたアカギは、地に視線を落として微かに眉を寄せる。
自ずと見えてくる、自分の未来。
「…墓ん中か…」
ボソリと悟ったように呟いたカイジの言葉は、アカギを更に苦しめたようだ。
グッと拳を握っているアカギの姿があるからだ。
そして気付く、アカギの明確な目的が一体なんなのかを。
「お前…自分の行いがどうとか、そんなもん元から関係ねぇ…何より変えたいと望んで来たのは、オレの事なんだろ?」
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